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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第418回:44歳、ほろよい列車初体験 - こだま645号 -

更新日2012/04/19



列車で酒を飲む。44歳にしてはじめての経験である。

こだま645号新大阪行き。グリーン車に乗っている。贅沢だけど、ぷらっとこだまというツアークーポンだから安い。普通運賃が13,750円に対し、このクーポンなら10,000円ちょうど。しかも、1,500円の加算でグリーン車を利用できる。グリーン車の正規運賃と比較すれば6,890円も安い。


旅の始まりは新幹線こだま号

難点は、乗り遅れたらチケットが紙切れになってしまうところ。ツアー扱いの旅行商品だから、通常の乗車券とはルールが違う。山手線内、東京都区内のルールもなく、東京駅までは自腹である。私の場合は地下鉄で大手町に行き、そこから徒歩で東京駅に向かうから、これは苦にならない。時間に余裕を持って駅に行き、指定された席に座れば安心である。

さらにドリンクチケットも付いている。これは旅行商品の体裁を整えるための方便であろう。コーヒーかソフトドリンク、ビールのいずれかと交換できる。以前は車内販売のホットコーヒーを頼めたけれど、先週のダイヤ改正でこだま号の車内販売は廃止されてしまった。私は売店で缶入りハイボールを選んだ。ビールと書いてあるけれど、同等のアルコール商品でもいいらしい。ソフトドリンクよりもアルコールの方が高価だから、制度を使い尽くしたようで気分がいい。


先週限りで300系が引退。こだまも700系になった

コーヒーだった。今回は酒だ。徹夜明けだし、いっぱい引っ掛けてひと眠りしようという魂胆である。列車で酒を飲むという、大人の嗜みを経験したかった。酒に弱かった私が、自ら酒を望んでいる。そう、私は変わった。身体を改造した。

そういえば、去年の今頃も東海道新幹線に乗った。『のぞみ』で名古屋に向かい、リニア・鉄道館を目指した。あのとき、車窓から青空と富士山を見て、これが最後の旅だと覚悟した。旅から戻ったら入院する予定だった。糖尿病と診断されていた。最悪の場合は膵臓癌であった。

しかし入院検査の結果、癌ではなく、肥満によるインスリン不活性化と判明した。肥満を解消すれば治る。いや、体重を落とさなければ死ぬと言われた。そこでカロリー制限によるダイエットを始め、半年で30kgの減量に成功した。体重98kgから67kgへ。血液検査の異常値はすべて改善された。そして、酒を飲める身体になった。肝臓が正常に働くようになったらしい。友人と居酒屋に行った時、付き合いでハイボールを頼んでみたら、おいしく飲めてしまった。2杯も。


旅の始まりは新幹線グリーン車

チケットの手配は先週で、グリーン車の残席は僅か。しかも喫煙席しかなかった。幸いにも海側の窓側である。喫煙席といっても、最近はタバコを吸う人は少ない。ましてや日曜の朝遅めである。タバコでストレスを紛らわす人は少ないだろう。その読みは当たった。私の隣は女性で、タバコを吸わないようだ。暖かいですね、と挨拶しておく。通路を挟んだ隣がこの女性の夫らしい。好都合だ。会話に気を使わなくて済む。

残席僅か、という話だったけれど、グリーン車の客は私の周囲の数名だけである。こだまはもともと乗車率が低いし、これがぷらっとこだまで確保した枠なのだろう。お隣さんたちも静かだ。こうなったら、とっととハイボールを飲んで寝てしまおう。こだまの車内販売がなくなったということは、眠りを妨げられない、ということでもある。むしろサービス向上になったともいえる。


カクハイボールでほろよい気分

新横浜到着までは覚えていた。気がつけば田園地帯。酒の効果か、徹夜明けの疲れか。その両方か。車窓は1年前と同じ快晴。隣人も眠っている。富士山が見えている。私は静かに座席を抜け出し、山側の座席に移動した。こちらのほうが富士山をよく見渡せる。あの時は死にゆく私への神の慈悲だと思った。いまは祝福された気分である。

新富士駅に到着。よく眠ったと思ったけれど1時間ほどだった。車内放送。この駅で2本の列車に抜かれるという。新幹線でありながら各駅停車。ローカル線の雰囲気である。静岡でも1本抜かれた。酒のせいか、ぼんやりと心地よい。豊橋でも長時間停車を告げられた。私はホームに出て売店を探した。駅弁屋とキヨスクが寄り添っている。空気がひんやりとしている。


車窓より祝福の富士山

私はまず、キヨスクで『豊橋ブラックサンダーミニ』を2箱買った。コンビニなどで売れているチョコレートクッキー『ブラックサンダー』は、有楽製菓の豊橋工場が開発した。その豊橋限定版がキヨスクで販売されている。個包装袋に豊橋の観光地などが印刷されている。真夏に来た時は売っていなかった。今回はあった。行きの道中だが、もう土産を買っている。

次に隣の駅弁屋で『ちくわいなり寿司』を買った。これは昼食用である。この列車の新大阪駅着は13時50分。こだまは東京から新大阪まで、約4時間かけて走る。豊橋が、ちょうど道中の半分であった。


豊橋駅で買い物

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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