第400回:イスラムの台頭とヨーロッパの右化
パリの風刺週刊誌『チャーリー・ヘブドー』を狂信的なイスラム教徒が襲い、17人もの人を殺した事件は文字通り世界を震撼させました。
これに対し、パリでは即日、言論の自由を守ろう、テロリズムに屈するなと100万人以上の人がデモ行進しました。個人個人が民主主義への危機を感じての自発的なデモで、オーガナイザーなどがいないのにこれだけの人が参加したのは驚きです。
今回の事件は、単なる突発的な狂信者が行ったテロだ…とは言えない背景があります。
ヨーロッパに住むイスラム教徒が、年々急激に増加しています。2010年のデータですが、フランスでは全人口の7.5%がイスラム教徒で、そのうち、1,200人はシリア、イラク、イスラム国に戦士として参加していると見られています。
移民を寛大に受け入れている国、イギリス、オランダ、ベルギー、スウェーデン、オーストリアなどは軒並み人口の5.0%以上がイスラム教徒で、2030年には10%以上を占めるようになるのではないかと予想されています。人口の10%というのは、マイノリティ(少数派)の中では最大の部類に入り、政治的、社会的な力を持つのに十分な数字です。
西欧の国々は、人道的な立場から避難民を受け入れていますが、近年その多くがイスラム教の国々、アラブの国々からの移民で占められるようになってきました。その中から急進的というのでしょうか、狂信的な若者が出てきても不思議ではありません。ヨーロッパの慢性化した高い失業率、とりわけ30歳以下の若者の約半分は失業中の状態で、移民の若者たちが仕事にありつけるチャンスはもっと少なくなることでしょう。
それは長年その土地に暮らしてきた人たちにとっても、とても厳しい状況です。彼らは自分の国がイスラム教徒に乗っ取られる危機感さえ抱いている…と言います。まず仕事、主に技術職、管理職はともかく、単純な労働を移民たちに奪われ、失業した…と、実際にはそのような事実関係がなかったとしても、そのように思い込んでしまいがちです。そんな時代に台頭し出すのが、偏狭な愛国主義に裏打ちされた極右グループです。
国際的に一番開けた国、およそ国粋的な愛国主義とは結びつかない国だと思っていたオランダにすら、極右政党が伸してきたのです。その名も、「自由党(Party
for Freedom)」で、日本の安倍さんの右寄りが可愛いものに見えるほど、明確に外国人排斥を謳っています。
オランダに住むモロッコ人の社会を描いたオランダ映画『サブミッション(Submission)』の製作、監督のヴァン・ゴッホをモロッコからの移民モハンマド・ボウエイリが暗殺した事件が尾を引き、アンチ、モロッコ人、アラブ人の感情がオランダ人に強く植えつけられたのでしょう(犯人は逮捕され、終身刑の判決を受けた)。演説の上手なガート・ワイルダー(Geert Wilder)が党首として、極右の"自由党"は票を伸ばし20%を越す勢いです。
イギリスでもナイジェル・ファラジ(Nigel Farage)に率いられた「英国独立党(United Kingdom
Independence Party)」が、EECからの完全脱退と移民規制を謳い文句に台頭していますし、フランスでもマリアン・レ・ペン(Marine
Le Pen)という女性が、「国民前線(National Front)」という右翼政党を組織し、急激に票を獲得してきています。
ECの議会においても21.4%は極右政党が占めています。
アメリカでもボストン・ティーパーティーにちなんだ(不当に高い関税をお茶に架けていたイギリスに対し、アメリカが怒り、紅茶を満載したイギリス船を襲い、紅茶を海に投げ捨てた事件、アメリカ独立戦争のきっかけの一つになった)極右の政党、ティーバーティー党が歴史上いつも2大政党、民主党と共和党だけの政治体制を崩す勢いで伸びています。
共和党はティーパーティー党を何とか取り込もうとしていますが、共和党自体、(私から観れば)十分右翼的な政党ですから、ますます右寄りになっていくのは必至です。
国粋的な右寄りが悪くて、社会主義的な左が良いという理屈は成り立ちませんが、ヒットラーのナチス党も最初は正当な選挙で過半数を獲得したことを考えると、どの党に投票し、政権を預けるか、今ほど重要な時はない…と思うのです。
安倍さんで大丈夫なのでしょうか?
第401回:日本のお茶のことなど
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