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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第283回:流行り歌に寄せて No.93 「見上げてごらん夜の星を」~昭和38年(1963年)

更新日2015/06/18

私が通っていた高校には定時制課程もあって、私たちのクラブ活動が終わる午後5時過ぎに、彼らは三々五々に通学して来ていた。

全日制が、1学級45名の9学級で3学年、授業が1時限45分の1日6時限(土曜日は4時限)であったのに比べ、定時制は1学級45名のみで4学年、授業は月曜日から土曜日まで1日4時限が組まれていた。

4時限目が終わるのが、午後9時近く。朝の9時から働いて、仕事が終わると急いで学校に入り、9時まで学習している。私など怠け者の学生には到底考えられない過酷なスケジュールを、彼らはこなしていた。

定時制の女子生徒の中に「ダックス・トリオ」と密かに呼ばれていた三人組がいた。その三人は、それぞれ車体カラーの違う、当時流行していた原付バイクDAX HONDAに乗って、お洒落なヘルメットの下に長い髪をなびかせて颯爽と通学してくるのである。私たちは部活の帰り、汗臭く、疲れ切った重い身体を何とか自転車に乗っけて帰宅する道すがら、彼女たちを遠目で見ていた。

とにかくカッコ良く、大人の匂いを漂わせ、当然のことながら、我々全日制の男子生徒の憧れの対象だった。「みんな二十歳になっとるらしいぞ」「俺らの学年の女子とは、どえりゃあ匂いが違っとるがや」「もう、とっくに男を知っとるんだろうな」と口々に、拙い今で言えばボーイズトーク的な噂話をしていた。

あれから43、4年。あの方々にも、今ではそこそこの年齢のお孫さんが何人かいるのが当たり前と言えるほど、長い時が過ぎてしまった。


「見上げてごらん夜の星を」 永六輔:作詞  いずみたく:作曲  坂本九:歌

見上げてごらん 夜の星を

小さな星の 小さな光りが

ささやかな幸せを うたってる


見上げてごらん 夜の星を

ぼくらのように 名もない星が

ささやかな幸せを 祈ってる


手をつなごう ぼくと

追いかけよう 夢を

二人なら 苦しくなんかないさ


見上げてごらん 夜の星を

小さな星の 小さな光りが

ささやかな幸せを うたってる


見上げてごらん 夜の星を

ぼくらのように 名もない星が

ささやかな幸せを 祈ってる


今回、この曲が坂本九の歌唱によって世に出る3年前の昭和35年7月に、同名のミュージカルとして演じられていたことを初めて知った。定時制高校に通うさまざまな青春の姿をテーマにしたもので、台本並びに演出・永六輔、音楽・いずみたく、そして美術・やなせたかし。大阪労音が製作し、大阪フェスティバルホールにて初演された。

いわゆるスターを使わぬ、地味な舞台役者たちによる公演だったが、大変高い評価を得た。翌年には東京でも上演され同じく好評を博した。当時の日本では馴染みの薄かったミュージカルを広めていこうと、永がいずみに話を持ちかけたという。その後多くのミュージカルを手掛けたいずみの最初の作品となった。

その舞台を観た坂本が、自分にも演じさせて欲しいと永にお願いをし、坂本、九重佑三子、ダニー飯田とパラダイス・キングという、今度はスターを揃えた布陣で昭和38年に再演された。

そして、同年坂本を主役に、ミュージカルではない一般のセリフ劇として松竹によって映画化された。そのテーマ曲を坂本が東芝でレコーディングをし、舞台公演が行なわれない地域を含む全国で、この曲が多くの人の耳に届くことになった。

ミュージカルや映画に描かれた時代は、『金の卵』と呼ばれた若者が、中学を卒業して集団就職で都会に出て来た、おそらく全盛期だろう。あの時代は、東京オリンピックを翌年に控え、日本全体が何かとてつもなく大きなエネルギーを持った存在にグングン牽引されていた気がする。そんな中でも、自分の足元をしっかりと見つめ、地道に勉学に励む日々を送っていた若者が数多くいたことを、私は、やはり誇りに思う。

さて、この曲も実に多くの人々によってカバーされているが、私はフォーリーブスによる歌唱が一番印象に残っている。彼らは、冒頭の私の高校時代である昭和48年に、南沙織とともに同名のミュージカルを演じた。坂本らによる初演から10年、定時制高校の様相は大きく変わってはいたが、やはり大阪、東京での公演は成功した。

そして、CBSソニーによってレコーディングされたテーマ曲も再びヒットしている。私がダックス・トリオのお姉様方に憧れていた同時期に、フォーリーブス版のこの曲を聴いていたのである。

この曲は、なぜか今は、取り戻すことのできない寂しさを伴って私の中に響いてくる。胸の中が切なくなってきて、全曲を聴くのが苦しくさえある。それは、九さんを始め、ター坊、コーちゃんらすでに他界してしまった人々の歌う姿が脳裏に浮かぶからかもわからない。どうにも説明がつかないが、彼らの姿を思い起こすことは、無性に哀しいことなのだ。

-…つづく

 

 

第284回「流行り歌に寄せて No.94「巨人軍の歌?闘魂こめて」?昭和38年(1963年)

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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