第682回:六丁の目のナゾ - 仙台市営地下鉄東西線 仙台~荒井 -
始発列車に乗る人が、みな、1日の始まりというわけではない。仙台市営地下鉄の仙台駅。東西線のプラットホームで電車を待っていたら、若い男性グループが大声で話しながら現れた。黒いスーツ。振り回すネクタイは白。結婚式の二次会、あるいは三次会の帰り道といったところか。始発列車は夜の続き。都内の駅も同じだ。釣り竿を持った男たちがいると思えば、けだるそうに柱に寄りかかる若い女がいる。私はどうだったか。会社勤めの頃は、夜の続きの電車で帰ったこともあった。始発電車で1日を始められるとは、幸せなことかもしれない。夜通し遊ぶ幸せもあるけれど、あれは若さの特権だ。もう遊びで徹夜はできない。
仙台市営地下鉄の仙台駅入口。かなり大きい
昨日は仙石東北ラインで仙台に戻って泊まり、今日は始発電車に乗る。開業して1年の仙台市営地下鉄東西線だ。ビジネスホテルを出ると、路面に街の灯りが反射していた。天気予報によると気温は0度。今日の最高気温は6度。しかし、さほど寒さを感じない。着込んでいるからか、湿気が多いからかもしれない。地下鉄の入り口がまぶしいほど明るくて、その光に飛び込んだら暖かい。入り口から暖房を効かせているのか、エアーカーテンでもあったか。
改札までの通路、観葉植物の棚がある
若い男性たちの笑い声をかき消すように始発電車がきた。小ぶりな車両の4両編成。銀色の車体で、前面だけが黒く塗りつぶされている。機能重視、レストランの調理場の棚のようなデザインだと思ったけれど、停車してみれば側面屋根まわりに水色の差し色がある。側面にブルーとオレンジとイエローの四角いタイル模様がある。何か意味がありそうで、しかし何も思いつかない。
電車は鉄輪式リニアモーター駆動
調べてみると、黒い前面は伊達政宗の兜、屋根の差し色は空と川と海をイメージしたそうだ。水色とオレンジとイエローの四角はランダムな配置で、オレンジとイエローは駅の数を表すという。扉の窓は楕円形で、扉間の窓は大きな一枚ガラスである。狭い車内だから、窓で開放感を表現しているかもしれない。
ブルーを基調とした飾りがある
私は若いグループ客と同じ最後尾の車両に乗った。この車両が途中駅の乗降に便利なようで、座席の半分が埋まる。前方はガラ空きだ。4両だから直線区間で最前部まで見渡せる。景色の見えない地下鉄では、各車両を見通す楽しみがある。蛇の胎内にいて、口のほうを覗く感じ。線路が上ったり下ったり、右や左にカープする。都内の地下鉄だと全方向にうねりがあって面白い。しかも新しい路線になるほど既存の地下鉄線路を避けてうねる。
乗降扉の窓は円い
東西線は単調な路線だと予想していたけれど、次回にも左右のカープが大きい。市内の東西を結ぶ新寺通りの地下を行くと思ったら、いったん南側へ迂回している。新寺通りを進めば楽天ゴールデンイーグルスの本拠地球場や遊園地もあるけれども、わざと仙石線から離して、鉄道によって便利になる地域を増やそうとしたと思われる。
景色が見えないから車内が気になる。グループ客のひとりが吐き気を訴え、まわりが気を遣っている。グループ客のそばに座っていた若い女性が私の隣まで避難してきた。結局、グループ客は薬師堂駅で降りていった。なに、今日は月曜日だが成人の日の祝日だ。帰って一眠りすれば持ち直すだろう。仲良きことは美しきかな。
ビタットハウスの広告が良い立地
後尾の運転台から後方を眺める。運転台と客室を仕切る窓は左側しか開いていない。そこから遠ざかる駅などを眺めている。卸町駅の手前からトンネルが真っ直ぐになった。仙石線が北へ遠ざかったため新寺通りに戻ったという形だ。六丁の目、という駅名が不思議。なぜ6丁目ではないのかというと、ここは○○6丁目ではなく、六丁の目までが地名だから。
荒井駅周辺は開発の途上
六丁の目の由来は6町という長さの単位。1間が約6メートル、60間で1町、6町は654mで、6町×6町が農地の単位だった。その農地の境目が6町の目、転じて六丁の目。あるいは鎌倉時代の僧侶、一遍がこの地で念仏を唱え、南無阿弥陀仏と石に書いた。この六字が浮かび上がったことから六時の銘、転じて六丁の目となった。こちらはちょっと強引だけど、石碑が太子堂に祀られているという。
大規模な医療施設ができるらしい
いずれにしても、六丁の目は小さな地区だから小字も少なく、六丁の目元町、六丁の目西町。六丁の目北町などがある。もっと大きな町で区画整理されたら六丁の目1丁目、六丁の目2丁目というややこしいことになっていたかもしれない。いや、いまでも充分にややこしくて、六丁目と書いてろくちょうのめと読む地域が隣接している。「の」が入るか入らないかで場所が違う。配達員や住民登録係の苦労を想像する。
こちらは仙台市営地下鉄の車両基地
東西線はまた南にカープして、東側の終点、荒井に着いた。地上に上がると更地が広がっている。仙台東部道路という高速道路のインターチェンジが近い。わざと市街地を避けた理由は、このあたりの農地を再開発するつもりのようだ。空き地のフェンスには住宅メーカーの大看板や病院の建設予定地と示されていた。
荒井駅舎全景、地方空港のターミナルのようだ
空き地ばかり見ていても仕方ないので、地図を頼りに東西線の車両基地まで行ってみたけれど、高い塀に守られており見物はできそうになかった。仕方なく駅に戻れば、荒井駅の駅舎地上部の立派なこと。周囲が更地だから、まるで地方空港のターミナルビルのようである。これならいっそ地上駅にすれば良かったではないか。少しでも車窓を眺められたのに。
-…つづく
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