第110回:ストリップ
更新日2009/05/21
ストリップなどとタイトルをつけると、男性の読者はムム、アメリカのストリップショーの最新情報か、と期待するかもしれませんが残念でした。
今回のテーマは、ストリップはストリップでも「ストリップ・サーチ」、裸にして持ち物検査をする身体検査のことです。
飛行場で金属探知機のゲートを通り抜けなければなりませんし、機内持ち込みの手荷物の方はベルトコンベアーに載せ、トンネルのようなレントゲン照射スキャンを通すことは誰でも経験していることです。検査官が見ているモニター・スクリーンを覗いてみると、バッグの中身が手に取るように写し出されているのに驚きます。
テキサス州の飛行場では、衣服を透視し裸の体が見える全身スカンを始めました。今のところ"怪しい人物"だけで、旅行者全員を対象にしてはいませんが、全身ストリップ・スキャンを拒否した女性が飛行機に乗り遅れ、訴訟を起こしたりしています。
主に都会ですが、アメリカの小中学校で、玄関に飛行場と同じ金属探知機ゲートを設け、ユニホーム姿の警備員がシカと見張っているのは珍しいことではありません。というより当たり前の風景になっています。ナイフやピストル、軽機関銃などはこの金属探知機ゲートで見つけることができます。しかし、様々なドラッグ、麻薬、覚醒剤、マリファナまでは感知できません。
アリゾナ州のサフォードという小さな町の中学校で、13歳の少女が副校長先生に呼び出され、保健室で裸にされて身体検査、"ストリップ・サーチ"されました。怪しげな薬をどこかに隠していると思われたのです。
その少女、サヴァナ・レディングさんは、学年でトップクラスの成績で最優秀賞まで貰い、それまで全く問題を起こしたことのない生徒でした。もちろん、サヴァナさんを裸にしても何も出てきませんでした。
彼女の友達が睡眠薬と鎮痛剤5錠持っていたところを先生に見つかり、詰問され、サヴァナさんから貰ったとウソをついたのがきっかけです。
セーレムの魔女狩裁判も一少女のウソから始まりました。
その事件は、2003年に起りましたが、サヴァナさんの母親が学校でのストリップ・サーチは憲法に違反すると裁判を起こし、やっと今年になって最高裁で争われることになったのです。
教職にある私にとっても、学校の安全に関心があります。調べたところ、2006年に下院議員会でストリップ・サーチを含む身体検査を合法とする法案がすでに通っていたのです。
この法案の恐ろしいとところは、先生や警備員が"疑わしい"と判断したら、裁判所の捜査令状なしにストリップ・サーチできることです。犯罪者の家宅捜索や容疑者の拘留には令状が必要ですし、尋問の際には拒否権がありますが、そんな手続きは一切必要なく、お前チョット怪しいから保健室に来い、そこで裸になれ、とやれることです。
これは考えてみると(あまり考えなくても)、とても恐ろしいことです。ファシズムをさえ通り越して、宗教裁判の暗黒の社会です。
私たちは南部で黒人の男性が白人女性をジロジロ見ただけで、リンチにし、木に吊るした時代を体験してきました。私たちは過去に沢山、大きな間違いを犯してきました。いつも人民の安全、平安のためという名目で残酷な行為を繰り返してきたのです。
私の勤めている大学には金属探知機もありませんし、どの建物にもどの教室にも、誰でもどんな部外者でも自由に入ることができます。そんなことを考えると少し恐ろしいような気もしますが、多少の危険をはらんでいても、外に対して自由であることは民主主義の基本の一つなのでしょうね。
アメリカが警察国家、ファシズムに走らないことを祈るばかりです。
第111回:ストリップ
その2

