第102回:シーザーの偉大さ
更新日2009/03/12
古代ローマのシーザーについて、彼がいかに偉大であったかを語ることは、当たり前すぎて、今さらそんなことを言う人が、バカに見えるほどです。
日本文学を翻訳し、世界に紹介しただけでなく、英語、日本語を含めて膨大な著作活動を続けているドナルド・キーンさんの偉さ、凄さは一体一人の人間が限られた人生の中でこんなにも学ぶことができ、書くことができるものかとあきれるばかりです。
私のように本業の言語学を教える片手間に初歩日本語の手ほどきをしているだけの生半可な日本通にとっては、恐れ多くて名前を軽く口にすることもできない存在です。
今、読んでいるのはキーン博士の大作『日本の天皇』です。悲しいことですが、英語版を読んでいます。きっと日本語版もあると思いますが。タイトルは『日本の天皇』ですが、明治天皇の生涯と日本が近代国家に移り変わっていく時代をキメ細かく書き込んでいる大作です。
このような大きな本の書評をここでやろうとは思っていませんので、ご安心ください。
登場する歴史上の人物の名前が、とてもユニークで面白いのです。そんなことはキーン博士の作品とは関係ないのは分っていますが、ここでは作品から滲みでてくる沢山ある面白さのほんのひとかけらとして、名前について書くことにしました。
929ページに及ぶ大書の各ページに新しい名前が五つから八つくらい出てくるのです。全部で一体登場人物が何千人になることやら見当もつきません。そして、その名前のほとんどが、姓は4~5シラブル、名の方は5~8シラブルで、今の日本人の名前に比べ、とてつもなく長いのです。たとえばタツダイラ・タカモリ、オガサワラ・ナガミチ、ヤナギハラ・ミツマル、オカベスルガノカミ・ ナガツネこれが皇室になる名前だけですが、長くなりキタシラカワノミヤになります。
名前が長いだけでなく、口調が実に良いのです。タカツカサ・マサミチ、ヒガシクゼ・ミチトミ、ツチミカド・ハレオ、カラスマル・ミツマサなど声を出して詠んでみてください。響きも明快なら、切れもよく語尾もきちっと締まっているように思います。
英語の本ですからこんな名前はすべてローマ字で表記していますが、長いにも関わらず姓と名にわたり一種の韻があり、リズムがあり、とても読みやすく、漢字の持つ深い意味の分らない私が詠んでも、それぞれが個性的で立派な名前だと感心させられる響きがあります。どこかハイク(俳句)を音読するような心地よい響きがあります。
私の日本語の授業を中年のおばさんが受講しています。とても勤勉で優秀なうえ、すでに私の授業よりはるかに上を行く日本語あやつることができるのですが、自分の日本語を錆び付かせないために授業に出てきてくれています。彼女は初孫ができるのでとても興奮して、何か良い日本の名前をつけたいと、私に真剣に相談してきたのです。
すでに、男の子だと分っているので、私は今読んでいるキーン先生の本を大いに参考にし(私は読んだ本の影響をすぐに受けるタイプのようです)、そして私の創造力を駆使して以下のような名前の候補を渡しました。
ロッキー山脈をイメージして、イワノスケ(岩之輔)またはイワオ(岩夫)、大西部に生まれたので、ニシダイチ(西大地)、大草原、グレートプレーンズをそのまま、ソウゲンジ(草原児)またはソウゲンタロウ(草原太郎)、野生の馬をイメージして、シュンメノスケ(駿馬之輔)またはシュンメノスケブロンコ(駿馬之輔武論子)、広がる大空から、ダイセイスミト(大青澄人)。
ですが、私の案はすべて却下され、ケンイチ(健一)と名づけることにしたそうです。
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