第33回:英語の将来 その4~誰がブロークンイングリッシュを話すのか
更新日2007/10/25
これから英語を変えていくであろう3番目の大きな要素は、若い人たちの間で使われているいわば“下町英語”が及ぼすものです。
この“下町英語”は大学院生のレポートの中にさえ見られますし、新聞ですら迎合するように“下町英語”を多用して記事を書くようになってきました。単語の用法だけでなく、文法も変わり、本来なら間違った英語とされていたものが容認されるようになってきたのです。これらは例をあげたほうが分かりやすいでしょう。
A. there
is/there are とthere
was/ there wereの差が急速になくなりつつあります。と言うより実際に使い分けをしなくなってしまいました。ショッキングなことですが、第二外国語としての英語学会の会場にさえ、There's
plenty of chairs up here in frontとありました。
B. 数えられるモノと数えられないモノ(countable/non-countable)の差がなくなりつつあります。日本で英語を学ぶときに、日本語にないコンセプトの一つとして数えられるモノには
s を付けて複数を表し、数えられないモノにはたとえ量がいくら多くても複数形の
s は付けないと教えられることでしょう。その規則はまだ生きていますが、その名詞の前に付ける形容詞
fewer がほとんど使われなくなり、すべてを
lessで代用してしまうようになってきました。
数えられるモノには fewer, 数えられないモノには
less という文法上の決まりが消えているのです。few
そのものは健在ですが、比較級としての fewer
は消滅の寸前なのです。
アメリカのNHK的存在であるPBSですら、"Instead
of more cars on our streets and highways, we need less cars"とか
"There is less and less fish
in our rivers"といった表現を公然と使っています。これが私の学生のレポートなら赤鉛筆でXX印を付け、書き直すところなのですが。
C. 副詞を作るために形容詞の語尾につける"ly"が消えていっています。Apple
Computersのソフトではその傾向が強く、Appleが下町英語を容認し取り入れたのか、Apple で"ly"を使わなくなったので、若者がそれに倣ったのかはわかりませんが、以下のようなly抜きの表現はいたるところに見ることができます。
"Think different."
"He drives too slow." "Please drive slower."
"Please think deeper"
D. 当たり前になってしまい、不自然に感じなくなくなってしまいましたが、スーパーマーケットに並んでいる食品の命名で,
ice tea, mash potatoes, corn beef, can food などは正しくは
iced tea, mashed potatoes, corned
beef, canned food とするべきでしょう。保守的な文法学者でも相手が宣伝力の強い食品メーカーなので、一々間違いを指摘するようなことはすでにあきらめているのでしょうか、それにいくら頭の固い文法学者でも、アメリカでは間違った表示をしているからといって、その食品を食べずに生きて行くことが難しいご時世になってきています。
E. これも複数形に関することですが、their
を単数形の代名詞に使うことが多くなり、次第に受け入れられてきたことです。学校の先生たちも their
攻勢に半ば降参し、あきらめ、それでよいかという心理状態になっているのが現状です。この症状は若い人の間だけでなく弁護士や政府公文書にさえ至るところに見られるようになってきました。
"No mother should be forced
by federal prosecutors to testify against their child"(Monica
Lewinsky's mother's lawyer)
"The publicity
right of the subject is that their image may not be commercially
exploited without his/her consent,,,,,,"(Library of
Congress webpage)
F. 前置詞の用法が大きく変わってきました。とりわけ慣用句的表現において若者はすべてを
on で済ませてしまう傾向があります。その影響でしょうかニュースキャスターまで
on を多用するようになってきました。
"That has brought a lot of
attention on his office."(NBC Nightly News)
その逆に on であるべきところを off
of や他の前置詞で書く学生が増えてきました。以下は、私の学生のレポートからの引用です。
"This pertains with our work."
"His opinion is based off of the results of several
studies."
"They are taking part of that experiment."
"It has made a huge impact to our society."
これらの洪水のような新しい米語の波のなかで、日本の受験英語から未だに抜け出ることのできない私のダンナさんは、アメリカ人は英語が下手になったとぼやいているのです。
第34回:英語の将来 その5