第139回:アメリカの予備校事情 その2
更新日2009/12/10
勉強のできる生徒さんは、簡単に言うと、チャンスさえ作ってあげれば放っておいてもどんどん伸びるでしょうけど、問題は普通以下の生徒さんの場合です。
現在、アメリカでは高校の卒業率は70%以下に落ち込んでいます。30%が高校の途中で辞めているのです。しかも高校の卒業基準はまさに歴史的なほど低くなっているにもかかわらず、卒業できないのです。学校にただ通っていさえすれば自動的に卒業できるはずですが、それさえしない子供が増えているのでしょう。
どうにか高校を卒業した生徒さんのうち、40%はASTやACTテストの結果、どこの大学に行っても授業についていく能力がないと判断されています。
私が働いている州立の大学にもその優秀ならざる40%に属する生徒さんが入学してきます。大学もショーバイですから、お客さんである生徒が集まらなければ潰れます。というわけで、そんな生徒さんも受け入れているのでしょう。そんな生徒さんのためにremedial
クラス(直訳すれば"要治療"クラス)というのを設け、その授業を取り、テストをパスしなければ、大学の普通の授業を受ることができないようにしています。
言って見れば、予備校のシゴトを大学がやっているのです。もともと、とても大学に入るレベルではない生徒さんを再教育し、大学の授業が理解できるレベルまでもっていこうというわけです。これは入試がなく、予備校もない弊害といっていいのではないかしら。
このような"要治療クラス"は、授業のナンバーの前に0が付きます。030の授業なら基本英作技術、090なら基礎作文、060は初歩幾何というように0クラスで勉強し直し、トレーニングを積み、それから本当の大学の授業に出て来い! というわけです。この課程で半分くらいの生徒さんが脱落してしまいます。
私が担当しているのは、修士課程の言語学と英語学、英語の歴史と初歩の日本語などですが、またまた、"が"、になってしまいます、一応フルイにかけられ、修士課程まで来たはずなのに、目を覆いたくなるほど間違いだらけの英語のレポートを平気で提出する生徒さんが20-30%はいるのです。外国人の方が間違いない英語を書いているほどです。
数学者の藤原雅彦先生がアメリカで教えていた時、数学の論文の内容を採点する前に英語の間違いを添削しなければならなかった、と何かに書いていましたが、さもアリナンです。
他の先生たちとグチをこぼしあっていて気がついたことですが、最悪の部類に属する20-30%の生徒さんは、いずれも教職課程の生徒で、この大学を卒業して、小学校、中学校の先生になる学生さんなのです。
認めたくない事実ですが、アメリカでは最悪の部類の学生、ほかに何もできない学生が、小中学校や高校の先生になるのです。間違いだらけの英語しか書けない先生に教わって、小中学生が正しい英語を書けるようになるわけがありません。
以前、私はそんな生徒さんをバッサリと切り落としていました。落とされた生徒さんが泣きついて来たり、学長に直訴するとか、裁判に訴えると言ってきたりするのに憤然と耐えていたのです。
最近、少しは丸くなって、もう一度チャンスをあげたりするようになりました。私がどうやったところで、アメリカの教育問題を解決できないとあきらめの境地に入ってしまったのでしょうか、それとも私がただ歳を取りすぎただけなのかもしれませんが。
アメリカの教育の問題は根が深く、ヒスパニック系の移民の教育も含め複雑です。まだ大学に入る学力のない生徒さんを受け入れなければならない今の問題の根は、小学校からの教育にあるのでしょう。
小学生の時に国語(英語ですが)の能力を高めなければ、本読む習慣をつけ、美しい響きを持った言葉、同じ言葉でも使い方によって様々意味や音色が生まれるマジックを体験しなければ、一生豊かな情緒を持たずに人生を送ることになるでしょう。子供に迎合するような、"子供たちの才能を自由に伸ばす"式のエセ教育を止めなければいけません。
その時代には、詰め込みで良いのです。ともかく良い文章を沢山読ませ、できるなら暗記させ、また沢山書かせることです。柔らかい吸収力のある若い頭脳は易々と受け入れるはずです。
それには、その小学校の先生になるはずの学生さんの質を上げなければ、いつまでたっても大学はレベルの低い学生を量産する工場になってしまうのでしょうね。
課程の学生さんの間違いだらけで、さっぱり論旨の通っていないレポートを読んでいると、アメリカの学校教育に未来はないと思わずにいられません。
どうも話が自分の関係している教育に及ぶとカッカと頭に血が昇ってしまい、絶望に陥いるのです。
第140回:夢のカルフォルニア その1