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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第416回:貨物路線の御開帳 - 鹿島臨海鉄道鹿島臨港線1 -

更新日2012/04/05



食欲の秋、読書の秋、鉄道の秋である。10月は鉄道に関するイベントが多い。新暦10月14日、旧暦9月12日が鉄道の記念日だからである。1872(明治5)年のこの日、新橋と横浜の間で日本発の鉄道が開業した。国鉄はこの日を鉄道記念日とし、社内外でイベントを実施していた。大規模なダイヤ改正も10月に実施された。

国鉄がJRになってしばらくして、国土交通省が音頭をとって「日本の鉄道すべての祝賀行事にしよう」となり、鉄道記念日は『鉄道の日』となった。日比谷公園で国交省関連の鉄道フェスティバルが開催され、全国の地方鉄道がオリジナルグッズを販売する。駅弁もある。ステージも催しがある。お上が奨励すれば動きだす。それが認可事業である。


私の旅では珍しく普通乗車券を買ってみた

そのほかに、全国の鉄道事業者がこぞってイベントを始めた。創業日に記念イベントを実施する私鉄もあるから、年に2回もイベントを実施する会社もある。ただし、すべての鉄道会社が10月14日に集中すればお客が分散してしまうし、10月14日は国民の祝日ではないから、概ね9月から11月にかけての週末に分散している。鉄道ファンにとっては楽しい状況になってきた。

10月15日。日曜日。東京駅から総武線快速列車に乗った。目的地は鹿島臨海鉄道である。同社のイベントは、ふだん乗れない貨物線に乗車できるツアーだ。神社仏閣に例えるなら、年に一度の御開帳である。鉄道イベントといえば物販ばかりで、コレクション癖のない私には今ひとつだけれど、ふだん乗れない線路に乗れるなら乗ってみたい。


各駅停車より速く特急より遅い快速列車の旅

みどりの窓口で買ったきっぷは、『東京山手線内→鹿島サッカースタジアム駅』。鹿島線の列車は鹿島神宮が終点であるけれど、鹿島臨海鉄道の列車が走る鹿島神宮駅と鹿島サッカースタジアム駅の間の区間もJR東日本の線路である。たった一駅だけ乗り入れている格好で、鹿島サッカースタジアム駅までがJR東日本の乗車券となる。


さよなら113系

総武線の沿線にはカメラを持った人が多い。そういえば今日は113系の引退記念列車も走る。JR東日本千葉支社のイベントである。駅を進むたびにカメラを構える人たちの表情が仕草に緊張感が増す。津田沼駅に大勢の人々がいて、その先で113系とすれ違った。津田沼発長野行きである。長野にはJR東日本の解体工場があるという。


生まれ変わった209系

千葉駅で成田線直通列車に乗り換え、成田駅で鹿島線直通列車に乗り換えた。どちらも209系の改造車で、京浜東北線から引退した車両である。209系もほとんどが『長野送り』となって、状態の良いものだけが千葉に転属となった。ボックスシートがしつらえられて、通勤電車から旅気分の列車に生まれ変わった。鹿島神宮駅着は昼過ぎであった。今度は鹿島臨海鉄道の赤いディーゼルカーに乗り換えてひと駅。


ボックスシート付きの車内

鹿島サッカースタジアム駅は、JR東日本と鹿島臨海鉄道の接続駅であり、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の終点である。しかし、ここは茨城県立カシマサッカースタジアムのイベント開催日しか営業しない。接続駅にもかかわらず、他の日の旅客列車はすべて通過してしまう。珍しい処遇の駅である。今日のイベントは鹿島サッカースタジアム駅に集合し、貨物線行きの列車に乗る段取り。サッカーにさほど興味のない私にとって、この駅で乗降できる珍しい機会でもある。


さらに鹿島臨海鉄道へ乗り換え

その珍しい臨時駅で降りると、数十名の鉄道ファンや家族連れがいた。駅の出入り口は線路をまたぐ歩道橋にあり、その歩道橋のフェンスから機関車や貨物列車が見える。留置線が多い。ここは旅客駅ができる前は、貨物操車場であった。鹿島臨港線で荷物を搭載した貨車はここに集積され、スイッチバックする形でJR東日本の鹿島線へ送り出される。


主力事業は貨物輸送

風よけ程度の簡素な臨時出札所があった。ツアー参加を申し出てきっぷを買う。『鹿島サッカースタジアム駅←→神栖駅』の往復きっぷで500円。神栖駅で下車はできないので、いわば入場券のようなものだ。発車までの時間、私もフェンス越しに貨車や機関車の写真を撮影してみた。フェンスの柵の角度と列車の位置が微妙である。隣でカメラを構えた人と、「うまくいきませんね」と言葉をかわしつつ位置を譲りあう。


臨時駅を訪れる貴重な機会

発車時刻が近づいたので、駅の入り口に並んだ。2両編成のディーゼルカーが到着し、1往復目に乗った人々が降りてくる。満足そうな顔をしている。私たちの期待も高まる。先に並んだ人々が先頭車両に集まった。あの人数では前方展望は難しそうだ。最後部も人だかりができていた。私は後部車両の中間の席に座った。車窓が見えればいい。帰りはちょっと声をかけて、良さそうな場所に入れてもらおう。


貨物線行きのディーゼルカー

ディーゼルカーはこのイベントのために仕立てられたクルマだった。外観は他の営業車両と変わりないけれど、車内の中吊り広告が東日本大震災の被災写真で埋め尽くされていた。鹿島臨海鉄道は文字通り沿岸部の路線であるし、千葉県北部の激震地域でもある。揺れと津波で大きな被害が出た。3月11日から全線運休。約1ヵ月後に一部区間を分断したまま運行再開。鹿島臨港線の全線復旧は3ヵ月後。大洗鹿島線の全線復旧は4ヵ月後。今日はあの震災から約7ヵ月経っていた。車内の中吊りを撮影する鉄道ファン、真剣な眼差しを向ける人も多い。家族連れの父親、母親には目をうるませる人も。そうか、今日は鉄道ファン向けというだけではなく、支援してくれた沿線の人々へ向けた感謝イベントという意味合いもあるのだと思った。


被災写真を展示していた

車内放送によると、鹿島臨海鉄道は復旧したけれど、休業している荷主も多いという。線路の復旧を待たず、トラック輸送に切り替えた荷主もいて、鉄道に戻ってくれない事例もあるらしい。こちらは復旧しても、荷受側が被災している場合もある。鹿島臨海鉄道の主力事業は貨物輸送である。現実はかなり厳しいようだ。なんとかしてあげたいが、鉄道ファンはイベントに参加して盛り上げるくらいのことしかできない。

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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