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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第671回:キリタロー、バイオマス、扇形機関庫 -姫新線 中国勝山~津山-

更新日2018/09/27



中国地方は中国山地を背骨としているけれど、両側が素直に海へ傾斜しているわけではない。地勢はもう少し複雑だ。三次から津山にかけて、中国山地の南側に吉備高原が横たわる。芸備線と姫新線はその間を走り、盆地を結ぶ。雨がやや強くなり、水を増やす。耕地は少ないけれども、水の豊かなところであろう。

「バイオマスタウン真庭」という看板が車窓を横切った。ちょっと調べてみる。バイオマスとは生物由来の有機物資源、ふむ。「糞尿を肥やしにする」をカッコよくカタカナにした言葉らしい。それだけではなさそうだけど、ようするに、石油石炭を使わない資源に取り組もうと言うことだ。バイオマス構想を公表する自治体は全国に318もあり、成果を競っているようだ。

01
久世駅、大正13年開業

久世駅で数人が降りた。林業の地域らしく、駅舎の反対側の広場に材木が積まれている。ここに材木倉庫もあるということは、過去に貨物列車で積み出したか。女生徒が3人乗った。仲良しのようで話し声が明るい。盆地の田園風景が続き、レールの音にちょっと飽きてきた。しかし耳を澄ましても内容は聞こえない。

02
カラフルなアパートが見えた

古見という小さな駅。駅舎もない。プラットホーム1本の棒線駅だ。付近の住宅のために作られたようだ。地図を観ると、東側に果樹園、西側の旭川の向こうに病院がある。川向こうの国道側のほうに店が多く、賑わっているようだ。こんな景色が中国地方は多い気がする。かつての運輸省と建設省が、川を挟んで縄張り争いをしたような。そして悲しいかな、我が鉄道は負け組である。

線路は南に向かって、旭川も見えてきた。そこで北東に曲がり、谷沿いを行くにしても強引な線路の形をしている。吉見山を迂回しているように見えるけれど、このあたりは旭川と備中川が合流する。きっと船運で栄えたところだろう。美作落合駅にさしかかると運転席からキンコンキンコンと音が鳴る。ATS(自動列車停止装置)が前方の赤信号を警告する音だ。しばらく停車したけれど、列車交換はなかった。駅舎の屋根の上に展望室のような塔屋がある。なんだろう。降りなければわからない。後に調べると、明かり取りと時計塔を兼ねているようだ。男性客のグループが乗ってきた。温泉宿を出てきたような雰囲気である。

03
盆地の風景が続く

旭川は南へ降りていく。姫新線は東西方向の役割に戻り、東へ進む。もしかしたら、美作落合駅で分岐して、旭川方向へ支線を作るつもりだったかもしれないと思った。あるいはそのつもりだったけれども、船運の関係者に反対されたか。車窓は何も語らず、盆地の田んぼが見えるだけだ。中国山地と吉備高地が近寄ってくる。閉ざされそうな門をすり抜けるような景色だ。そしていったん山の中へ。唐突に長い建物が現れた。同じ形で三つ並んでいる。窓がなく、煙突もない。工場にしては駐車場がないし、倉庫にしては大きすぎる。もしかしたら養鶏場かな。それならバイオマスエネルギーとつながるような気がする。

04
美作落合駅の時計塔

美作追分は三角屋根の駅舎があった。追分とは街道の分岐点。姫新線と並んでいた岡山県道411号線と出雲街道の国道181号線が合流する。駅舎の壁に「キリタロー村は大かぞく」と描かれている。ゆるキャラのようだ。キリは桐、あるいは切り、林業の町にちなんでいるかと思ったら、実は霧の町だという。紛らわしい。流行らないわけだ。キャラクターはかわいいし、お菓子のモチーフになりそうだけど、ちょっと残念なキリタロー家族であった。

05
美作追分駅のキリタローたち

谷間を出雲街道と並んですり抜けて坪井駅。またATSがキンコンと鳴り出す。しかし対向列車は来ない。列車がすれ違える駅ではすべてATSが作動するようだ。プラットホームでしげり放題の樹木らしきものに日光が当たっている。ようやく晴れたか。しかし、走り出すとまた雨になった。今日は雨天と晴天の繰り返し。いや、列車が雨天地域と晴天地域を何度もまたぐ。景色の変化は楽しいけれど、このあたりの人々は天気予報をアテにできるか。「弁当忘れても傘忘れるな」の言い伝えは金沢の名言だけど、北陸や山陰にも伝わっているらしい。

06
坪井駅、晴れた!

美作千代駅のそばに柿がたくさん成っている。誰の柿だろう。近くの製材所だろうか。美味そうな色をしている。こっそりもぎ取って食べても怒られないかもしれない。しかし、実家の庭にあるような、手間をかけない柿は虫だらけだ。手には入らない柿はきっと不味い。確かめたいけど途中下車はしない。

07
吉井川を渡る

広い川を渡った。吉井川だ。岡山県の一級河川で、旭川と高梁川を合わせて岡山三大河川という。そうか、今度の旅で岡山三大河川をすべて渡ったか。小さな達成感である。院庄駅を過ぎると津山市街地に入る。列車は吉井川をもう一度渡った。もうすぐ津山駅だ。円形劇場のような丸い建物が現れた。あ、これは扇形機関庫だ。そうだ。津山には扇形機関庫があって、津山まなびの鉄道館がある。すっかり忘れていた。鉄道ファン失格ではないか。また来なくちゃな。いや、また来るとするなら、今回は姫新線に乗らなくて良かったのか。そうではないぞ。乗っていない路線があると気になってしまい、また無理な日程を欲張ってしまう。ついでに寄るのではなく、あらためて、ちゃんと目指してこよう。

08
津山駅扇形機関庫の裏側

津山駅の売店はセブンイレブンになっている。JR西日本はセブンイレブンと提携しており、駅の売店はセブンイレブンに建て替えている。これは土地活用の点でも良い施策だし、来駅の機会が増えれば鉄道の利用促進にもつながるかもしれない。しかし、津山駅の向かいにはライバルのコンビニエンスストア、ファミリーマートがある。あちらの心中はいかに。もともとクルマの客を相手にしているから、気にしていないかもしれないが。

09
プラットホームから扇形機関庫を見る

10
国鉄急行型のディーゼルカーが見える

駅前広場でコーヒーを冷ましていたら携帯電話が鳴った。日曜だから仕事の要件ではないはず。ポケットからスマートホンを取り出すと、友の一人息子からだ。誕生日のプレゼントが届いたという。幼い声でお礼の言葉を聞く。友が生きていた頃は、たびたび犬の散歩に連れて行った。保育園の送り迎えをした時期もある。今は年に一度、友の命日に会うだけになってしまった。

11
津山駅は駅前広場を整備中だった

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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