第50回:先生がいない!
更新日2008/03/06
アメリカの教育システムの悪さと先生の質の低さは、何も今始まったことではありません。
小中学校の学力国際比較では、先進国30ヵ国中、常に最下位を争っています。昨年は少し順位を上げて、科学分野では17番目、数学では下から5番目のランキングでした。そうなのです。アメリカの中学生で掛け算九九のできない生徒、ニ桁の掛け算や割り算ではなく、単なる足し算や引き算ができない生徒が多いのです。
学力の国際比較では いつものようにトップはフィンランド、シンガポール、スェーデン、アイルランド、韓国が占めています。日本のレベルの低下も悲惨なことになってきているようですが。
現在、アメリカの公立学校(小・中・高)を含め320万人の先生が働いています。そのベビーブーマーの先生たちが昨年くらいから、ドンドン定年退職しているので、先生不足が深刻な問題になってきています。恐らく日本でも団塊の世代の先生が退職するので、先生の数は急激に減っていることでしょうけど、子供の数もそれ以上に減っているので、問題はアメリカほど深刻ではなさそうですが。
アメリカでは向こう7年間に280万人の先生が必要になります。これには公立学校だけの話で、私立の学校の先生は含まれていません。
そこで、この絶体絶命の窮地、先生不足を救うのは誰か? 大学の教員養成を盛大に増やせ、先生をジャンジャンつくれという、お上からの御達しで大勢の教員コースの学生が、私の大学にも入ってきたのです。ところが、ホントのところを打ち明けると(週刊誌なら"衝撃の告白"となるところですが)、教員コースの学生たちは揃いも揃って最低の学生ばかりなのです。一体彼ら、彼女らにとって頭というのは髪の毛を載せる土台としてしか役に立っていないのです。
小学校をまともに出たのか疑いたくなるほどなのです。レポートには、表紙にリボンやハート、漫画を付け、可愛らしく飾ったりするのは得意のようですが、その内容たるや、第一、国語である英語すら満足に、間違いなく書くことができないないのです。スポーツで優待入学している体だけはゴリラ並み、頭脳はおサル並みの学生の方が、個人指導を受けて、突如変身して真摯に勉強し始めることがあり、まだいくらかはマシなくらいです。
私たちの大学の英語学部では、そんな教員養成コースの生徒に教えたい教授が誰もいないので、苦肉の策としてすべての教授が必ず一クラスだけ教員養成コースの英語を教えなければならないと決めました。週一時間ずつ皆が犠牲になろうというわけです。それでも授業を終え教員室に帰ってくるなり、「あの、バカども!」とテキストを机に叩きつける教授がいますし、叩き付けなくてもそうしたいと思っている教授がほとんどでしょう。
そんな、粗製濫造の先生を大量につくっても、アメリカの教育になんらプラスにならないのは、政治家も教育委員も教員組合も充分承知のうえのことなのですが、子供たちには憲法で保障された教育を受ける権利があり、それをないがしろにするわけにはいきません。まずは質より量というわけです。
さらに、これは私個人のことになるかもしれませんが、ショッキングなことに、そんな大学を出たての先生の初任給が定年近い私の月給より高給なところが沢山あるのです(州、郡、教区によって異なりますが…)。同僚の教授たちも、「やってられないなー」と呆れ顔です(公立学校の先生の給料は、全米平均で4万7,602ドル、最高額のコネッチカット州では5万7,760ドル;2004-2005年のデータ)。
また、さらにですが、教員の定着率が悪く、3年以内に教職を辞めてしまう先生が30%に及びます。
フロリダ州で中学校の数学、物理の先生をしている友達と長電話したところ、「去年はマー、そんなに悪い年ではなかったよ。お前を殺してやると本気で脅しをかけてきた生徒がいなかったから」と言っていました。現場の先生たちも命を張って教えてはいるのです。
アメリカの教育には希望の光は差し込んできていません。
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