第126回:初秋の頃の野生動物たち
更新日2009/09/10
9月4日は満月でした。満月になるとどうしてでしょう、野生の動物たちの動きが活発になります。夏も終わり、山ではすでにアスペンが黄葉を始め、深い緑の針葉樹との対比が鮮やかになる季節です。中秋の名月をめでるために動物たちが騒ぎ始めているのではないでしょうけど。
今年生まれたティーンエイジャーの鹿が姿を見せるようになり、野生の七面鳥も群れを成して騒々しく行進を始めましたし、それを狙ってマウンテンライオンも降りてきました。
ほんの2、3日前、夕方勤めから帰ってくるとき、高原の台地にある牧場のフェンスの横で、古代エジプトの彫刻のようにスックと身を伸ばしているマウンテンライオンを見ました。毅然とした美しさは見惚れるほどでしたが、そんなことを言っていれるのも、私が車の中にいたからでしょうね。
そこから200メートルくらい車を走らせたところに、野生の丸々と太った七面鳥が十数羽固まっていましたが、まだマウンテンライオンには気がついていないようでした。あの距離ですと、七面鳥が生き延びる可能性は全くないでしょうね。少なくとも、一羽は必ずマウンテンライオンのご馳走になってしまうことでしょう。
谷の町の郊外にある小学校も、付近にマウンテンライオンが出没し、戒厳令?が出され、子供たちは学校から出ることが禁止され、缶詰になりました。下校時間には地元のお巡りさん、自然動物保護官が出て、学校の玄関から迎えにきた両親の車まで物々しく警備していました。
コヨーテの遠吠えも、夜、響き渡るようになりました。それに応えているのか、ただ脅えているのか、犬たちも一斉に吠え出します。生存を懸けて食べ物をあさる野生の動物たちの前では、人間に飼いならされたどんな凶暴な犬でも、野生の動物には一目も二目も置き、恐れているのでしょう。
山で猫を飼う人はまれにしかいません。というのは、子猫が自由に屋外を歩き回るようになると、直ぐに鷹や鷲が鋭い爪の一握りでさらっていくからです。成長した猫でも鷹の爪には適わないのでしょう、下の家の大きな猫はとても深い爪跡の重症を負い、持ち主はその猫を殺さなければなりませんでした。
熊の場合は少し問題が深刻になります。第一、大きさが違います。マウンテンライオンはせいぜい70~80キロの体重ですが、この界隈にいるクロクマは、グリスリーほどではないにしろ200~300キロになります。たとえ向こうが親愛の情を込めて片手を人間様の肩にチョイと掛けても、こちらは重症を負いかねません。動物学者に言わせると、クロクマは性格到っておとなしく、とても恥ずかしがりなんだそうです。それによく人間にもなつくそうです。
野生の動物に餌をやることは、ここでは法律で禁止されています。ところが、野生の動物をペットのように可愛がる、的の外れた自然愛好者はどこにでもいるものです。私たちの隣町にもそんな叔母さんが住んでおり、ドッグフーズをクマにあげていました。自然保護官が何度もクマに餌をやらないよう忠告したようですが、叔母さんは聴く耳を持ちませんでした。こんなに可愛いクマちゃん、私になついているクマちゃんが人間を襲うわけがない、と信じていたのでしょう。
ところがある日、クマさん、ドックフーズより、それを与えてくれる叔母さんの方が美味しく見えた…のかどうかは分りませんが、叔母さんを食べてしまったのです。一度、人間族が意外と弱く、しかも美味しいことを知ったクマは、次々と人間を襲う傾向があるそうです。幸い、また叔母さんの家近くに下りてきたクマは、アッサリと自然保護官に撃ち殺されました。
この界隈では、クマが叔母さんを食べた事件がこの秋一番のニューズでした。うちのダンナさんは、クマが人間を食べたってたいしたニューズではない、人間がクマを食い殺したら本当のニューズになると 屁理屈を言っています。
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