のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第254回:流行り歌に寄せて No.64 「ギターを持った渡り鳥」~昭和34年(1959年)

更新日2014/03/27

歌謡曲と映画の関係。まずヒット曲が生まれ、それを主題歌として同名で作られる映画がある。また反対に、映画の方が先に封切られて人気を博し、その主題歌が後にヒット曲になることがある。

『ギターを持った渡り鳥』は後者のケースで、小林旭の代表的人気映画「渡り鳥シリーズ」の第一作である。このシリーズの原型は、3回前のこのコラムでご紹介した『南国土佐を後にして』であるが、こちらは典型的な前者のケースである。

「ギターを持った渡り鳥」 西沢爽:作詞 狛林正一:作曲 小林旭:歌 
1.
赤い夕陽よ 燃えおちて

海を流れて どこへゆく

ギターかかえて あてもなく

夜にまぎれて 消えてゆく

俺と似てるよ…… 赤い夕陽

2.
汐の匂いの する町が

どこも俺には ふるさとさ

ひとりぼっちの さみしさも

ギターお前を つま弾けば

指にからむよ…… 汐の匂い

3.
別れ波止場の 止まり木の

夢よさよなら 渡り鳥

俺も あの娘も 若いから

胸の涙も すぐかわく

風がそよぐよ…… 別れ波止場


斉藤武市監督の日活映画「渡り鳥シリーズ」。主人公の小林旭が扮する滝伸次(たきしんじ)は、元刑事だが、今はギターを抱えた流しとして全国を周っている。そして、その土地土地で出会った様々な悪と戦い、美しい人に巡り会い、心ときめく思いはあるものの、それを振り切って次の地に向かっていく。

その相手役の浅丘ルリ子、好敵手の宍戸錠(「大海原を行く渡り鳥」からは、実弟である郷偆治)、その度に別人になるのが面白い。役名を列記してみると、

「ギターを持った渡り鳥」  秋津由紀  殺し屋ジョージ
「口笛が流れる港町」   相良杏子  太刀岡のクロ
「渡り鳥いつまた帰る」   高見則子  日下部哲
「赤い夕陽の渡り鳥」    二宮靖子  ハジキの政
「大草原の渡り鳥」     清里順子  ハートの政
「波濤を越える渡り鳥」   松本則子  ラオスの虎(滝昭次)
「大海原を行く渡り鳥」   坂井由紀  哲 
「渡り鳥北へ帰る」     岡野由美  ハジキの政(立野取締役官)

ヒーローがずっと変わらず、ヒロインが同じ女優で、すべて違う役になるというのは、おそらく他にあまり例がないことだと思う。

これだけ短期間に共演を重ね、毎回違う形の疑似恋愛をしていれば、実際に惹かれ合っても不思議ではないだろう。このシリーズが撮影されている間のある時期、小林旭と浅丘ルリ子は同棲をしている。この頃の二人は、今見ても実に美しかった。

さて、『ギターを持った渡り鳥』、映画の内容とともに、曲もいかにも西部劇の影響をまっすぐに受けている感じがする。小林旭の持っているギターは、どこのメーカーなのだろう。ウエスタン風の装飾が施されている。

作曲の狛林正一は、ウエスタン調のコードラインを上手に使って、「アキラ節」と言われる、小林の高音の良さを引き出している。狛林はその後も「アキラの・・・」と付くシリーズなど、小林の曲の作、編曲を多く手がけていて、有名な『さすらい』の補作曲、『北帰行』『惜別の歌』の編曲も行なっている。

作詞家の西沢爽は、このコラム『からたち日記』の項でも少し触れた通り、歌謡曲研究家としても大変な尽力をされた人である。殊に名著『日本近代歌謡史』は、平成2年桜楓社から出版された上、中、下3分冊の労作で、明治期、大正期における歌謡の世界を、全52章に亘って詳解している。

この作品により、國學院大學にて文学博士号を取得した。私のように歌謡曲に大変な魅力を感じている者にとっては、バイブルのような作品である。しかし、今は古本として購入する方法しかなく、状態の良いものでは4万円近い高価なもののため、やはり躊躇ってしまうのだ。

彼は上記のような、いわゆる学術的な作品ばかりではなく、『雑学歌謡昭和史』をはじめ、多くの「雑学」シリーズを出して、こちらが唸ってしまうほどの引き出しの多さを披露してくれている。

ところで、昨年末に急逝した大瀧詠一は、少年時代から小林旭の大ファンで、作詞家の阿久悠とともに『熱き心に』を提供したり、作家の小林信彦とともに『小林旭読本』という本を出版したりするほどの入れ込みようであった。

彼は、小林旭に纏わる高田文夫とのトークショーの際、テンガロンハットを被り、ギターを抱えて「滝伸次」に成り切り、開始時間より少し遅れていきなり登場し、会場の拍手喝采を浴びたという。

おそらく、それは彼の生涯の中でも最高クラスの至福の時間だったに違いないと思う。それは、ファンだったら絶対に、一生に一度はやってみたい振る舞いだろうから。

-…つづく

 

 

第255回:流行り歌に寄せて No.65 「アカシアの雨がやむとき」~昭和35年(1960年)

このコラムの感想を書く

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
「南国土佐を後にして」~昭和34年(1959年)

第252回:流行り歌に寄せて No.62
「東京ナイト・クラブ」~昭和34年(1959年)

第253回:流行り歌に寄せて No.63
「黒い花びら」~昭和34年(1959年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【ギュスターヴ・ドレとの対話 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

    

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2019 Norari