第38回:お相撲スキャンダル
更新日2007/11/29
どうにもシマラナイ九州場所は千秋楽を待たずに千代大海が休場し、自動的に白鵬の優勝が決まり、おまけに結びの一番で白鵬が良いとこなしで琴光喜に投げられるという、今年の相撲界を象徴するような幕じまいになりました。
今年の相撲界の最大のスキャンダルは、6月26日に死亡した斉藤俊さんの事件でしょう。朝青龍の謹慎処分を忘れさせるような大事件に発展してしまいました。
相撲部屋を見て回ったとき、その激しい稽古、ぶつかり合いに見ている私の方が恐ろしくなったほどです。十両クラスのお相撲さんと、下の序二段、序の口クラスのお相撲さんとの力量の差は天と地ほどあり、下のクラスのお相撲さんは、コロコロ転がされ、突っ張り一突きで土俵の外に飛ばされ、中には唇に血をにじませたり、膝から血を流し、それに土が付き、血で練ったドロンコを体に擦り付けているような卵力士もいました。それでもすぐに起き上がり、先輩力士にぶつかっていく気迫に圧倒されたものです。こんな激しいトレーニングを経て初めて関取になれるんだ…と感心しました。
他のスポーツでも練習中、試合中に事故死することは珍しくありません。斉藤俊さんもそのような不幸な出来事の一つだと思っていたところ、どうもそうではなさそうなことが分かってきました。
歯切れの悪い時津風部屋の親方や他の力士たちの証言が、ポツリポツリと表面に出てくるようになり、刑事事件の様相が強くなってきたのです。斉藤俊さんが逃亡を企てたことが背景にあり、その戒めのためにリンチを加えたのが真相のようです。親方自らビール瓶で殴り、兄弟子たちも金属バットで殴ったというのです。
これは当然、殺人、過失致死となる刑事犯罪ですが、犬山署は病院の医師の判断を無視し、病死と判断し、検視官を呼ばなかったのが、間違いの第一歩です。また、斉藤さんを解剖した新潟大学の手羽准教授は、「異常死体として検視しなかったのは、県警の失策だ」とはっきり述べています。
相撲協会の態度も煮え切らないものでした。土俵の上ではあれだけ潔よく負けを認め、それが相撲独自の美学であることを体現してきた元力士で占められている協会は、文部科学省の渡海大臣に呼び出しを受けてから、ヤット謝罪、警察の捜査と平行して、独自の真相究明をする、結果を踏まえて関係者を処分するなど5項目の文部科学省の指導に従うと発表したのは、斉藤さんが亡くなってから4ヵ月も経ってからのことです。お上の指示にオズオズと従ったというところでしょうか。
その後、時津風親方が辞任しました。こんな事件の経過は日本にいる読者の方がよく知っていることでしょう。私が奇妙に思い、日本の壁に突きあたり、どうにも分からないのは、人一人が死ねば、取り分け自然死でない場合は、当然死因を解明しなければならないし、その死に関係した人々を取り調べなければなりません。意図的な殺人でなくても、人を死に至らしめたのですから、当然過失致死罪にはなるはずです。任意の事情聴取ではなく、れっきとした取調べになるはずですが、それもありませんでした。
世界にその優秀さ、検挙率の高さで知れ渡っている日本の警察にしては、随分ズボラな対応でしたし、常に後手、後手に回り、未だに捜査、取調べの経過報告もはっきりと伝わってきません。
11月12日、北の湖理事長は斉藤さん宅を訪れ、仏前でご家族にお詫びしたそうですが、はっきりと時津風親方と兄弟子たちの罪を認めたわけではありません。日本独自の、ともかく不祥事なのだから、表向き礼を尽くして侘びを入れておこうという、政治的配慮の臭いがします。この事件は理事長が詫び、時津風親方が辞めたくらいのことでは水に流すことはできない種類のものです。
犬山署も時津風部屋の人々も潔く自分の間違いを認め、刑事事件としての調査に協力し、刑に服することしか相撲ファンを納得させる方法がないのではないかと思います。
来場所の朝青龍と時津風部屋の力士たちの活躍を期待しております。
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