■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで
第51回~第100回まで

第101回:外国で暮らすこと
第102回:シーザーの偉大さ
第103回:マリファナとドーピングの違い
第104回:やってくれますね~ 中川さん
第105回:毎度お騒がせしております。チリカミ交換です。
第106回:アメリカのお葬式
第107回:不況知らずの肥大産業
第108回:ユニホームとドレスコード
第109回:大統領の人気投票ランキング
第110回:ストリップ


■更新予定日:毎週木曜日

第111回:ストリップ その2

更新日2009/05/28


前回はストリップでもストリップ・サーチのことを書き、失望させましたから、今回はマジメに本当のストリップのことを書きます。

スイスの山村で、裸で山登りをするのを許すかどうかの採決が行われました。アッベンツエル・インネン・ローデンというとても綺麗な村でのことです。年々増える一方の素っ裸登山者対策をどうすべきかと、年一回開かれる村民直接選挙に諮ったのです。4,000人の住民が広場に集まり、手を上げて賛否を問う形で評決が行われ、圧倒的多数で裸登山は禁止すべしと決まりました。

大昔、地中海にあるイビサという島に住んでいたことがあります。素っ裸で日光浴するのが当たり前のところです。すぐに気がつくことですが、プレイボーイ、プレイガールの雑誌に出てくるような美男、美女は例外的な存在で、まずお目にかかることはなく、大半が普通の叔父さん、叔母さん、子供たち、赤ちゃんで、お爺さん、お婆さんが孫と裸で戯れている光景がむしろ一般的でした。日本のお風呂屋さんや温泉と似ているかもしれません。

現実的なスイス人のことですから、アッベンツエルの村の人たちも裸登山の人たちが落としてくれるお金より、怪我や重度の日焼けで地元の山岳パトロールや村の病院での出費が嵩みすぎるというのが本音のようです。この村の人もイビサ島にバカンスに出かければ、老いも若きも裸になるでしょうけど。

一時、ストリーキングが流行ったことがあります。若者が裸で人混みのなか、商店街、ショッピングモール、サッカースタジアムを駆け抜ける罪のない悪戯(いたずら)です。元祖は高級チョコレートでその名を残す、ゴダイバ夫人に遡ることになるのかしら。

今、ハイテク会社の偉いさんになっている私の弟も、大学のキャンパスの中を素っ裸で走ったことがある、と告白していました。周囲も若気の至り、エネルギーの発散くらいに受け止め、スポーツイベントや何らかの儀式を妨げたりしない限り、笑い流していました。

数年前まで、私が勤めていたコロラド州立大学、ボルダーで「ボルダーで裸になること」というシンポジウムが開かれました。アメリカ全土に何百とある大学に色付けがあり、ボルダーはコロラド州の名門大学ですが、パーティ大学として知られています。その名に恥じなく、学生さんがサンクス・ギビングのお祭りに、例のかぼちゃのをくりぬいてお化けの顔を作り、それを冠って全裸でパレードを始めたのです。

昨年のパレードには100人が裸で歩き、60人が自転車に裸で乗って参加し、10人が逮捕されました。逮捕の理由は公務執行妨害でした。街中で裸になることを禁ずる法律がなかったのです。

ダンナさんによれば、日本には猥褻物陳列罪というのがあるそうですが、なんと面白い命名でしょう。さすが落語、漫才、洒落の国、オチンチンを並べるから、陳列罪とは凄い発想だ、日本でよく見た立小便を取り締まるには最高の命名だと盛んに感心していたところ、「バカ、陳列のチンとオチンチンは関係ない」とダンナさんに冷や水を浴びせられました。

SMAPの草なぎ剛さん、夜中に公園で裸になっただけで、立小便より実害は少ないと思うのですが、マスコミからバッシングを受けました。さすが裁判官の方が見識が広かったようで、起訴猶予、云わば"オカマイナシ"になりました。

ボルダー郡に猥褻物陳列罪のような法律がありませんでしたので、市の識者で造っているACLU(American Civil Liberty Union;アメリカ自由市民連合)が市の裁判所に提言して、性犯罪を適応することになりそうです。

海や山、自然の中で裸になるのと街中で裸になるのは全く意味が違うことは認めますが、私たちの山奥にある秘密の岩風呂温泉にまでそんな法律が追いかけてこないことを祈っています。

 

 

第112回:アメリカの裁判員制度