第673回:川に沿い、山裾をなでる - 姫新線 津山~佐用 -
10時53分に岡山着。津山線の初乗りを達成した。さて、ここからどうするかと言えば、津山線で津山に戻る。来た道を引き返すとは面白みがないけれど、次に未踏の智頭急行に乗るためには、この経路がいちばん効率がよい。智頭急行は山陽本線の上郡駅から分岐しており、岡山から上郡まで山陽本線で行くルートもあるけれども、このあたりの山陽本線は運行本数が少なくて、乗り継ぎ時間のロスが大きくなる。だいたい鉄道は趣味人に向けて作られていないから、これはもう相手のルールで旅するほかない。ゲームマスターは鉄道事業者の運輸司令様である。
紅葉も終わりのまだら模様
岡山発11時07分の津山線に乗ると、12時15分に津山駅に着く。帰りも進行方向右側に座った。これで両側の車窓を眺めたことになる。どちらもよい景色であった。さすがに紅葉は色あせていたけれども、初冬の青空が心を洗う。
津山から乗り継ぐ列車は、12時16分発の姫新線、佐用行きだ。1分の乗り継ぎ。発着番線がわからない。階段を渡ったプラットホームだと間に合わないと思って、到着前に扉の前で走る構え。幸いにも同じプラットホームの反対側に入線していた。車体側面に行先表示がほしいなあ。念のため運転士さんに確認し、車体の写真を撮って乗り込んだ。運転台上の窓に“佐用”と書いてあった。発車まで少しの間があったから、津山線が早着していたかもしれない。
さっきは気づかなかった……
津山線で引き返した理由は智頭急行だけではない。津山~東津山間の乗車タイミングだ。東津山は因美線と姫新線で訪れており、芸備線から津山線に乗って去ってしまうと、津山~東津山間が残ってしまう。上郡まわりで東津山に来た場合、津山~東津山間を往復する必要がある。ところがこの1駅間がくせ者で、運行間隔が一定していない。中国地方のゲームマスターは気難しい。レベルの低い旅人は軽くあしらわれてしまう。
佐用行きは1両
佐用行きは1両のディーゼルカー、キハ120形だ。津山を発車するときに席がほとんど埋まっていた。しかし隣の東津山で女生徒がごっそりと降りていく。このあたりに住んでいる子たちだろうと思う。東津山で因美線と姫新線の二股に分かれるけれど、因美線に乗るなら始めから因美線直通に乗るはず。東津山は吉井川と加茂川が合流するから、水利よく、栄えている土地と思われた。女生徒たちが降りたあと、女性が精算で揉めている。尾道からIC乗車券で乗ってきたらしい。ローカル線には自動改札機がないから、いろいろと面倒な処理がある。
照り返しがまぶしい
東津山から佐用までの区間は、私の記録では1984年4月に乗っている。32年ぶり。当時、私は17歳だった。高校の同級生と、青春18きっぷで乗ったようだ。32年ぶりの乗車、32年ぶりの青春18きっぷ。このきっぷは30年以上も売り続けていると思うと感慨深い。32年経っても私はまだ青春の旅をしているか。まあ、代わり映えはしないな。立ち食い蕎麦で節約しなくてもよくなったくらいか。
盆地の街中を行く
32年ぶりの景色は新鮮そのもの。川沿いの桜並木を見て春の景色を想像する。沿線は民家が多い。丘をすり抜ければ街の景色だ。冬の斜めの日差しがまぶしく、車窓を撮ろうとしても、車内の様子が映り込んでしまう。勝間田駅で、到着時に運転席からブザーとチャイムが鳴った。ATS、自動列車停止装置の警告音だ。単線だから、赤信号で停まらないと、逆方向の列車とぶつかってしまう。しかし対向列車の姿はなく、しばらくして信号が青に変わる。
冬の日差しが目に刺さるようだ
列車は丘を迂回し、川に寄り添ってくねくねと東へ進む。林野駅で老夫婦と娘の家族が乗り、すこし車内が賑やかになった。楢原駅で女生徒の最後の一人が降りていく。道路の向かい側の自転車置き場へ歩いて行く。この駅は工場と池に挟まれており、付近に民家はない。古い路線だから、住民に配慮して、わざと街外れに線路を敷き駅を作ったかもしれなかった。
川に沿い、山裾をなでる
美作土居で私服の少女が降りた。ここから先、やっと列車はトンネルに入る。トンネルを抜けると針葉樹林だ。線路は山裾の林の中を通り抜ける。盆地の生活に遠慮したような線路配置である。しばらく走ると道路が寄り添い、川に沿っていく。出雲街道と佐用川だ。出雲街道とは何度目の再会だろう。このあたりは起伏があるようで、列車は速度を落としている。
町に対して少し遠慮がちな線路の位置
車窓左手の佐用川を眺めていたら、頭上に高架橋が現れた。これが智頭急行の線路だ。国鉄末期に鉄建公団が作った線路は、新幹線なみの高架線とトンネルで一直線に作られている。赤字国鉄はこの路線の引き受けを拒み、国は使わないまま廃線にしようとした。もったいないにもほどがある。第三セクターの智頭急行が引き継いでくれてよかった。
佐用到着
また運転席からチャイムが聞こえた。もうすぐ佐用に到着だ。運転士が「佐用には1番線につきます。智頭急行は隣のホームです」とマイクで案内する。別の会社だから同じホームで乗り換えはできない。車窓が曇ってきたと思ったら雨が降っている。それでも20分の乗り継ぎだから、少し駅前を散歩しようか。
乗ってきた列車は折り返して津山へ
-…つづく
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