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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第440回:日本通のSeishun18 - 湖西線・奈良線 -

更新日2012/09/20



敦賀駅は開業130周年の横断幕がある。今年は鉄道開業140年だったはず。新橋、横浜間の鉄道開業から10年で敦賀が開業した。それほど敦賀は重要な港だったのだろう。東海道本線の全通より5年も早い。そして、当初、この駅は東海道線に所属していた。帳簿上の話かもしれないけれど、神戸、大阪、京都、長浜、敦賀を結ぶルートは重要な幹線だったわけだ。この時代、日本は日本海からアジア、そして世界を見ていた。

仮設駅舎の待合室は小さく、町医者の病院のようだった。その壁を使って歴代の駅舎の写真を飾っている。交流電化、北陸トンネル開通の記念式典の写真もある。駅舎は小さかったけれど、重要度は大きかった。鉄道が改良されるたびに賑わったようだ。最近では2006年に北陸本線の長浜と敦賀の間の電化方式が交流から直流になった。これで近畿方面からの直流電車が乗り入れ可能となり、運行頻度が上がって快速列車も走りはじめた。


直流電化された敦賀駅、223系快速が出発を待つ

その快速電車に乗った。13時23分発、網干行きである。かなり長い距離を走る列車だ。湖西線を経由して京都、大阪、神戸、姫路を通る。走行距離は235km、所要時間は3時間半もある。乗り通してみたいけれど、今回は京都で降りる予定である。電車は4両編成の223系、クロスシートだから前向きに座れる。快速、快適である。

昼下がりの列車だから空席が目立つ。無人駅の多い地域から都市へ向かう列車だからか、車内で検札があった。通路の反対側に白人男性が二人いて、車掌に青春18きっぷを見せた。海外からの旅行者だとしたら、こんなきっぷをよく知っているなあと感心する。留学生だろうか。あるいは、日本への旅行者向けのサイトで紹介されているのだろうか。ユーレイルパスくらいは知られているのかもしれない。


窓ガラスが大きく明るい車内

近江今津駅で前方に待機していた電車と連結した。その様子を運転台の後ろから撮影する女性がいる。一時期は鉄子などと騒がれたけれど、もうどこでも当たり前のように見かける。そもそも鉄道趣味は性別に関係ない。いや、あらゆる趣味に性別は関係なかろうと思う。なんでも老若男女で仕分けるなんて古い考えだ。

連結作業がすぐ終わったけれど、列車は9分間も停車する。私は増結した前方の編成の、やはり先頭車両に移った。運転台後ろには立たないけれど、車窓を観るために、前方の様子を伺えたほうがいい。もうすぐトンネルだ、鉄橋だ、と察知できるからだ。こちらの車両も空席が多く、こども二人を連れた母親が乗っていた。


琵琶湖の青さが美しい

快晴の車窓、湖西線は高架が多く見晴らしがいい。前回の乗車は上りの寝台特急日本海から、朝だった。あの時より日光が強いから、琵琶湖の水の青さが増している。電車は近江舞子まで各駅に停まり、そこから5つの駅を通過する。和邇駅にたくさんのお客さんがいたけれど、そこも通過した。近畿都市圏に入ったということか。

堅田で各駅停車を追い越す。117系電車だった。流線型の顔、懐かしい電車である。あの電車が新快速専用としてデビューした時、私は小学6年生だった。懐かしいといっても乗ったわけではなく、その頃から私は鉄道雑誌を読み始めており、「関西の国鉄は、普通列車にこんなカッコいい車両を使うのか」と強烈な印象を持った。117系は、それまでのいかめしい153系を置き換えて、関西の私鉄に勝負を挑んだ電車だった。名古屋のリニア鉄道館では屋外で展示されている。それがいま、ここではローカル運用で余生を送っている。敬礼したくなる。

14時58分に京都着。新快速の本領発揮はここからという気がするけれどお別れである。名残惜しいが時間がない。次の奈良線、奈良行きは6分後だ。奈良線の乗り場に行くと、途中の城陽行きの各駅停車が待機している。この電車は私が乗る奈良行きの後に出る。車両は103系のうぐいす色。これも懐かしい。JR西日本管内では、ときどきタイムスリップした気分になる。


奈良線は103系が現役

15時04分発の快速電車は221系の6両編成。『みやこ路快速』という愛称がついている。京都と奈良、二つの古都を最短で結ぶから、観光客で混んでいた。遠足か修学旅行か、小学生の団体も賑やかだ。その人々をかき分けるように先頭車へ向かった。外国人も多い。京都、奈良は近鉄特急の独壇場かと思ったら、そうでもないらしい。ジャパンレールパスがあるからだろうか。

いや、青春18きっぷの時期だからかもしれない。後に調べてみたら、JR東日本は英語版の『Seishun18』紹介サイトを用意していた。日立は路線検索サイト『ハイパーダイヤ』の英語版、中国語版を公開している。日本を訪れるバックパッカーにとって、青春18きっぷは有名かもしれない。少なくとも使いこなす環境は用意されていた。


春の宇治川を渡る

奈良線の乗車は1984年4月以来、28年ぶりである。当時の私は高校生。景色の記憶は薄れていて、当時はクロスシートの快速などなかったような気がした。それどころか、電化していなかったかもしれない。電化して快速も走るくらいだから、全区間複線かと思ったら、三つ目くらいの駅から単線になった。未乗の路線を訪問したようで楽しい。

桃山駅を通過した。安土桃山時代の桃山ではないかと思う。時代の名前にもあるような駅で、明治天皇のお墓の最寄り駅でもある。通過していいのかと思う。ともかくみやこ路快速は通過した。単線区間だけど、かなり高い速度である。単線でもライバルの近鉄と競っているようだ。


高架の奈良駅に到着

空調が弱いせいか、乗客の人いきれか、少し汗ばむくらいである。車窓の桜は三分咲きくらいのようだ。そうか、気温が高いのだなと思う。昨日は福知山で満開の桃の花を見た。午前中は小浜線で線路際の雪を見ていた。列車に乗り、移動するたびに季節が移りゆく。日本はまさしく四季の国である。この時期、青春18きっぷを持つ外国からのお客さんは幸運だろう。もしかしたら、日本人よりも日本通の旅人かもしれない。


到着した電車は、すぐに折り返し京都行きになった

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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