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第553回:九州完乗~帰途へ - 皿倉山スロープカー -

更新日2015/06/11


帆柱ケーブルの乗車をもって、九州の鉄道完乗となった。めでたい。しかし喜ぶ前に、もっと先へ行ってみよう。ケーブルカーの山上駅からスロープカーに乗り換えて山頂に向かう。嘉穂モノレールのスロープカーだ。こちらは前後左右がガラス張り。もう天井に窓を作る必要はない。180度の景色を見おろせる。


スロープカーでさらに上へ

短い道のりだけど、今まで乗ったスロープカーと比較すると大型の車体。定員は40名。紫外線カットの青いガラス越しに八幡の鐵工所、スペースワールド、洞海湾、若戸大橋、その向こうは響灘、島がいくつか見えた。山上駅から展望台までは3分だった。


大型車体はまるで動く展望デッキ

帆柱ケーブルがあるこの山は皿倉山という。北九州市南部から北へ張り出す帆柱連山の中心だ。山中には九州新幹線のトンネルがある。標高は622.2メートル。北九州市と中間市を分けるような位置にあり、山頂からは300度くらいで市街地が広がるという。展望台の建物の壁に、夜景の写真があった。見事である。


下りスロープカーを見送る

展望台は、早朝から夕方まで、じっくり楽しむところかもしれない。1日の太陽の位置で景色が変わる。四季によっても違う。短時間なら日没から夜景までが良い。しかし日帰りの私には余裕がない。ひとり旅だから話し相手もいない。水平線を眺め、振り返れば電波塔である。電波の中継基地にふさわしい場所だとは思うけれど興ざめだ。帰ろう。

ふたたびスロープカーで左右に広がる景色を眺め、ケーブルカーに乗り換えて上下の景色を眺める。上るときは最後に気づいて慌てたけれど、帰りは始めからガラスの天井の眺める。やっぱりおもしろい。電波の状態が良くなったらSNSに投稿しよう。友人たちも驚くだろう。


皿倉山頂上付近からの展望

ケーブルカーの山麓駅でシャトルバスに乗ろうとしたら、次のバスは20分後。シャトルバスの走行時間は約10分だったから、駅に着くまで30分かかる。下り坂だし、歩いたほうが早いかもしれない。スマートホンで地図アプリを呼び出し、徒歩のルートを表示する。約1.5キロメートル。所要時間は17分。私は画面を見ながら歩き出した。イヤホンを使えば音声で曲がり角も教えてくれる。便利になったと思う。

徒歩ルートはバスとほぼ同じだ。民家を眺めつつ歩く。日帰りの旅で荷物は少ないし、私は普段着で旅をするから、カメラを構えなければ地元の人と変わらない。こんなふうに、見知らぬ町に溶け込むように歩くと楽しい。犬の散歩をしている老人に挨拶してみる。応じつつ、相手が一瞬、「誰だったかな」という表情を見せる。悪趣味かもしれないけれど楽しい。


国際村交流センターは未来館たっぷり

整った道路を越える橋を境目に住宅街が終わり、こちらの道幅も広くなる。行きのバスから見た、ガラス張りの立派な建物は国際村交流センターという。北九州市の施設である。その建物の向こう側に九州国際大学がある。工業都市の北九州市はお金持ちだ。門司市、小倉市、戸畑市、八幡市、若松市が合併した市だという。人口は約95万人。100万人都市までもう少し、ではなく、かつては100万人都市だった。人口推移は微減傾向。

さらに歩き進むと、ロータリー型の交差点がある。ここもバスで通ったけれど、ゆっくり歩いてみるとおもしろい。もうすぐロータリー交差点に関する法律ができて、円形道路を進むクルマが優先になると聞いた。ラウンドアバウトというそうだ。


環状交差点入り口、標識がおもしろい

ロータリー型の交差点は、進入するクルマが一時停止し、かつ、左方優先の原則で、円形道路のクルマは進入車に進路を譲る必要がある。ラウンドアバウトは、常に円形道路が優先となり、進入車は徐行で進入できる。もっとも、実際には横断歩道も作られるから、進入車はいったん一時停止したのちに徐行進入となるらしい。

このロータリー交差点は美しい。並木で囲まれ、円形道路の中心は芝生。オレンジと黄色の花が縁取る。真ん中に像が建っている。何の像かを見極めたいけれど、道路を渡って芝生に立ち入っては行儀が悪い。これはスマートホンで調べた。北九州市の公式サイトによると、復興平和祈念像という。「東洋の工場としての八幡の復興と世界の平和を祈念するシンボル」と書いてあった。


ラウンドアバウト風ではある

そのロータリーから八幡駅が見える。中央分離帯も緑地になった広い道を歩く。カレーの鬼という店がある。鬼のように辛いという意味だろうか。食べてみたいけれど、腹の中に駅弁のかしわ飯が残っていた。

八幡駅到着は16時56分。予定では展望台で1時間を見積もったけれど、10分程度で降りてしまった。16時59分発の快速電車に乗って博多着は18時02分。帰りの飛行機は21時15分発だから、ずいぶん時間が余る。いつも飛行機に乗るときは時間のゆとりがなくて、空港独特の雰囲気を楽しむ余裕がなかった。たまにはゆっくりしたい。海峡トンネルや火の山も歩いたから、正直なところ、もう歩きたくない。

食事も街に出ず、博多駅の駅ビルのラーメン屋にした。人気店のようでしばらく並んだ。しかし、本場の博多ラーメンだと期待したわりに味が薄い。透明な油が多すぎるか、いや、なにか調味料を忘れたと思うほどだ。店員に聞いてみたかったけれど、私の食べかけのスープを飲めとも言えないし、接客で忙しそうだ。心外に思いつつ、スープを残して席を立った。次の機会があったら、街中にあるという本店で確かめよう。

地下鉄で福岡空港へ。出発カウンターで搭乗手続きをしたあと、土産物を冷やかしつつ、展望デッキに向かった。夕暮れの飛行場の景色を楽しむ。新幹線の駅も空港も、旅の拠点には変わりないけれど、空港のほうが旅の雰囲気を楽しめる。その理由は何だろう。展望デッキの有無かもしれない。そういえば、大阪駅のホームをまたぐ通路からの眺めはよかった。

しばらく飛行機の発着を眺めたら、帰途のはずが旅立ちの気分になった。飛行機の遅延なし。搭乗口から機内へ。スターフライヤーの黒いシートに身体を沈める。安全装置の説明映画のアニメ。先月と同じだった。


夜間飛行へ……

九州の鉄道を完乗した。次はいつ来るだろう。福岡市営地下鉄七隈線の延伸か。いや、その前にJR九州の観光列車に乗るかもしれない。いずれにしても、先に未乗路線に乗りたい。九州としばしの別れだ。

 

第553回の行程地図


2013年05月01日の新規乗車線区
JR: 0.0Km
私鉄:3.2.km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):20,652.9km (92.28%)
私鉄: 6,055.2km (85.46%)

 

 

 

 

  

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
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[全24回] 
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ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


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