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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第260回:流行り歌に寄せて No.70 「再会」~昭和35年(1960年)

更新日2014/06/19

何回か前にご紹介した『東京ナイトクラブ』はフランク永井と、同じレコードのもう片面の『グッド・ナイト』は和田弘とマヒナスターズと共演した松尾和子。その後のマヒナとの『誰よりも君を愛す』では、昭和35年、第2回日本レコード大賞を受賞している。

その彼女が、ソロ歌手としてデビューした曲が、今回の『再会』である。妖艶そのもの、大人の女の雰囲気が匂い立つような歌唱だが、まだ25歳になって間もなくだというのだから、戸惑ってしまう。25歳と言えば、先日無事AKB48を卒業した大島優子の年齢である。

再三繰り返すが、今の人に比べて、昔の人は大人になるのが相当早かったのだろう。

「再会」 佐伯孝夫:作詞 吉田正:作曲 松尾和子:歌  
1.
逢えなくなって 初めて知った

海より深い恋ごころ

こんなにあなたを 愛してるなんて

あぁあぁ 鴎にも わかりはしない

2.
みんなは悪い ひとだというが

わたしにゃいつも いいひとだった

小っちゃな青空 監獄の壁を

あぁあぁ みつめつつ 泣いてるあなた

3.
仲よく二人 泳いだ海へ

ひとりで今日は 来たわたし

再び逢える日 指折り数える

あぁあぁ 指さきに 夕日が沈む


この曲の詞の内容は、かなり重いものがある。おそらく彼女が好きになったのはヤクザの男性。傷害事件か何かで服役中の彼への思いを歌ったものだろう。

そう考えながら3番の詞を読むと、泳いでいる男の裸の上半身にはきっと彫り物が施され、色気のある水着を着た女との絡みの情景は、恐ろしく官能的である。

私は、彫り物を入れる理由も勇気もまったく持ってはいないが、こういう曲を聴くと、なぜかあの背中一面の色彩感に憧れてしまうところがある。心の深いところに小さく隠れている男の生理的な火種に、一瞬ボッと火が付く感じなのだ。

前回の『潮来笠』などの股旅シリーズ、『東京ナイトクラブ』『再会』などの大人の雰囲気を前面に押し出したもの、かと思えば『寒い朝』『いつでも夢を』と言った爽やかな青春歌謡。佐伯、吉田コンビの作り出す歌の世界は、実に幅が広い。

『再会』から11年の昭和46年、このコンビが再び女盛りの松尾と組み、満願成就、彼の出所の日の朝を歌った曲を世に出した。タイトルは『再会の朝』、いわゆる続編ソングで、続編ソングの宿命の如くほとんど売れなかったようである。私はこの曲のことを今回まで知らなかった。

1.
指折りかぞえ また逢える日を

涙こらえて 待ってた私

ようやく鉄の 扉があいて

出られたあなた いい人あなた

泣いたりしない

2.
乱れた髪を どうやらまとめ

ひとりで私 迎えに来たの

あなたの襟の ちっちゃなチリを

つまんだ指も いつもの指よ

ふるえているの

3.
朝霧晴れて 呼んでる並木

喜ぶように かがやく緑

ゆっくり話し いたわりながら

あなたにすがり 強く生きたい

これからの二人


単純に計算すれば、懲役11年の刑だったことになる。単に傷害罪だけでは刑期が長すぎる。あるいはもっと重大なことをしていたのか。

25歳だった彼女は36歳、それだけひたすら待ち続けて、これから二人の人生をやり直すことになるが、やはり多難な道のりになることは間違いない。

それを覚悟しながら生きることができる、やはり女性は強いのだなあと感じてしまう。男が夢見る「待つ女」を描いた、飽くまでも歌の世界のことなのだが、逆の立場の歌は、決して生まれはしないだろう。

さらにもう少し考えを進めると、映画『幸せの黄色いハンカチ』と同様、待つ女たちにとって再会を果たしたその日こそが、彼女たちの人生の中で最高の日なのかも分からない、そんなふうに思ってしまった。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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