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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第689回:北斗星の迂回路 - 函館本線 長万部~小樽 -

更新日2019/07/04



長万部駅舎に入ると、蛍光灯の青白い光が溢れていた。なにもかも白い。そして人はいない。もうすぐ、苫小牧行きの始発列車が発車するけれども、改札口は無人。改札口に自動ドアがある様子が寒い国らしさだと思いつつ、ドアの窓ガラスに「18時45分から07時00分は駅係員がいない」と表記されていた。夜間早朝は無人駅だ。将来、新幹線が停まる駅だというのに。

01
長万部駅の告知ポスター

自動ドアの手前に「お知らせ」と題した掲示板がある。次の駅は3月3日をもちまして営業を終了します。続いて、蕨岱駅のほか、9駅の名前が列挙されていた。そういえば長万部駅の入り口に「最後の乗車で思い出作り」と呼びかける有志のチラシが貼られていた。今日の昼頃の列車だ。

02
苫小牧行きが先に発車

券売機できっぷを買ってプラットホームに向かう。無人駅と言っても駅の旅客担当がいないというだけで、車両係や保線係の人はいる。苫小牧行きのキハ40形気動車1両が発車を待つ。ここも蛍光灯の白さがまばゆい。北海道の空気が澄んでいるからだろうか。その列車が2名の乗客を乗せて05時38分に出発すると、同じプラットホームを除雪車が通り過ぎた。赤いラッセル車両に挟まれたディーゼル機関車はミドリ色。富良野ノロッコ号の機関車だ。DE15形。本来は除雪用機関車であり、ノロッコ号は雪のない時期のアルバイトである。アルバイトの衣裳のまま本業に就く。

03
ラッセル車も出発

05時47分、気動車が去ったプラットホームに小樽行き普通列車が入線した。キハ150形の3両編成だ。早朝から3両編成は多すぎると思うけれども、この列車の小樽着は09時21分だ。途中で通学・通勤の人々で混む区間があるのだろう。この列車の所要時間は3時間34分。鈍行列車を楽しむには充分だ。このくらいでは飽きない。今は災害不通で短縮されているけれど、滝川発釧路行きの最長普通列車に乗った時も8時間で退屈しなかった。

04
我らが小樽行き

発車を待つ間に風景がすこし明るくなった。空は漆黒から群青へ。線路に積もった雪も青くなっている。05時58分、ガリガリと音を立てて列車が動き出す。さっき通った跨線橋の下をくぐり、ガタガタと音を立てて分岐をわたり、列車は左へ。右へ分かれていく線路は室蘭本線だ。室蘭本線は苫小牧まで内浦湾と太平洋に沿って走る。だから海線。こちらの函館本線は渡島半島の付け根を横断して日本海側へ向かう。だから山線。

05
荒涼とした冬の車窓

札幌までの距離は山線のほうが短いけれど、山岳路線のため速度は遅く、長大編成には不向きとされた。そこで、現在の函館~札幌間の主要ルートは海線経由だ。特急北斗も海線。廃止された寝台特急北斗星、トワイライトエクスプレスも海線経由だ。貨物列車も海線まわり。山線はローカル列車しか走らない。

06
蕨岱駅に停車。すぐ発車

蕨岱駅に停車して、乗降客もなく、すぐに発車した。昨夜のロケ地。ウグイス色の車掌車のダルマ駅舎。今日はイベントがあるはずだけど、人影はなかった。賑わいは昼過ぎ、そして最終列車が出発する夜だろう。日の出の時刻が過ぎて、車窓は真っ白。曇り空と雪景色だ。駅があり、町があり、原野、川、林があって、また町が見えて駅に停まる。

07
川は凍っていない

私はいままで山線に乗ったか、定かではなかった。フリーライターとして駆け出しの頃、寝台特急北斗星に乗った。それがどうやら山線経由だったらしい。理由は有珠山の噴火だ。室蘭本線が不通だった時期があり、函館~札幌間の長距離列車は山線経由だった。その時期に乗っていたような気がする。

雑誌で地図ソフトの紹介記事を書くときに、北海道の地図を使って編集機能を試し、廃止された広尾線などを書き込んでいるうちに、現地で確かめたくなった。入稿後、校正が出る日まで空いている。そこで原稿を送った日、駅の窓口で調べてもらったら、当日の寝台券があった。B寝台も使える北海道フリーきっぷを買って、慌てて帰宅し、荷造りして旅立った。

08
春が近づいている

あの頃は鉄道趣味に完全復帰していなかった。北斗星に乗れただけで嬉しくて、そのほかの情報を追わなかった。もし「珍しい山線経由」だと知っていたら、かなり印象も深かったと思う。北斗星の車中では、車窓より時刻表を見る時間のほうが長かったと思う。北斗星に乗る以外は何も予定を立てていなかった。

雪雲が低く、湿気も多いせいか、羊蹄山もニセコアンヌプリも見えない。北斗星に乗った日は秋だった。あのときは羊蹄山を見たような気もする。しかし定かではないから、今回、乗って良かった。疑わしきは乗れ、だ。

09
ニセコアンヌプリは見えず

ちっとも退屈はしなかったけれど、睡魔に負けてところどころの記憶がない。乗車記録は残すとして、夏になったらもう一度乗りにこようか。映画『男はつらいよ』のロケ地になった小沢駅、駅舎がペンションになっている比羅夫駅、朝ドラで注目されている余市駅など、降りてみたい駅があった。北海道新幹線が開業すれば、山線のうち、長万部~小樽間は並行在来線になる。貨物列車も通らないから経営は厳しいだろう。乗って応援しに来よう。

もうすぐ小樽に着く。この列車の終点だ。小樽駅の記憶もない。北斗星で通っただけだからかもしれない。

10
海が見えたら、もうすぐ小樽

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
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ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
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『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

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