第289回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2015 ~予選プール前半戦を終えて
中学生の頃から45年以上、約半世紀近くラグビーを観続けてきたが、今回のジャパンの勝利は奇跡というより他なく、あらゆるイメージを駆使しても、このような結果になるだろうとはまったく思いもよらなかった。
前回のこのコラムで・・・
「もちろん本気で勝つ姿勢で臨む南ア戦ではあるが、このチームにはどんなことがあっても勝てない」
と私は断言した。ジャパンに最大の尊敬の念を抱きつつ、心から謝罪したい。そして、慎んで前言を撤回したいと思う。何回繰り返しあの試合の録画を観たことだろう。まるで夢のような、いや夢でも描ききれないようなゲームが繰り広げられている。このようにすれば勝てるというラグビーを、我らがジャパンがプレーしている。
「そんなことできるはずがない」と長年の諦めの固定概念が、そう思わせるのだが、目の前で彼らはそれを打ち破ってくれたのである。テレビ画面に映るプレー中の気合がこもった表情とともに印象的だったのは、プレーを終えて引き上げてきた選手たちの能天気なくらい明るい表情での応援の光景だった。
いつものW杯のように、悲壮感漂う顔つきで戦況を見つめている者は一人もいなかった。「いける、いける、もっと行ったれ!」、彼らの笑顔はそう言っていた。この雰囲気が勝利を呼んだのだろう。
一方の南アのキャプテン、ジャン・デ・ヴィリアーズの表情の変化は興味深かった。ゲーム開始前、ピッチに出てくるときは実に爽やかで明るく、「さあ、始めましょうか」という笑顔だった。
それがゲームが進むにつれ、表情に?・・??・・・???と疑問符が徐々に増え始め、ゲーム終盤では焦りと苦悩がはっきりと顔に浮かんできた。そしてノーサイドの笛の時には、まるで悪夢を見せられているかのように重く沈痛な形相になっていた。
最初は友人の結婚式に招かれたように晴れ晴れとしていた顔が、終いには友人のお通夜に立ち会うかのような顔に変わっていったのだ。
ジャパンはとんでもないことをしでかした後、中3日でスコットランド戦を戦い大敗した。スコアほどの大差のゲーム内容ではないが、スコットランドは南アに勝った日本に最大限の敬意を払い、真摯な姿勢を見せ、全力で戦ってきた。
世界一タフなチームと戦って満身創痍の状況で、ほとんど間隔を持たせてもらえずに次のゲームに臨んだ割には、ジャパンは前半、実に良いゲームをしたと思う。ただ武器である抜群のフィットネスで、後半相手を疲れさせる作戦を遂行することは難しかった。逆に自分たちが疲れてしまい、ミスを突かれていた。
疲労が最大限に達しているので、これはまったく無理もないところだ。しかし、スコットランドに5トライを献上し、ボーナスポイントを与えてしまったことは、今後の行く末を考えると非常に痛かったと思う。
それにしても中3日、そしてその後は中9日となるような歪な日程はどうにかならないものか。殊に中3日で長距離移動付きのゲーム開催は、ラグビーというスポーツの常識では考えられない。スコットランドも、日本戦の後、中3日でアメリカ合衆国戦、そして中5日で南アフリカ戦と、タイトなスケジュールを強いられている。
ホーム・アドバンテージとは言え、全試合、中6日ないしは中7日で同時刻から、しかも強豪国との重要な3試合はホーム・グラウンドのトィッケナムでゲームができる開催国イングランド。少しアンフェア過ぎませんか? まあ、もともと騎士道なんてものは持ち合わせない国のようだけれど…。
閑話休題。ジャパンの勝利をきっかけに、比較的穏やかだと予想されていたプールBが、ここに来て「死のグループ」の様相を呈してきた。ジャパンは、この後もしサモア、アメリカ合衆国に勝利したとしても、南アとスコットランドが3勝1敗の場合は、決勝トーナメント行きがほぼ難しくなる。ジャパンの都合で言えば、スコットランドが南アを破る快挙を見せるか、サモアにスコットランドを打ち負かして欲しい。
それでは、これまで全チームが2試合を戦ってきた中で、他のプールを見ていこう。
まず、文字通りの「死のグループ」となったプールA。オーストラリアは2勝で勝ち点9、得失点差でも大きくリードし、順調に進んでいる。先日のイングランド対ウエールズ、イングランド優位かと思われたが、ウエールズが粘り勝ちをした。
攻守の要で、今大会随一のプレース・キッカー、FBリー・ハーフペニーの欠場で戦力が大幅に落ちたと言われていたウエールズ。イングランドとのゲーム、キッカーの代わりを務めたSOのダン・ビガー、極度に緊張の面持ちで最初のPGを決めた後は、すべてのキックを成功させる(全8本)という大活躍で、立派にその責務を果たした。そわそわと落ち着かず、せわしなく身体を動かした後、助走に入り、一見実に頼りなげに見えるが、ところがどっこいである。
オーストラリアがイングランド、ウエールズとの対戦を残しているのでまだ何とも言えないが、イングランド1歩後退の感は免れない。ただ、野戦病院のごとく怪我人が溢れかえっているウエールズの今後は、不安材料が多過ぎる気がする。
プールCは、ニュージーランドがアルゼンチンに勝ち、トンガがジョージアに敗れたことで、ニュージーランド1位、アルゼンチン2位通過がほぼ決定、おそらくもう風は吹かないだろう。
プールDは、フランス、アイルランドの直接対決により順位が決まり、この2チームの上位進出は揺るがず、他のチームの通過の可能性は考えにくいと思う。
今回は、まだ日本が決勝トーナメントへの進出の可能性があるため、にわかにどこの国が残れるのか、予想を立てたくない思いである。けれども、この初めてのドキドキハラハラ感は、何とも言えずに良いものではある。
10月1日からの予選プール後半戦の熱戦に期待をしたい。
-…つづく
第290回:緊急掲載
ラグビー・ワールド・カップ 2015 ~予選プール戦終了~決勝トーナメントへ
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