第129回:情操教育と学力の差
更新日2009/10/01
日本に行くたびに、自動販売機の多さ、多彩さに驚かされます。
コンビニの前にあるのは当たり前ですが、駅、バス停、コンサートホール、文化会館の入口、ホテルのロビー(高級ホテルには置いていないでしょうけど)大学のキャンパス、街中で缶コーヒーや麦茶を買うのに何の問題もありません。暖かいラーメンから、お弁当、雑誌まで自動販売機で買えるのは便利といえば便利です。年少者でも、誰でもビールやお酒、タバコを買えるのも驚きです。
アメリカで町中の自動販売機はそれほど見当たりませんが、小中学校に必ずといってよいほど置いてあります。私が育った時には、もちろん小学校から高校まで自動販売機など置いていなかったのですが、今では、どこの学校にも何台も並んでいます。
最近では、子供たちの太りすぎを防ぐために、校内に備え付けの自動販売機から、砂糖が多いソフトドリンク、カロリーが高いスナックをなくし、健康的な飲み物、スナックを置くようにする方針を打ち出してきました。それにしても間食を勧めているようで、全く感心しません。
食事は時間通りにきちんと取るという考えは消え去ってしまったかのようです。その代わり、お腹がすいたときにスナックをかじり、ソフトドリンクを飲む習慣が根付いてしまったのです。
義理のお姉さんの家を訪ねるとき、駅から歩いて15分くらいの距離ですが、小学校、中学校、幼稚園のすぐ脇を通ります。運動会の前に練習に余念のない子供たちを見るのも楽しいですが、ある時、生徒さんたちが窓によじ登ってガラス拭きをしている光景を見ました。ダンナさんの解説によれば、あれは全校で大掃除をしている、のだそうです。
日本の学校では掃除当番というのがあり、教室だけでなく、廊下、トイレの掃除を毎日当番制でしていると聞きショックを受けました。というのは、アメリカの学校で"自分の使っているスペースを掃除する。自分の責任で清潔に保つ"という概念が全くないからです。
私たちは学校を汚し放題にして帰ると、次の朝にはきれいに掃除されているのが当たり前だと思い、そのように育ってきました。ジェネターと呼ばれる掃除、修理の叔父さん、叔母さんが放課後に学校全体をきれいにしておいてくれるのです。
裏で働いている掃除の叔父さん叔母さんを思いやったこともありません。恥ずかしいことですが、それが彼らの仕事なんだから当然のこととしていたのです。今では多くの学校は清掃会社に掃除を委託し、庭の手入れ、芝の管理も専門の庭業者が行っています。生徒たちは教室やトイレをきれいにするため、指一本も動かさないのです。
自分のことは自分でするのが教育の第一歩のはずですが、アメリカではそんな基本的なことはアッサリと忘れられています。教室やトイレを汚してはいけません、と何十回繰り返すより、教室やトイレの掃除を生徒さんにさせるほうがどれだけ効果があり、自分の行いに責任を持つようになるのか、アメリカの教育者は気がついていないのです。
生徒にガラス拭きなどをさせ、万が一生徒さんが窓から落ちれば、大怪我をするでしょうし、そうなるとその生徒さんの親は、学校と教育委員会を相手にとって裁判に持ち込み、私の子供はガラス拭き、掃除のために学校に通わせているのではないと言い出す親が続々と出てくる…のがアメリカ教育界なのです。
そして、言うまでもないことですが、日本とアメリカの学力の差です。アメリカの小中学校は日本より、なんと80日も学校に行く日数が少ないのです。小中学校に通う9年間で720日、2年以上の差がつく計算です。これでは圧倒的な学力の差がつかないほうが不思議なくらいです。
オバマ大統領は、就学日数を日本並とまで言わないけれど、せめて国際レベルまで増やす方針を打ち出しましたが、先生たちの組合、父兄会、宗教団体、もちろん共和党、終いには自分の娘にまで大反対されました。
でも、小学生の時から、塾に通っている(通わされている?)日本の子供たちを見ると可哀相な気もしますが。
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