第693回:直通電車とS-TRAIN - 西武鉄道・秩父鉄道短絡線 -
秩父鉄道から西武鉄道へ乗り換える方法は二つある。一つめは秩父鉄道の御花畑駅で降り。西武秩父駅まで徒歩数分だ。二つめは秩父鉄道と西武鉄道の直通列車に乗る。西武鉄道と秩父鉄道の線路がつながっていて、土休日に限り、西武鉄道から三峰口、あるいは反対側の長瀞駅まで快速急行が乗り入れる。もちろんその逆方向もある。珍しい列車だからこれに乗ろうとBさんに提案する。
左側の電車が西武線直通。ライオンズカラーの帯だ
保存車両を眺めつつ、各駅停車、急行秩父路号、各駅停車の順に見送って、3時半ごろの西武線直通池袋行きに乗った。この電車は西武鉄道の所属で、4人掛けボックスシート。なんだか懐かしい空間だ。この電車で池袋まで行ってしまいたくなる。いやいや、S-TRAINのチケットを入手済だ。予定通り行こう。電車は五つめの影森駅まで各駅停車。影森駅を発車してしばらく走り、前方に御花畑駅が見えたところで分岐点だ。
客室はセミクロスシート。関東では珍しくなった
向こうには同じ形の電車がいて、こっちに向かって停まっている。私たちの電車はななめ右方向へ進み、勾配を上がったところが西武秩父駅である。その様子を二人並んで運転席の後ろから眺めて、16時ちょっと前に着いた。向こうの電車も西武鉄道の線路に入ったはずだ。ただし西武秩父駅には寄らない。私たちが通った電車が西武秩父駅に停車している間に、私たちが通った線路とすれ違う方向で交差し、先に西武秩父線を走って横瀬駅に向かう。私たちが乗った電車は私たちが降りたあと、スイッチバックして追いかけて、横瀬駅で連結する手順だ。すごく面白そうで、やっぱり乗りたいけれども、今日はS-TRAINである。
西武秩父駅へ向かう短絡線の分岐点。奥に相棒の電車が見える
西武秩父駅へ。交差する線路は御花畑から横瀬へ向かう
S-TRAINは、西武鉄道が車両を開発し、東京メトロ、東急電鉄、横浜高速鉄道が運行する座席指定列車だ。平日は座席指定通勤列車として西武池袋線と東京メトロ有楽町線を直通運転する。休日は秩父と横浜を結ぶ観光用座席指定列車として、西武池袋線・秩父線、東京メトロ副都心線、東急東横線、みなとみらい線を直通運転する。
有料特急と呼ばない理由は、西武鉄道には有料特急レッドアローがあり、東急側には料金不要の特急という列車種別があるからだろう。客室設備が独特で、ふだんはロングシートの通勤型車両として使い、S-TRAINとして走るときは座席を90度回転してクロスシートになる。長距離運行になるため、トイレも1ヵ所ある。東急電鉄として初の座席指定有料列車だ。そして初のトイレ付き車両である。東急沿線で育った私には感慨深い。
リニューアルされた西武秩父駅
S-TRAINは17時05分発だ。約1時間ある。いったん改札を出て駅前を散策する。西武鉄道は秩父観光に力を入れており、S-TRAINに合わせたように西武秩父駅をリニューアルした。大きな土産物屋があって、その奥には日帰り温泉施設もある。ひとっ風呂、と思ったら設備点検中だった。あらためて土産屋をひやかすと、秩父出身の落語家、林家たい平さんにちなむ菓子がいくつかあった。長寿番組『笑点』の大喜利で使う座布団をイメージした最中が面白い。10枚、積んでみたくなる。
西武秩父駅のプラットホーム先端から秩父鉄道が見える
再び改札内に入って、プラットホームの横瀬寄りの先端で列車を眺めた。西武秩父駅に到着する列車の他に、隣の秩父鉄道を行く列車も見える。特急レッドアローが到着して、池袋行きの急行が発車して、その次に、いよいよS-TRAINこと40000系電車が現れた。先頭車のデザインは東京メトロの新しい電車にも似ているけれど、銀色の車体にブルーとグリーンの飾りが入る。かき氷にメロンとブルーハワイのシロップをかけたようで清涼感がある。
レッドアローがやってきた
我らがS-TRAINも到着
まだ乗客は少なく、私たちはこの隙に10号車を見物した。この先頭車は運転席の直後に広い空間があり、車いすスペースであると同時に展望スペースになっている。側面窓が大きく、下端は私の膝のあたりと低い。子どもや車いすの人が景色を楽しめるようにしたそうだ。床の中央に低い衝立があって、立った姿勢用の浅い腰掛けになっている。車いす止め器具も格納されている。私たちはそれらをじっくりと眺め、触り、なかなか良くできてるねぇ、と、まるで新車を買うつもりで試乗に来たような会話をした。
10号車運転台付近は展望スペースがある
大きな窓と車いすスペース
私たちの座席は9号車4番。これは後ろから2番目の車両だ。ただし飯能で方向が変わるから、前から2番目の車両となる。座席は方向転換を前提としているようで、進行方向とは逆向きだ。西武秩父から乗る人よりも、飯能から乗る人が多いからだろう。こうしておかないと、乗るたびに座席の向きを変えなくてはいけない。私たちは席を回転させて前向きにした。やっぱり前向きにしないと居心地が悪い。
-…つづく
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