第28回:太さと貧しさ
更新日2007/09/13
私の学生時代は初めから終わりまで貧乏でした。(今でも、事態はあまり好転しているとは言えませんが…)。5個(食)で1ドルのマカロニチーズとか、インスタントラーメンばかり食べていたような気がします。大手ファーストフードのチェーン店すべてと言ってよいでしょう。そこでアルバイトをしたのも、他のアルバイトに比べ、その日の仕事の終わりにタダで食べることができるのが大きな魅力だったからです。
その頃見たビアフラの写真を未だに忘れることができません。飢えてやせ細った子供の写真で、文字通り骨に皮膚が張り付いているような体に、そのせいでしょうか、異常に大きな頭の子供が、漆黒の潤んだ瞳をカメラに向けている有名な写真です。
きっと誰でもそんな写真を見たことがあると思います。しばらく食べ物が喉を通らなくなりました。と言っても、若さと空いたお腹のせいでしょう、またモリモリ食べるようになり、今までこうして生きてきたのですが。
先進国内での死ぬ生きると言うような厳しさの全くない状態でしたが、少しは飢えを体験し、お腹を空かすことがどんなことか想像できるようになったと思っています。
インド通の人の話によると、かの国では太っているのは決まってお金持ちで、ガリガリに痩せているのはカーストの低い地位の貧しい人だそうです。インド映画を観ると、でっぷりと太った夫婦がリキシャにデンとふんぞり返り、それをこぐリキシャマンの方は針金みたいに痩せっぽち、と言う光景がよく出てきます。
先週、またまた、アメリカの州別デブの統計が発表になりました。ここでもかなり明確にお金持ちの州と貧乏な州との間の体重差が出ています。しかし、インドとは逆に、平均所得の低い州ほどデブが多く、お金持ちの多い州ほどフィットした体形を維持しているのです。
ディープサウスと呼ばれる南部の州に超デブ(Obese)が多く、特にミシッシッピー州では超デブ率30%を超えていますから、3人に一人は病的に太っていることになります。
これは、貧しさイコール教養の低さとなり、健康に対する基本的な意識が欠けているからだ、と言われていますが、そうなるとインドのリキシャマンは教養がとても高く、自己管理をするだけの能力があるということになってしまいます。
アメリカのスーパーに行けばすぐに分かることですが、プロセスした食料品は異常に安く、オーガニック食品の3分の1から4分の1で買うことができます。いわばジャンクフードといわれている、ポテトチップスやスナック類、それにコーラなどのソフトドリンクは馬鹿安なのです。
たとえば24缶入りのコーラ1箱が2ドルで売りに出されていますし、鶏の丸焼き、から揚げなどは1匹丸ごとで3、4ドルほどです。収入が限られている場合、安くて量の多いものを買うのは自然のなりゆきでしょう。
南部の貧しい人たちの多くは、最低賃金で働いているか、それに近い条件で長時間就労していますから、仕事が終わった後で体のために運動をするエネルギーさえ残っていないのかもしれません。もっとも、スポーツクラブ、フィットネスクラブなどはとてもお金がかかるので、とても彼らが気楽に参加できるところではありません。
お金持ち対貧乏人の図式を住んでいる住宅によって統計を取った調書が発表になりました。シアトル市だけでの調査ですが、住んでいる家の価格が10万ドル(約1,200万円)下がるごとに、超デブ率が2%増えるというのです。大きな家に住むと、自然と家の中でも歩く距離が伸びる…というわけではないでしょうけど、このままではアメリカではデブ=貧乏で教養がないという図式が固定観念化されそうです。
こんなデブ大国アメリカに警鐘を鳴らすお医者さんや社会学者は沢山います。国を滅ぼす緊急事態だ、イラク戦争以上の危機だ、非常事態宣言を出すべきだ、エボラやサールス以上のアウトブレークだと言葉を変え訴えかけていますが、私たち人間の食欲に打ち勝つことはできそうにもありません。
学校は一番早く対応しています。学校内にあるソフトドリンクやスナックの自動販売機(そんなものが、学校内にあることすら驚きですが)で売るモノを規制し、ダイエットコークのように砂糖分やカロリーが少ないソフトドリンク、甘さを抑えたスナックだけを売るようにようにしました。すでに75%の学校でこのようなダイエットオンリー自動販売機に切り替えています。来年には100%にもって行く予定だそうです。
現在のアメリカでは、よほど特殊な事情でもない限り飢死することはありません。逆に食べ物があり余り、無駄に捨てていることの方が問題なのですが。
第29回:外国生まれ