第591回:ハンバーグとステーキ - 伊予西条 -
跨線橋を渡って四国鉄道文化館の北館へ。建物は学校の体育館ほどの大きさで、南館よりひと回り小さい。この中にDF50型ディーゼル機関車と0系新幹線車両がある。こちらも新車のように輝いている。ふたつの車両を囲む壁側にヘッドマークなどの展示が並ぶ。鉄道員の制帽を貸りて写真を撮ってもらった。

眞鍋コレクション、伊予は眞鍋性が多いのか
Nゲージのパノラマがあって、小さいけれど精巧にできている。次回の展示運転は16時10分からだという。時計は16時45分だった。残念。「トラブルが多いため、列車がトンネルから2分以上出てこないときは一時中止します」などと書いてあった。

Nゲージパノラマ。家に置きたい
DF50型は箱形の機関車だ。日本初の量産型ディーゼル機関車で、ブルートレインブームの頃に活躍した。九州で「富士」を引いている写真を雑誌で見た。青い客車たちの先頭に立つ赤い機関車は格好良かった。この保存機は1号機だ。最初に導入された地域は四国だったようだ。

DF50型ディーゼル機関車1号機
運転室に入れる。蒸気機関車に比べてすっきりとしている。蒸気機関車と格闘してきた運転士さんたちは嬉しかっただろうと思う。操作は簡易で、トンネルで煙に燻されることもない。なにより視界が良い。

DF50型運転室
隣の0系は四国で走った経験がない。しかしお飾りというわけではなく、ちゃんと四国に、この地に縁がある。国鉄総裁として東海道新幹線計画を主導した十河信二が四国出身だ。国鉄総裁以前には西条市の市長も務めていた。

新幹線0系

新幹線0系室内。JR西日本時代にリフォームされた
隣に十河信二記念館がある。閉館は18時。1時間かけてじっくりと見物した。故人ひとりをたたえる施設だから、遺品の展示や書斎の再現、年表程度だろうと思っていた。しかし映像の上映が良かった。生前の姿。その生涯。地元のテレビ局が作ったドキュメンタリー作品で、十河信二氏本人のインタビューもあった。惜しむらくは元になったテープが傷んでいるせいか、音声を聞き取りにくい。
十河信二は明治17年に現在の新居浜市で生まれ、西条市の高校を卒業後東大に進学。卒業後は鉄道院に入った。その後南満州鉄道の理事となるも、満州事変を機に辞職。鉄道を離れ、戦後はわずか1年足らずではあるが西条市長となり、鉄道弘済会会長・日本経済復興協会会長を歴任した。1955年の国鉄総裁就任時は71歳だった。

十河信二記念館
当時の国鉄は赤字が続いた上に、1954年に青函連絡船洞爺丸の事故、1955年に宇高連絡線紫雲丸衝突事故が起き、批判にさらされていた。前任の国鉄総裁が引責辞任したものの、後任人事が難航していた。十河は国鉄の将来を案じており、国鉄総裁に推薦される。しかし高齢を理由に断った。
ところが四国出身の同胞議員に「鉄道は君の故郷、命が惜しいからと故郷を捨てるのか」と諭されて引き受ける。いまで言う無茶振りであった。国鉄就任後は島秀雄を技師長として抜擢し新幹線計画を推進。十河自身は政府との折衝役に徹した。その手法はかなり強引で、もともと見積もりより低い予算で国会を通し、後戻りできなくなってから追加予算を獲得した。いまなら不祥事で即刻辞任となるだろう。

拝観時間の半分を映像視聴で過ごす
椅子が欲しかった
十河の新幹線計画を支えた人物は吉田茂と佐藤栄作だ。吉田政権時代に十河総裁を堅持し、佐藤は世界銀行からの借款という手法を提案した。ただし、十河は新幹線予算超過問題の責任を取る形で退任した。島秀雄も十河に同調して退任。新幹線計画の中心人物は、開通式に招かれなかった。これもよく知られた話である。
新幹線だけではなく、青函トンネル、瀬戸大橋、幹線の電化、複線化、指定席券のオンラインシステム化などは十河総裁時代に始まった。それぞれが国の経済発展に寄与し、とくに新幹線は大成功となった。理想の実現のために、時として強引な手法で進む。そんなリーダーが活躍した時代であった。新幹線50年の年に、ここを訪問できて良かった。
閉館時間まで記念館にいたので、もう一つの施設、西条市観光交流センターは入れなかった。土産物屋が主なようだから良しとする。それよりも腹が減った。街を歩いて飯を食う。食ったら寝る。明日は早い。
ここ伊予西条は、鉄道ファンとしては十河信二ゆかりの地。しかし、現代の若い人にとっては、女優の眞鍋かをりさんの故郷である。旅好きの女優さんで、旅立つ前に彼女のTwitterを見ていたら、ちょうど帰省中のようで、なじみの店などを紹介していた。その中で気になったうどん屋に行ってみた。しかし残念ながら休み。そういえば今日は日曜日である。観光客向けの店ではないから仕方ない。商店街もひっそりしている。
暗い街を彷徨っていたら、住宅街のなかで明るく輝くステーキ屋があった。うどんの心づもりがステーキに変わる。ファミリーレストランのような雰囲気だけど、カウンターに鉄板がある本格派だ。値段も上等である。ステーキにしようかハンバーグにしようか迷っていたら、女将の婆様に笑われた。

私の伊予西条名物はステーキとする
両方食べたいが単品はできないのか、ご飯が二人前出てきても困るというと、ハンバーグは定食にせず、お子様に人気のハンバーグスパゲティにすればいいと言う。それとサーロインの220グラムを頼む。焼き方は訊かれなかった。しかし出された肉はレアに見えてロースト。絶妙な火加減だ。もう来ないと思うけど、良い店であった。サラダは二つ出てきた。
-…つづく
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