のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第269回:流行り歌に寄せて No.79 「北帰行」「惜別の歌」-その1~昭和36年(1961年)

更新日2014/11/06

今回は初めての試みとして、2曲を同時に取り上げてみたいと思う。この2曲は、昭和36年10月5日にコロムビアレコードから、同じレコードのA面、B面として発売されたものである。その両方が、今にも残る名曲として歌い継がれていることは、大変に素晴らしいことだと思う。

いわゆるシングル盤は、発売当時からA面とB面を別の歌手に吹き込ませる方が常識的だったから、両面ともヒットすることは時々あった。けれども同一歌手による両面吹き込みが一般的になってからは、それが少なくなってきた。飽くまでメインはA面、おまけとしてB面というパターンがほとんどだったからだ。

それが意に反して、B面の方に火が着いて、AとBを取り替えてしまうというのはよく聞く話だが、両面とも売れたというのは、資料を見ながら思いついたのは、下に挙げるものくらいなものである。

西田佐知子 『赤坂の夜は更けて』 『女の意地』(昭和40年)、
石原裕次郎 『夜霧よ今夜も有難う』 『粋な別れ』(昭和41年)、
加山雄三 『夜空を仰いで』 『旅人よ』(昭和41年)、
ザ・タイガース 『銀河のロマンス』 『花の首飾り』(昭和43年)、
赤い鳥 『竹田の子守唄』 『翼をください』(昭和46年)、
松田聖子 『ガラスの林檎』 『SWEET MEMORIES』(昭和58年)、
プリンセスプリンセス 『DIAMONDS(ダイアモンド)』 『M』(平成元年)。

こんなところだろうか。

「北帰行」 宇田博:作詞・作曲 小林旭:歌  
1.
窓は 夜露に濡れて

都 すでに遠のく

北へ帰る 旅人ひとり

涙 流れてやまず

2.
夢は むなしく消えて
  
今日も 闇をさすろう

遠き想い はかなき希望(のぞみ)
  
恩愛 我を去りぬ

3.
今は 黙して行かん

何を また語るべき

さらば祖国 愛しき人よ

明日は いずこの町か

明日は いずこの町か  


「惜別の唄」 島崎藤村:作詞 藤江英輔:作曲 小林旭:歌
1.
遠き別れに 耐えかねて
  
この高殿に 登るかな
  
悲しむなかれ 我が友よ
  
旅の衣を ととのえよ

2.
別れと言えば 昔より
  
この人の世の 常なるを
  
流るる水を 眺むれば
  
夢はずかしき 涙かな

3.
君がさやけき 目の色も
  
君くれないの くちびるも
  
君がみどりの 黒髪も
  
またいつか見ん この別れ

4.
君がやさしき なぐさめも
  
君が楽しき 歌声も
  
君が心の 琴の音も
  
またいつか聞かん この別れ


さて、この2曲にはいくつか共通点がある。まず第1点目は、ともに別れを歌った曲であるということ。詳しいことは後述しようと思うが、作られたのは、昭和10年代の中期から後期にかけての日本が最も揺れていた時代、即ち夥しい数の「別れ」があちらこちらで発生していた時代だったのである。

2点目は、ともにある学校の歌と言うことである。『北帰行』は旧制旅順高等学校のいわゆる寮歌であり、『惜別の唄』は中央大学の学生歌である。こちらも後でいくらか述べてみたいと思っている。

そして3点目は、双方ゆっくりとした流れの三拍子の曲になっているということである。三拍子の曲というのは、その曲の持つ哀感を少しずつ引きずりながら進行していくのではないか、と言う思いを私は持っている。

次回は、少し踏み込んでこの2曲について触れていきたい。そして、なぜこの曲を歌ったのが小林旭だったのかも考えていきたいと思う。

それにしても、何とも見事なカップリングだったのだろうとつくづく思う。この時のコロムビアレコードのプロデューサーの手腕には、心からの敬意を表したい気持ちである。

【この項、つづく…】

 

 

第270回:流行り歌に寄せて No.80 「北帰行」「惜別の唄」-その2~昭和36年(1961年)

このコラムの感想を書く

 


金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー

第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー

第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61
「南国土佐を後にして」~昭和34年(1959年)

第252回:流行り歌に寄せて No.62
「東京ナイト・クラブ」~昭和34年(1959年)

第253回:流行り歌に寄せて No.63
「黒い花びら」~昭和34年(1959年)

第254回:流行り歌に寄せて No.64
「ギターを持った渡り鳥」~昭和34年(1959年)

第255回:流行り歌に寄せて No.65
「アカシアの雨がやむとき」~昭和35年(1960年)

第256回:流行り歌に寄せて No.66
「潮来花嫁さん」~昭和35年(1960年)

第257回:流行り歌に寄せて No.67
「雨に咲く花」~昭和35年(1960年)

第258回:流行り歌に寄せて No.68
「霧笛が俺を呼んでいる」~昭和35年(1960年)

第259回:流行り歌に寄せて No.69
「潮来笠」~昭和35年(1960年)

第260回:流行り歌に寄せて No.70
「再会」~昭和35年(1960年)

第261回:流行り歌に寄せて No.71
「達者でナ」~昭和35年(1960年)

第262回:流行り歌に寄せて No.72
「有難や節」~昭和35年(1960年)

第263回:流行り歌に寄せて No.73
「硝子のジョニー」~昭和36年(1961年)

第264回:流行り歌に寄せて No.74
「東京ドドンパ娘」~昭和36年(1961年)

第265回:流行り歌に寄せて No.75
「おひまなら来てね」~昭和36年(1961年)

第266回:流行り歌に寄せて No.76
「銀座の恋の物語」~昭和36年(1961年)

第267回:流行り歌に寄せて No.77
「北上夜曲」~昭和36年(1961年)

第268回:流行り歌に寄せて No.78
「山のロザリア」~昭和36年(1961年)


■更新予定日:隔週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【ギュスターヴ・ドレとの対話 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

    

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2019 Norari