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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第681回:復興の街 - 石巻線 石巻~女川 -

更新日2019/02/21



石巻駅に13時15分に着いて街を歩いた。仙石東北ラインの接続線、仙石線の付け替え区間に乗る目的は果たした。引き返してもいいけれど、ここまで来たら女川まで行きたい。

次の女川行きは14時22分だ。1時間と少し。そういえば、前回、焼きたてパンの店に寄った。行ってみよう。アーケード街を進んだ先で、たしか店構えは緑色。スターバックスに似た感じ、と思っていた。しかし、歩道の上にかかっていたアーケードは取り払われ、緑の店は見当たらない。パン屋はあった。オレンジ色の屋根、オレンジとクリーム色のレンガタイルの壁。この形は覚えている、この店だ。店内の佇まいも記憶と同じ。店員に聞くと、被災から建て替えて、ずっとこの色。緑だったことはないという。

01
石巻に来ると必ず行く焼きたてパン屋さん
第560回でも寄っていた。壁の色は同じ

記憶なんてアテにならない。特にワタシの記憶は信頼できない。なぜか色だけがすり替わっている。昼過ぎのせいか惣菜パンやサンドイッチは品切れで、クリームパンとメロンパンを買った。前回は石巻駅の待合室で食べて、残した1個はカバンの中で潰れてしまった。それも覚えているというのに、パン屋は緑色ではなかった。

パン屋を出て、もう少し奥へ進んでみる。4階建ての洒落たマンションが建っている。“ここは市営住宅のエントランスです”と看板が立っている。マンションではない、と併記。裏手に分譲マンションが建ち、背中合せになっているらしい。歯が抜けたようだった店舗跡地をまとめて、集合住宅がいくつか建っている。まるで復興の象徴のようだ。

02
石巻駅は全体的に「マンガの城」のよう

市営住宅の1階は店舗。レストランと土産物屋だ。市民の生活空間と観光施設の同居、というより、将来の津波に備えて、住居は2階より上にしたと言えそうだ。土産物屋に入った。貝の干物や海産物の瓶詰めなどがある。犬と留守番をしている母と、海産物好きな叔父夫婦に瓶詰め。嵩張るし重い。しまった、と思いつつ石巻駅に戻った。

3年前に女川を訪れたとき、ほとんどの土地は更地だった。造成中の新興住宅地のように何もなかった。しかしプレハブの復興事務所の中で、新しい女川駅前の賑わい作り計画を見た。完成予定をイメージした模型もあった。あれはどうなったか。

03
女川へ向かって

女川行きの列車はキハ110系の2両編成だ。すでに入線しており、満席。活気を感じる。人々が戻って、日常が始まっていた。ああよかった。前回の旅を思い出して、心が熱くなっている。家が建ち並ぶ景色、畑もある。私が生まれる前から、ここはこんな景色だったと思わせる。しかし注意深く見れば、家はどれも新築である。きれいな家が建ち並ぶ。そして隣の区画に質素なアパートのような復興住宅が残っていた。生活の復旧には格差があるようだ。

04
ここから敷き直された線路

線路は海沿いになった。真っ白な堤防が作られている。線路の砂利は白く、新たに敷き直されたとすぐわかる。浦宿駅を発車。ここから女川までの1区間が、石巻線の最後の復旧区間だ。女川駅は内陸に移転したため、線路は短縮されている。トンネルを出ると女川駅が見えた。その先は更地だった。いまは建物が見える。14時47分、女川駅に着いた。奇しくも東北地方太平洋沖地震の発生時刻とほぼ同じだった。こんな時間に揺れ、やがて津波が押し寄せた。被災前の街並みと、3年前の更地が脳裏をよぎる。身震いする。

05
女川駅が見えてきた

新しい女川駅は線路1本、プラットホーム1面。線路の行き止まりの先に新しい駅舎がある。無人駅ではなく、業務委託された職員がいて、精算やきっぷの販売を行う。しかし改札口はない。石畳風の通路を通り抜けると駅前広場で、そこに新しい街ができていた。復興事務所の模型のまま街になった。駅の出入り口から一直線にプロムナードがあり、その両側、模型では白い直方体があったところに建物がある。そして、模型にはなかった景色があった。行き交う人々の姿だ。街が、生まれた。

06
港町を見下ろせる病院、今回は上らず

プロムナードを通り抜けた。海沿いの道路に突き当たり右へ歩く。港のあたりは工事中で、完成までしばらくかかりそうだ。たしか公園もできるはず。そして横倒しのビルが残る。3年前、全景を確認しようと上った高台の病院がある。階段は新しくなっているようだ。しかし、造成工事のため入れないようだ。遠目に見ても、もう高台のテラスに店舗はなさそうだ。遠回りして上ってみるほどでもないか。

女川駅前の商店街は「シーパルピア女川」というそうだ。シーパルは、たしか震災前の漁港にあった観光施設だった。シーパル。海の友達。苦しい目に遭わされたけど、その恵みで生きているから友達として付き合っていく。複雑な思いがありそうだ。

07
旧駅舎のイメージで立てられた「あがいんすてーしょん」

駅から最も遠い、つまりもっとも海寄りの店は、旧女川駅をイメージした建物だ。「あがいんすてーしょん」と書いてある。水産業体験施設であり、土産物も売っている。ティーシャツを探した。3年前、復興事務所でティーシャツを買った。単純に、私の好きな緑色だったから。しかし厚手の布地で着心地が良かった。実は今日も着ている。ほぼ毎週、普段着のように来ているうちに、文字と絵柄が薄れてしまった。同じモノを買いたい。

08
商店では外車も売られ……
いや、段ボール製の「ダンボルギーニ」だ

この店にはないけれど、商店街の中ほどに服を売る店があるという。店があるのか。行ってみた。品揃えの色彩が豊かで、若い人向けの品揃えだ。しかし同じシャツは見当たらない。店員は若い男女、夫婦かもしれない。3年前にこんなシャツを買ったんだけど、こちらで扱っていませんか。胸のあたりに「WARU DAN」という文字があって……。説明するより見てもらったほうがいいか。上着を脱いで実物を見せた。

「あっ、それはうちの店で作っていたものです」と女性が言う。店長に在庫を聞いてくれた。
「……もう作ってないんですよ」
「なんと、ワルワル団は解散しちゃいましたか…」
「解散というか、遊び心で作ったというか…」
同じ色の布地を使った長袖のシャツを買った。長袖のティーシャツはふだん着ないけれど、この機会に使ってみようか。

09
女川名物という秋刀魚の定食

女川駅前には足湯がある。震災前から女川駅に隣接した温泉施設があり、新築の女川駅では合併した。そこからお湯を引いた足湯に浸かってみた。おばあさんと混浴だ。どこから来たの、東京から、と、いつもの挨拶。おばあさんは家を流され、いまは丘の上の復興住宅に住んでいるという。3年前、代行バスの女川駅停留所があったところだ。そこから毎日、ここまで買い物に来て、足湯に浸かって帰るそうだ。もちろん帰りは上り坂、元気な人だ。

さっき買ったティーシャツの話をした。
「あの店、震災前は布団屋さんだったんだよ。ご両親が亡くなって、若夫婦がやっとる。よく頑張ってるわ」
私たちの様子を見て、親子連れが足湯に参加した。私はそれから10分ほどで引き上げた。少し、足取りが軽くなった気がする。

10
新しい街で、新しい賑わいが始まっていた

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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