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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第437回:若狭湾、青戸入江、小浜湾 - 小浜線 東舞鶴 - 小浜 -

更新日2012/08/31



小浜線の電車は銀色の車体にエメラルドグリーンの帯を巻いていた。クモハ125とある。車両の両端に運転台があって、1両でも運転できる。それが3両つながっている。先頭車はクモハ125-1、トップナンバーだった。新しい電車だと思ったら製造年は2002年と書いてある。もう10年も経っている。ステンレスボディは古さを感じさせないと感心する。


小浜線専用? の125系電車

あまり見かけない電車である。小浜線に投入され、今後は各地の電化ローカル線に導入されていくのだろう。観察してみると興味深い所がいくつか。単行で使うローカル線用だけど、乗降扉は通勤ラッシュ用の両開き。なぜか中央部にはめ殺しの扉がある。開けられないから非常扉ではなさそうだ。ここに扉を設けた仕様を作るため、車体を共通の設計にしているのだろうか。

座席は二人がけの転換クロスシートが並ぶ。ただし、中央部のはめ殺し部分は背中合わせになっていて、すこし隙間が開いている。そこに折りたたみ式の簡易シートが設けられていた。妙な空間だ。個の空間にも見えて、通学中のカップルがイチャイチャするには良さそうだ。けしからん、いや、うらやましい。いやいや、余計なお世話か。


はめ殺しの扉とイチャイチャスペース

製造10年、まだ新しい125系の旅が始まった。08時55分発の敦賀行き。しかし、いきなり残念な気持ちになる。窓が汚い。離れていると気づかなかったけれど、窓ガラスから50cm以内に近づくと、埃の膜ができている。長い間、洗車をしていないのだろうか。それとも最近降った雪のせいだろうか。線路脇に雪が残っている。雪が降れば、一晩でこんなふうになるかもしれない。そういえばここは日本海側。黄砂が届く地域でもある。

窓の汚れにもっと早く気づけば良かった。ホームからウェットティッシュで拭き取れたかもしれない。肉眼で景色を見るには困らないけれど、車窓にカメラを向けるとピントが合わない。マニュアルフォーカスにすればいい話であるけれど、近視が進んだせいもあって、最近はオートフォーカスに慣れてしまった。

電車は高架線を進み、舞鶴の町を展望する。学校などのビル以外は黒い瓦の家が多い。甍の波、というやつか。若狭瓦という看板が見えた。若狭瓦はこの土地の粘土が使われ、黒と言うよりは「いぶし銀」という独特の色合いがあるという。江戸時代に小浜城に採用されてから評判が広まり、北前船の商材のひとつとして北海道にも渡ったそうだ。

もっとも、若狭瓦は今では伝統工芸品であり、最後の職人も2010年に引退した。これだけの民家の瓦は賄えないだろう。若狭瓦に似せた量産品だろうか。せめて色合いだけは継承したい、あるいは、なんとなく瓦はこの色、と思っている人が多いかもしれない。


青葉山を望む

甍の波を過ぎて、谷間を通り抜けても海は見えず。小浜線は内陸を進み、舞鶴湾と若狭湾を短絡する。青郷という駅の左手、粉砂糖をふりかけたように雪を残した山が見える。標高693mの青葉山。若狭富士の名もあるらしい。

視線を手前に戻せば田畑が広がっていく。三松駅を過ぎると海が見えた。濃い青色である。その海が遠ざかり、次の若狭高浜で列車交換。お互いに入線し、同時に発車する。良いタイミングである。こんなふうに、あらかじめ作った段取り通りに事が運ぶと気持ちいい。しかし自分の暮らしではなかなか段取りよくいかない。私の鉄道好きは、段取りの良さへの羨望が混じっている。

海が遠ざかった理由は、線路が大島半島の付け根に敷かれているからだ。大島半島は元々は島だった。天橋立のように砂州がつながり、土が堆積した陸地とつながった。その半島の低い山が見えて、手前に水面がある。地図には青戸入江とある。これも天然の良港といえそうだ。その入江に面した公園があって、その最寄駅が若狭本郷になるのだろう。

ホームの柵の向こうにレトロな蒸気機関車が置かれている。運転台のプレートに「YOSHITSUNE」、炭水車には「經義」と書いてある。義經といえば明治時代に北海道で走っていた機関車だ。もっともこれはレプリカだという。本物の義經は大阪の交通科学博物館にあるらしい。


なぜか鎮座する義經号

なぜここに義經、しかもレプリカが置かれているかといえば、1990年に大阪で開催された博覧会で、本物の義經が復元されて運行したからだ。その時の駅舎を若狭本郷駅に移築した。機関車も合わせておきたかったけれど、本物は置けず、代わりにレプリカとなったらしい。


大島半島と青戸入江にかかる橋

大島半島の東側は小浜湾である。青戸入江の入り口で両岸を結ぶ橋が見えた。水平線は見えない。小浜湾を形成する大島半島と内外海半島が湾を抱え込み、遠くに低い山が連なっていた。瀬戸内や松島の景色に似て非なる、これもなかなか良い景色である。電車はかなりゆっくり走っている。線路保守工事ではなさそうだ。観光アナウンスは聞こえなかったけれど、景色の良い所で徐行するサービスかもしれない。


小浜湾西側の景色

09時40分、小浜駅に到着。この列車は終点の敦賀まで行くけれど、私は小浜で降りた。時刻表地図で観光船を見つけていたからだ。長い路線を、始点から終点まで、ただ通り過ぎてはもったいない。なるべく、その路線らしい観光地に立ち寄りたい。

観光地の規模は、観光船、ロープウェーの有無でだいたい分かる。今日の海は青くて穏やか。いったいどんな景色を見せてくれるだろう。


小浜駅到着

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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