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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第691回:環状線完乗 - 札幌市交通局東西線・市内線・東豊線 -

更新日2019/08/01



石原裕次郎記念館を出てショッピングモールに入り、小樽築港駅に戻る。寒くなければ海沿いを歩いてもよかったけれど、喫茶店から眺めたマリーナの景色が良かったから、その思い出を上塗りする必要もないだろう。ショッピングモールに入った理由はもうひとつ。昼飯をちゃんと食べたい。喫茶店のパンはちょっと遅めの朝食だった。東西に長い建物のうち、もっとも駅に近い1番街の2階がフードコートだ。

うどん、ハンバーガー、どれもしっくりこない。あっ「小樽なると屋」があった。そうだ。北海道と言えばザンギ、ザンギといえば小樽のなるとだった。ザンギ定食と半身揚げ定食があって、思わずザンギ定食を頼んだけれど、後に若鶏の半身揚げがこの店の名物と知った。

01
なると屋のザンギ定食

ザンギ定食は唐揚げ定食だった。ザンギと唐揚げの違いは諸説ある。唐揚げを北海道ではザンギという説もある。ザンギは肉と衣に味を付けて、唐揚げは衣に味を付けないという説もある。しかしザンギも唐揚げも店ごとに作法が違うと言うからややこしい。札幌にはザンギと唐揚げの両方を出す店があるらしく、いつか行ってみたい。

なると屋、でピンときた理由は、2010年の網走の旅で「なると」という店に行ったからだ。母を連れて鉄道旅行。母は魚介類が好きだから居酒屋で海の幸を楽しんだ。魚介が苦手な私は少し控えめにして、網走にあるザンギ専門店の「なると」に行き、テイクアウトしてホテルで食べた。大量に買って余ったので、翌日の昼も知床斜里駅で食べた。網走の「なると」のルーツが小樽の「なると」だ。

14時過ぎのフードコートは私の他に一人。作業着姿の男がうどんをすすっていた。私はしっかりと定食を食べて満足し、小樽築港から電車に乗った。主に札幌で撮影された映画『探偵はBARにいる』で、主人公の探偵がこの電車に乗っていたな、と思い出す。進行方向は逆だった気がする。


札幌へ向かう

札幌に行く理由は札幌市営地下鉄と札幌市電の完乗だ。札幌市電は端っこ同士の西4丁目電停とすすきの電停が新たな軌道で結ばれて環状運転を開始した。たった400mだけど乗らねばならぬ。そのためだけに札幌を往復できるかという思いもあったから、テレビ出演は渡りに船だ。交通費をいただき帰路を別行動。ありがたい。

しかし、札幌に直行せず、二つ手前の琴平で降りた。地下鉄東西線の琴平~宮の沢間も未乗区間だ。私は1983年に札幌市営地下鉄と札幌市電を完乗した。当時の東西線は琴似が終点。東豊線は未開通だった。これらも乗ってしまいたい。私は札幌在住の水彩画家、Sさんにメッセージを送った。彼は私の市内電車の完乗に同行してくれる約束だった。少し遅れるかもしれない、というと、すすきの交差点のマクドナルドで待ち合わせましょう、と返信が来た。

03
宮の沢駅付近は郊外の住宅地

地下鉄の琴似駅はJR琴似駅と離れている。これは誤算だ。同じ名前の駅ならすぐ乗り換えられると思い込んでいた。スマホの地図をたよりに15分ほど歩く。雪が残る歩道で汗をかいた。以前は地下鉄で往復した気がする。1日乗車券を買ったと思う。国鉄の北海道ワイド周遊券を使っていたから、JRと乗り継いでも良かったはずだ。あの時の私は柔軟な思考ができなかったようだ。

04
札幌へ急ごう

電車は白地にオレンジ色の帯。先頭車の顔は丸みがあって、新しいけれどレトロな雰囲気もある。これがレトロフューチャーってやつか。1983年に私が乗った電車はもっと角張っていた。宮の沢駅へ行き、案内地図を見る。見物するところはなさそうだ。近くに西友があって、ちょっと離れたところにイオンモールがある。なぜか秋田銀行の支店があり、英会話教室もある。新興住宅街の中心という趣か。地上に出て周りを見渡す。案内地図から受けた印象と変わらない。私はすぐに階段を降り、新札幌行きの電車に乗った。大通駅で南北線に乗り換えると、一つ目がすすきのだ。

