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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第419回:雨、雪、晴れを駆け抜ける - こだま645号(2) -

更新日2012/04/26



豊橋で2本の後続列車に抜かれて、ここ三河安城でも1本の列車に進路を譲った。新幹線だけど各駅停車はのんびりしている。豊橋ではホームに出て弁当を買う余裕もあった。在来線の特急は停車時間が短いから、かえってやりにくい。それを新幹線でできるという愉しさ。

他の手段と比較してみよう。こだま645号は東京駅を09時56分に発車する。新大阪駅は13時56分だ。のぞみだと10時ちょうど、新大阪着は12時33分。1時間20分。仕事や冠婚葬祭の旅ならもったいないと思う。しかし旅なら大した差ではない。

在来線ではどうか。東海道線の各駅停車を乗り継ぐと、東京駅を09時42分発の各駅停車で始まり、熱海・島田・浜松・豊橋・米原で乗り継ぎ、大阪着は18時43分。東名ハイウェイバスもほぼ同じ。これでは到着した日に何もできない。夜行バスのほうがマシだ。


ちくわいなり寿司弁当。600円でお腹いっぱい

飛行機は速い。しかし空港からのアクセスを考えると、のぞみと同じくらいである。1万円くらいの事前割引運賃なら選択肢に入る。早めに計画を立てられるならこれもアリだ。

所要時間と料金を考えるなら、ぷらっとこだまは素晴らしいツアーだ。各駅停車なんてストレスだと思っていたけれど、こだまは追い越されるとすぐに発車し、加速がいい。抜かれても悔しくないし、むしろ、何度も加速感を楽しめる。

豊橋で冷たい風に当たったせいか、眠気は覚めた。缶入りハイボールの酔いは、意外にも長持ちしない。肝機能向上の効果なのだろう。太っていた頃は、カクテルひとつで翌朝まで体調が優れなかった。

豊橋で買ったちくわいなり寿司弁当を開けた。2度目である。前回は豪雨の沼津駅で食べた。あの時は鞄に入れて揺らしたお陰でぐちゃぐちゃになっていた。今回は形が整っている。いなり寿司の上に大葉の天ぷら、うずらたまご、ちくわ。いなりと一緒に食べるより、別々に食べたほうがうまい。いなり寿司は皮に噛みごたえがあり、噛みしめて味が濃い。こんなに繊細な弁当だったとは。これで600円は安い。

食べているうちに名古屋に到着。ホームに大勢のお客さんがいる。しかし、グリーン車の窓から見える範囲で、こだま645号の到着に連動した動きは少ない。意外にも名古屋で緩急接続がなかった。三河安城で先行したのぞみからの乗り継ぎがあるかと思ったけれど、のぞみの通過駅は岐阜羽島と米原だけ。そこまでの需要が少ないらしい。

静岡では快晴で富士山も見えた。しかし名古屋付近は曇っている。車窓は暗い。こうした天気の変化も高速列車ならではのものだ。窓から小さな泡がはじけるような音。雨だろうか。車窓の道路に注目する。乾いていたアスファルトが、岐阜羽島の手前で濡れて色濃くなっている。窓にも雨粒がついた。


関西の車両が見えた。手前は除雪車両

関が原のトンネルを抜けると雪景色になった。3月下旬というのにまだ雪が残っている。そういえば東海道新幹線は雪に弱い。これは迂闊だった。今日は幸いにも積雪が少なくダイヤに乱れはない。しかしまだ雪が降る時期だった。そういえば、今年は春が遅いとも言われていた。

私の旅は鉄道のダイヤが正常でないと破綻しやすい。ギリギリの時間で乗り継ごうとするからだ。本数の少ないローカル線に乗る機会も多い。たった1本乗り遅れただけで家に帰れない日もある。積雪の時期は飛行機のほうがいいかもしれない。


京都らしい車窓

雪の区間は短かった。京都駅に定刻で到着。住宅や低層ビルの低い街並みに、ニョキッと五重塔が立っている。その気高さに遠慮しているのか、この辺りの区間は屋外広告が少ない。隣の夫婦もまだ乗っていた。こだま号の価値がわかる人たちだ。ふたりともずっと眠っていた。こだまの4時間は一眠りにちょうどいい。のぞみの2時間半は扱いに困る。


新大阪に到着

定刻に大阪着。閑散とした列車だと思っていたけれど、意外にも人が降りて、下りエスカレーターに列ができている。私は混雑を避けるつもりでホームをぶらつき、最後部車両の写真を撮ってからコンコースに降りた。乗り継ぐ列車は14時ちょうどの東海道本線下りである。乗り換え改札に行きたいけれど、ぷらっとこだまはツアー扱いだから通れない。有人窓口に行き、クーポンを渡して改札外に出た。


ホーム端の信号機? こだま645号を示す

在来線の改札口はかなり遠回りだ。JR東海とJR西日本の縄張りの違いを思い知らされる。いや、ほんとうはもっと近いところがあって、私が慣れていないせいかもしれない。ともかく、すでに5分が経過している。急がないと予定の電車に間に合わない。在来線改札について、鞄から青春18きっぷを取り出す。


九州行きの新幹線車両がいた。乗りたい……

ふと顔を上げると、改札口の隣に看板が立っている。文字が細かい。列車の遅延か運休の案内かと思ったら、福知山線脱線事故のお詫び文だった。平成17年、もうあれから7年になる。1月に経営者の責任を問う刑事裁判が行われ、経営者は無罪。検札の控訴断念で結審した。しかし贖罪はまだまだ続くのだ。


福知山脱線事故のお詫び文。
いつまで掲示されているのだろう 

この白いポスターが、私の心をチクリと刺した。
今日の予定に、福知山線の該当区間が入っている。

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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