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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第420回:大阪の車窓から - 大和路快速 大阪-天王寺 -

更新日2012/05/04


今日は福知山線を踏破する予定だ。ただし、その前におおさか東線に寄る。とにかくもっとも早い時間の列車を乗り継ぐしかない。福知山駅で山陰線に乗り換え、豊岡で泊まる予定である。

新大阪駅で予定の電車に間に合わなかった。しかし、運行頻度の高い区間だから、次の電車で先へ行く。終電よりずっと早い時間だから、辿りつけないという事態にはならない。ただし、未乗区間で日が暮れるという、ちょっと残念な結果になる。


207系電車で新大阪から大阪へ
紺の帯が銀の車体を引き締める

福知山線は新三田から北側の運行本数が極端に少ない。今日の大阪の日没は18時14分。日没後30分は車窓を見られるほどの薄暮だろう。今日の予定は福知山着が17時39分だ。これを逃すと次は18時09分着。その次は19時17分着となる。福知山線の未乗区間は谷川までだから、この列車でも大丈夫だ。しかし、行程の始めで列車が遅れると、しだいに遅れが増幅することもある。油断できない。

新大阪駅から東海道線に乗り、水面が輝く淀川を渡って大阪駅着。大阪駅訪問は2009年9月にトワイライトエクスプレスに乗って以来、3年半ぶりだ。大阪には何度か来たけれど、飛行機や夜行バスで往復し、目的は私鉄ばかりだったから、JR西日本自体が久しぶりであった。大阪・東京・名古屋は、JRなしでも移動できるくらい私鉄が充実している。


大阪駅のドームを見上げる

ホームから連絡橋に上り、リニューアルされた高い天井を見上げた。大阪駅は2011年5月にステーションビルやホーム上屋などが建て替えられた。明るく、壮大な景観である。京都駅や大阪駅は近代的な建築で堂々たる構えになり、東京駅丸の内口は開業当初の姿へと復元されている。歴史を重んじるか、未来の姿にするか、対照的である。

JR西日本の場合、大阪駅は未来に近づいたけれど、電車の方は伝統を重んじている。大阪環状線は国鉄時代からの201系が多い。103系もまだ残っている。どちらもJR東日本管内では引退している。JR西日本は古い電車を大事に使う。福知山線事故の補償や安全設備投資が優先されて、古い電車を使わざるをえないという事情かもしれない。

新大阪で乗り遅れているから、ここでも予定の電車には乗り継げない。当初の予定では大和路快速に乗って大阪環状線から関西本線に直通して、久宝寺でおおさか東線に乗り換える予定だった。大和路快速に乗り遅れたら、次の大和路快速を待つより、京橋で片町線に乗り換えて、放出でおおさか東線にに乗り換えるという案もある。おおさか東線は久宝寺と放出を結ぶ路線だ。最終的に京橋からJR東西線に乗れたらいい。


大和路快速は221系。上品な塗色

どちらのルートにしようかと携帯端末で乗り換えルートを検索しつつ、ホームの発車案内を見ると様子がおかしい。もう出発したはずの14時13分発の大和路快速がまだ表示されており「遅れ4分」とある。その4の数字が5になり、6になり、どんどん大きくなっていく。そこでやっと構内放送に気づいた。

大阪環状線は福島駅パンタグラフにビニールが付着して運休、運転を再開したばかり。こういう状況では乗り換え案内サイトは役に立たない。内回りもまもなく再開という案内放送を聞いて待ち、遅れてきた大和路快速に乗った。当初の予定で乗ろうとしていた電車だ。電車には間に合った。しかし時刻は10分遅れ。どこで取り戻せるだろう。

大和路快速は面白いルートを走る列車だ。天王寺と奈良方面を関西本線経由で結ぶ列車だけど、下りは天王寺からいったん大阪環状線を一周し、また天王寺に戻って関西本線に入る。上りは天王寺に到着して、さらに大阪環状線を一巡する。丁寧に大阪都心のお客さんを拾っていく列車である。和歌山線の関空快速も同様だ。


ブリッジ型の梅田スカイビル

東京の路線で例えると、大崎から山手線を一周してから横須賀線に入るとか、池袋から山手線を一周してから埼京線に入るような形態だ。直通は便利だ。しかし行き先をよく確認しないと乗り間違えそうで怖い。大阪駅で内回りと外回りに大和路快速が来たら、どちらかは奈良へ行くけれど、どちらかは天王寺止まりである。天王寺止まりは大和路快速の表示をやめて「天王寺行」にしてもらいたい。

車窓から梅田スカイビルが見える。展望レストランやオフィスが入るビルだ。私にとっては東京大阪間の夜行バスのターミナル。今回も帰りはあのビルの下から夜行バスに乗る予定である。このあたりは東海道線の複々線が並行するから線路が多いけれど、すぐに右へ別れてしまい、こちらは複線のみになる。次の駅が架線支障のあった福島だ。すっかり片付いたようで、電車は何事もなく停車し、発車した。

福島の先で車窓右側に線路が上ってくる。梅田スカイビルの脇に貨物操車場があり、そこから延びた短絡線である。北は東海道本線とつながっていて、東海道本線と阪和線を直通する特急列車はこちらを経由する。単線だからダイヤ設定に苦労しそうである。この線路は西九条駅付近だけ複線になり、列車のすれ違いができるようだ。ホームはない。西九条からは桜島線が分岐する。

大阪環状線は山手線のような環状の路線だが、実際に環状運転する列車の割合は少ない。通勤時間帯は半分程度、日中は4分の1で、運行間隔は15分おきである。これ以外は大和路快速、関空快速などの乗り入れ列車や区間運転となる。関空特急「はるか」や和歌山線経由紀勢本線の特急「くろしお」も大阪環状線を間借りする。

短絡線は桜島方向の線路につながり、大阪環状線の複線のみになる。西九条駅には短絡線と桜島線と大阪環状線を行き来できるように、渡り線と高架線が組み合わされている。弁天町で地下鉄中央線と高速道路の下をくぐり、左カーブの先で廃止された貨物線と合流。その先に野球場の京セラドームが現れる。車窓見物が忙しい。


関西本線の線路に移った

大正、芦原橋を過ぎて今宮。ここでJR難波からやってきた関西本線と合流する。次の新今宮までが方向別複々線区間で、この隙に大和路快速はひらりと関西本線側の線路に移動。新今宮は通天閣の最寄り駅。数年前にバイク仲間と遊びに来た思い出がある。ジェットコースターが館内を走るデパートがあったな、と思ったら、その解体工事現場を通り過ぎた。バブルの遺産がまた一つ消える。諸行無常の光景であった。

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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