第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
更新日2008/03/13
アメリカンフットボールの決勝戦、スーパーボールは毎年アメリカ全土を異常な雰囲気に包みます。その日は、主に男連中ですが、どこかの家に集まり、バーベキューで腹ごしらえをして、お好みの銘柄のビールを大量に買い込み、氷をぶちまけたバスタブなどに入れ、ギンギンに冷やしたビールを無限大供給可能にした上で、大型のテレビの前に陣取ります。
アメリカンフットボールに興味のない、主に女性軍はスーパーボール未亡人などと呼ばれ、どこかに逃げ隠れしてしまいます。皆が皆、スパーボールファンではないと心得た商売熱心なレストランでは、レディーズスペシャルとか銘うって特別メニューを売り出したり、エステサロンなどでもスーパーボール未亡人向け特別料金をその日に設定したりしています。
それだけアメリカ中が熱狂し、テレビに釘付けになるのですから、スーパーボールのコマーシャルの料金も天井知らずに高くなってきました。今年は30秒のコマーシャルを流すのに2.7ミリオンドル、なんと3億円以上になりました。それに加えてコマーシャルの制作費などを入れると、30秒に4~5億円かかるそうです。乗用車、ビール、清涼飲料、スポーツドリンクなど、スーパーボールの常連スポンサー50社以上が大金を払って30秒を買い取っています。
果たしてそんな大金をつぎ込んで、それだけの効果があるものなのか、素人の私には見当もつきません。
ユニークだったのは裸よりもセクシーに見えるという、見せるための女性の下着メーカー「ヴィクトリア・シークレット」が、聴視者の80パーセントが男性のはずのスーパーボールにコマーシャルを流したのです。今や男性が女性に下着を贈る時代になったということなのでしょうか、それともアメリカンフットボールのシーズンになるとテレビに釘付けになる男どもに、せめて奥さんへの罪滅ぼしとして、ウルトラセクシーな下着を買ってあげなさいということなのかしら。
お正月を日本で過ごしたので、初場所を観るために両国の国技館まで足を運ぶ機会にめぐまれました。あまり乗り気でないダンナさんを無理に連れて行き、相撲の面白さを解説してあげたのです。やはり本場で見るのは、テレビの実況中継を見るのと違って迫力があります。お相撲さんの熱気、気合が伝わってきます。
大相撲のテレビ実況中継はNHKと決まっているので、一切コマーシャルがありませんが、勝った方が貰う懸賞金があります。例のスポンサーの名前の入った垂れ幕を呼び出しが持って土俵を一周するものです。今、一本6万円だそうです。
NHKでは極力懸賞金を出しているスポンサーの名前などの場内放送がテレビに流れないようにしているようですが、国技館内では垂れ幕を持って土俵を一周するとき、「お茶漬けの永谷園」「明治製菓のブルガリアヨーグルト」など簡単ですが、明確に大きなアナウンスがあります。
その中に、相撲ファンを自認する私が分からない垂れ幕懸賞があったのです。今まで何度も見ていたに違いないのですが、誰が垂れ幕の懸賞スポンサーに注意を払いますか。こんなとき、たとえ化石化しているとはいえ、横に日本人のダンナさんがいると便利なことも(時々)あります。
「イチジクカンチョウってなーに」とうかつにも日本語で尋ねたのです。回りのお客さん何人かサーッとこちらに顔を向けました。どの目もニカッと笑っているようなのです。ダンナさんは、「そりゃ、エネマ(enema)のことだよ。イチジクの形をしてるヤツの枝の部分に針で穴を開けるか、はさみでチョンギッて尻に差込み、イチジクの部分をギュット押しつぶし……」とバカ丁寧に説明してくれたのです。私ははじめうちのダンナ(ここからはさん抜きです)の悪趣味な冗談だと思っていましたが、よく場内放送を聞くと確かに、「便秘にイチジクカンチョウ」と言っているではありませんか。
相撲のようなスポーツイベントの宣伝として「カンチョウ」はチョット想像外でした。アメリカでは恥ずかしくて、とても大っぴらに宣伝したりするものではないと考えられているのです。アメリカンフットボールの選手が取るスクワットの体勢はカンチョウ向きの姿勢とはいえ、スポーツにもイメージがあり、アメリカでのマッチョマンタイプのスポーツ選手のイメージを崩すとか言い出すことでしょう。日本でもまさか「イチジクカンチョウ」が女性のフィギュアスケートの選手権スポンサーにはならないでしょうね。
ソンキョ(蹲踞)の姿勢からからグッと腰を下げ、上体を両脚の間に入れるようににらみ合う、あの立会い前の姿勢と巨大なお尻は「イチジクカンチョウ」のイメージと結びついてしまい、困りました。
ということはアメリカンフットボールのイメージとさっぱり結びつかない3億円の女性の下着のコマーシャルより、6万円の「イチジクカンチョウ」の方が宣伝効果が高いことになるのでしょうか。
私自身「ヴィクトリア・シークレット」の下着を買うことは決してないでしょうけど、便秘のときにイチジクカンチョウを思い出し、そのほうはお世話になるかもしれません。
第52回:国家の品格 その1

