第21回:日本道中膝栗毛 その1
更新日2007/07/26
人は旅に出ると、どうして、とたんに子供になるのでしょう。
いままで自分が育ち、暮らしてきた文化圏では立派な社会人だった人が、知らない土地に行くと、今までの常識が通用しなくなるせいでしょうか、日常から開放され、今まで着ていたその国に似合った社交性という上着が旅先の国では全く常識はずれになってしまうせいでしょうか、ただ単に"ジ"が出るせいでしょうか、急に精神年齢が幾つも下がり、子供になってしまうのです。人の精神年齢は、その文化圏に何年生きたかによって決まるかのようです。
日本語の生徒さんを引き連れての日本の旅は、私にとってアメリカ人を見る良い機会でした。
日本で二つのほかのグループ、フロリダの高校生、そして80歳のフランス系アメリカ人のおばあさんたちと合流させられ、渾然とした人員構成で9日間の日本旅行が始まったのです。年齢は14歳から80歳、総勢37人でした。
バスでの大阪、京都、東京をめぐる旅でしたが、市内観光で一番写真を撮られたモノはなんだったでしょうか?
なんと「マクドナルド」や「バーガーキング」だったのです。彼らにとって日本にもマクドナルド、バーガーキング、ピッサハットなどが、日本語の看板を揚げ、アメリカと同じように存在していることが新鮮な驚きだったのです。バスガイドさんの説明や二重橋は無視され、「ワー、あそこにマクドナルドがある!」とバスの窓にへばり付くように写真を撮りまくったのです。確かに二重橋は皇居が見えるわけではないし、壮大な建築物というわけでもないし、どこにでもありそうな小さな橋ですから、よほど日本の歴史に興味を持っている人以外には、全く面白味のないものですが。外国人相手の観光コースから二重橋を外してもクレームはつかないでしょうね。
東京での自由時間での行き先は大きく二つに分かれました。もちろん一つは「秋葉原の電気街」なのは言うまでもありません。ゲーム、漫画、アニメなどの最新ソフトを買うことができるのですから、秋葉原へ行くのが今回の旅行目的だと断言している学生もいたくらいです。あれほど電気屋さんが集まっているトコロは恐らく世界中にないでしょうし、世界の最先端を行くゲーム機器やソフトはまずそこで売り出されるといいますから、ゲームファンやコンピュータのオタクには堪らない街なのでしょう。そんな彼らの感覚は、少しは分かるような気がします。
そしてもう一つは、なんと「東京デイズニーランド」だったのです。さすがに一応大学生である、私のグループからは一人も行きませんでしたが、フロリダからの高校生グループは、こぞって東京デイズニーランドに出かけたのです。フロリダには東京の何倍もの広さのデイズニーワールドがあるし、どうして日本に来てまでデイズニーなのか、全く私の理解の領域を超えています。しかし、彼らにとっては日本のデイズニーを体験することがとてもエキサイティングなことなのでしょうか、もっとも彼らの東京デイズニーの採点は非常に低かったようですが。
最後の3日間、私の生徒さんたちは姿を全く見ませんでした。朝食にも夕食にも現れなかったのです。最後の日、飛行場に向かうバスの中で寝不足と二日酔いにゲンナリした面々に問い正したところ、連日朝の4時、5時まで六本木、原宿で飲み歩いていたと言うのです。そしてマジメな顔をして、「先生、カンチョウって知っていますか、なんですか?」と訊くのです。「カンチョウと言えばお役人が働く政府機関のことでしょう」と答えたところ、そんなじゃなくてと言いながら、両手を拝むように合わせ、人差し指だけを伸ばし、歩いている人のお尻めがけて、カンチョウ!と叫びながらその指をお尻の下から突き上げるアソビなんだそうです。
私は不明にして、勉強不足からそのようなカンチョウを知りませんでした。枕草子にも、ミシマ、カワバタにもカンチョウは出てきません。バタバタとあっという間に過ぎてしまった日本旅行の収穫は、マクドナルドの写真と、ゲームソフト、そしてカンチョウゲームなのかしら。
もう直ぐ新学期が始まります。私の大学のキャンパスで"カンチョウ"ゲームが流行りませんように、と祈らずにはいられません。間違っても女性に行い、セクハラで大きな問題になりませんように。そして地元の新聞に、「日本で大流行の"カンチョウ"ゲーム、アメリカ上陸」、なんて書かれることがありませんように!
第22回:日本道中膝栗毛 その1