05
すすきの交差点の"特等席" 札幌の要素が散りばめられている

マクドナルドへ行くと、Sさんは交差点を見下ろす窓側のカウンター席にいた。「ココが特等席なんです」と言った。特等席を取っておいてくれたようだ。もしかしたら、かなり早い時間から待っていらしたかもしれない。挨拶と近況報告を交換しつつ、交差点をしばらく眺めた。ニッカウィスキーの電飾看板の下で、新旧の電車がすれ違う。新しい電車が来ても、古い電車が来ても、彼は嬉しそうな顔をしている。たぶん私も同じような表情のはず。

06
新型LRVで行こう

飽きない景色だけれど、目的地はここではない。日が暮れないうちに、と、私たちは電車に乗った。ここから西4丁目に進んだらあっけなく終わってしまう。私たちはあえて逆方向の電車に乗った。そういえば、2年前にも市電に乗っている。あのときは西4丁目電停からロープウェイ入口電停まで往復した。今回はすすきの電停から。ロープウェイ入口電停までは34年ぶり。記憶が薄く差異まではわからない。Sさんがときどき、店や建物を説明してくださる。

札幌市電は札幌大通りに近い西4丁目電停から藻岩山ロープウェイの入口あたりを通って、歓楽街のすすきの電停が終点。ところが、西4丁目電停とすすきの電停は至近距離。400mしか離れていない。この通りにも路面電車が走っていたけれど、1973年に廃止された。それから42年にわたって途切れた輪のような路線になっていた。2015年にこの区間の軌道が再整備されて、環状運転が復活した。

07
ぐるっと回って新線区間に入った

私たちが乗った電車は西4丁目に到着。もちろん降りず、新規開業区間に乗り出す。複線で整備されたけれど、新しい区間は線路が道の端、歩道寄りにある。ヨーロッパのトラムを参考にしたようで、歩行者が車道を横切らずに電車に乗れるし、路肩の駐車も防げる。上手い仕組みだと思う。感心しつつ、併用軌道を眺めていたらすすきの電停に着いた。さすがは短い区間である。たかが400m、されど400mだ。環状運転のおかげで折り返しのロスがなくなり、大幅な増発が可能になった。

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地下鉄東豊線に初乗車

空は黒くなり、札幌の街は煌びやかな光で飾られた。暗くなっても地下鉄だから、どうせもともと景色が見えない。私は予定通り東豊線に乗って、それから千歳空港へ向かおうと思う。Sさんにそれを告げて別れを切り出すと、一緒に行きましょうと言う。Sさんも私と同じフリーランスで忙しくされているはず。でも、彼と話ができると嬉しい。ともに東豊線の旅を続けた。まずは南下して福住駅へ。ここは札幌ドーム球場の最寄り駅。日本ハムファイターズの本拠地だ。そういえばSさんもファイターズファンだ。シーズンオフだからドーム球場に行っても仕方ない。街を眺めて引き返した。改札までの通路は「HOKKAIDO CONSADOLE SAPPORO」の横断幕がある。札幌ドームを本拠地とするサッカーチームだ。コンサドーレは道産子の逆読みらしい。

09
まずは南側の福住駅

こんどは反対側の終点、栄町駅へ。景色の見えない退屈な地下鉄電車で、Sさんとの会話がありがたい。「栄町駅は丘珠空港の最寄り駅です」とS氏が教えてくれた。新千歳空港ができる前の、札幌の空の玄関だ。現在は北海道エアシステムが道内の都市を結ぶ定期便を運行するほか、静岡県を本拠とするフジドリームエアラインが夏期に静岡便と松本便を運行している。それなら明るいうちに来て、空港を見物しても良かった。そう言うとSさんは「むしろ丘珠空港の航空機利用客として栄町駅に来ると良いですよ」と言う。なるほど、それも楽しそうだ。

10
栄町駅のバスターミナル。ここから丘珠空港ターミナルビル行きのバスが出る

これにて北海道の鉄道完乗と言いたいところだけど、1年前に北海道新幹線が開業している。北海道完乗後、函館から丘珠へ飛ぶという手もあると思うと、新たな旅の楽しみが生まれた。


第691回の行程地図
 

2017年03月03日の新規乗車線区
JR:    0.0Km
私鉄:  16.8Km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR): 21,365.7Km (93.91%)
   私鉄:  6,399.8km (92.11%)

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

<<杉山淳一の著書>>

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
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