■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)




中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。



第1回:男日照り、女日照り
第2回:アメリカデブ事情
第3回:日系人の新年会
第4回:若い女性と成熟した女性
第5回:人気の日本アニメ
第6回:ビル・ゲイツと私の健康保険
第7回:再びアメリカデブ談議
第8回:あまりにアメリカ的な!
第9回:リメイクとコピー
第10回:現代学生気質(カタギ)
第11回:刺 青
第12回:春とホームレス その1
第13回:春とホームレス その2
第14回:不自由の国アメリカ
第15回:討論の授業
第16回:身分証明書
第17回:枯れない人種
第18回:アメリカの税金
第19回:初めての日本
第20回:初めての日本 その2
第21回:日本道中膝栗毛 その1
第22回:日本道中膝栗毛 その2
第23回:日本後遺症
第24回:たけくらべ
第25回:長生きと平均寿命


■更新予定日:毎週木曜日

第26回:新学期とお酒

更新日2007/08/30


先週、8月20日から新学期が始まりました。
長い夏休みの間に陽に焼けた、元気溌剌とした新入生がどっと入学してきます。この田舎の大学は授業料と生活費が安いのが魅力なのでしょうか、毎年生徒さんが増える一方です。最初の1年は必ず寮に住まなければならない規則なので、両親にとっても安心なのでしょう。

初めて親元を離れて生活する新入生は、伸び伸びとキャンパスを闊歩しています。それにしても、彼ら、彼女らはなんと子供っぽく見えるのでしょう。中には中学校と間違って入ってきたのではないかと思えるほど、幼い学生がいます。これも私が歳をとったせいで、そう見えてくるのかもしれませんが。

アメリカの多くの州で、車の運転免許は16歳から取得することができます。高校2年生にもなると、100パーセント近くが運転免許を取り、中古の車を買ってもらい、デートをし、週末には町中をただグルグル乗り回したりして、一昔前の青春映画そのものの風景を繰り広げます。

高校の卒業パーティは、学校のジムでの卒業式を終えた後で、各家庭でも盛大に祝う慣わしです。高校を卒業すること自体、なにも難しいことではありませんが、一応人生の節目ですから、日本の成人式に似ているかもしれません。

庭や家に飾りつけをして、親戚や友達を招待し、バーベキューをするのが一般的です。そのパーティで大人はビール、ワインなどアルコール類を飲みますが、主賓である卒業生は、アルコールは一切抜きです。一応、親の前でのことですが。

と言うのは、21歳以下の飲酒が禁止されているからです。高校の卒業パーティで、息子、娘たちが友達とお酒の飲んでいたのを知らなかったか、見て見ないふりをしていた両親が逮捕される事件もあり、未成年者が親の目の前でお酒を飲むことを恐れている…ようにさえ見えます。

もちろんスーパーで未成年者がビールやワインなどを買うことはできませんし、自動販売機もありません。「これはお父さんに頼まれた」と言ってもダメなのです。レストランでも未成年の飲酒に神経質になっており、若い人が同席し、ワインを注文すると 身分証明書の提示を要求されることがあります。未成年者にお酒を飲ませると、即刻、営業停止になります。

日本で客員教授として1年間教えたことがありますが、学期の終わりに何度かコンパに呼ばれ、大勢の学生さんと若者向けのバーに行きました。こういった場合、教師が払うものだと、ウチのダンナさんに教えられていましたが、学生さんたちの飲みっぷりに、とりわけ女学生の大酒飲みには驚きました。私の懐が心配になってくるほどの飲みっぷりなのです。もう一つ、一応先生である私が未成年者もいるグループを引き連れてバーに来ているわけですから、後で責任問題など起きないかと心配しました。もっともそんなことは全く余計な心配でしたが。

日本では法的には飲酒は20歳からとなっているようですが、大学に入るなり、新入生歓迎コンパなるもので、アルコールの洗礼を受けるのが当たり前のようですね。それが違法かどうかなんてヤボなことを言う先生は誰もいないようですし、飲酒の年齢の法律は典型的な"ザル法"(実に上手い言い方ですね)なのでしょう。

駅前の飲み屋さんの数から言っても、一人当たりのアルコールの消費量から言っても、日本はアルコール文化の国と規定してよいでしょう。おいしいお酒の種類の豊富さに加えて、バラエティに富んだつまみ、小料理が発達し、お酒を飲まなくても、お酒のアテだけでも充分以上に楽しめる豊かな飲み屋さん文化がしっかりと根付いているように見受けられます。

アルコール類の規制を厳しくすれば、それだけ法の目をかいくぐって、隠れたところで飲む人が多くなるのは、悪名高い禁酒法で経験済みのはずですが、アメリカではまた、ティーンエイジャーの飲酒が大きな問題となっています。

高校の卒業パーティで親の前では飲まない子供たちも、早めに家のパーティから抜け出し、友達同士のホントのパーティを開き、親に隠れて、この界隈ですと郊外の牧草畑の中とか、牧舎、牛舎、両親が働きに出ている家などに集まり、盛んに飲んでいるようです。

そしてこの時期になると、必ず沢山の若者が交通事故で亡くなります。15歳から20歳の年齢の若者が、年間5,000人も飲酒運転で命を落としているのです。男の子は11歳、女の子は13歳で初めてお酒の味を覚え、平均15.9歳で習慣的に飲むようになるとの統計が出ています。また、高校2年生の53%、3年生の67%が常習的に飲んでいるというのですから、アメリカの飲酒法(禁酒法)も大きな穴の開いた"ザル法"です。

いっそのこと、地中海の国々のように食の文化の中にワインなどの、アルコールを取り入れたほうがよいのではないかしら。年齢に関係なく子供の頃からお酒を酔っ払うためではなく、楽しみながら味わって飲む方法を知った方が、アルコールを自分でコントロールできるようになるのではないかと思ったりします。

でも、スペインで水で割ったワインを哺乳瓶で赤ちゃんに飲ませているのを見たときには、正直驚きました。あれは、一種の天才教育なのかしら?

 

 

第27回:禁酒法とキャリー・ネイション