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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第391回:外来種による侵略戦争?

更新日2014/12/04



デンヴァーからロッキー山脈の3,000メートルの峠を越える時、ハイウエイの両サイドに迫る松の山々がすっかり茶色になってしまったことにとても悲しい思いをしています。

この山々は常緑樹が生い茂るとても美しい山でしたが、害虫がはびこり、次々と木々を枯らしてしまったのです。その害虫、ちっぽけな1センチにも満たないカブトムシをアメリカでは"ジャパニーズ・ビートル"(日本のカブトムシ)と呼んでいます。

本当の名前は“マメコガネムシ”で、学名はPopillia Japonicaと言い、1916年にニュージャージー州で観測されたのがアメリカでの初めての例です。なんでも日本から輸入したアヤメの球根に付いてきたもののようです。それがグングンと山の緑を食い荒らし、西へ西へと進んできました。

私たちが住む山へ、この害虫が到達するのも時間の問題でしょう。地元の林野庁に電話で対策を問い合わせたところ、木を1本づつに害虫駆除の薬(早く言えば毒ですが…)を撒き、それを3年続けなければ効果がないと教えてくれました。散布する薬の代金は1本の木に5ドル相当かかるというのです。正確に数えたことはありませんが、うちのダンナさんの乱暴な目測では、1万本以下ということはないだろう……と言っていますから、とてもじゃないけれど、そんなにお金を注ぎ込むわけにはいきません。 マメコガネムシはまさに猛威を振るいながら、まるでインディアンを絶滅させながら西部を開拓していった騎兵隊のように、西へ西へと森を枯らして侵略行を続けています。

もう一つ、アジアの名を貶(おとし)める侵略者がいます。俗に"アジア鯉"と呼ばれているインディアン鯉で学名はIndian Suboontrientと言い、四つの亜種から成っています。ビックヘッド鯉、ブラック鯉、グラス鯉、シルバー鯉で、これらは1962年に初めてアメリカで観測された後、あれよあれよという間にミシシッピィー川全域にひろがり、数限りない支流のすべてで繁殖し、2005年にはミズーリー川まで侵入し、五大湖へと迫っています。この鯉は食が荒く、体重の10%から20%もの食料を食べ、長さ1メートル、体重も50キロを超える大きさになります。

エンジンの音に敏感に反応するので、川を船外機の付いたボートを走らせると、何千、何万という鯉が川面から狂ったようにジャンプし、面白い光景を演じてくれます。アジア鯉がいったん川や湖で繁殖しだすと、在来の魚たちの食べ物を奪ってしまうので、生態系がガラリと変わります。これが美味しい魚なら、皆争って釣るでしょうけど、骨が多いうえ、崩れやすい白身なので、釣りのファンが家に持ち帰って自分で料理するにはおよそ不向きな魚なのです。

すでに悪名が知れ渡ってしまったアジア鯉ですが、グルメのコックさんが美味しい料理法を紹介したり、名前をシルバーフィンとかケンタッキーツナと別名で呼び、レストランのメニューに載せたりしていますが、とてもアジア鯉の侵略から川を守るには程遠い深刻な事態になっています。

もう一つ、外来種で大きな話題になっているのは大蛇、アナコンダです。全長10メートルにもなる蛇がフロリダの湿原に絶好の棲家を見つけ、どんどん増えていったのです。元々、ペットとしてタイから持ち込まれ、始末に負えなくなって野に放ったとか、フロリダを襲ったハリケーン・アンドリューの時、全壊した爬虫類研究所にいたものが繁殖したとか言われています。

エヴァーグリーンと呼ばれている温暖なフロリダの真ん中の湿原が、繁殖に最適な条件を適えていたのでしょう、大変な勢いで増え続け、住宅地にまで侵入し、ネズミやリスならまだいいのですが、小型のペット、犬、猫なども食べてしまうのです。

地元では"世界蛇獲り選手権"を催し、最大のアナコンダを何匹獲ったかの総合点、またそれらをつなぎ合わせて何メートルなるかの複合最長と、数々の賞を設けて競ったりしていますが、そんなことをしても、とても一度繁殖し始めたアナコンダをコントロールするには程遠い対策です。

日本生態学会でも、外来種の悪者100選を発表しています。おなじみのアライグマやオオクチバスがやり玉に挙がっています。 いったん根付いてしまった外来種を絶滅するのは不可能に近く、植物、動物検疫はいくら厳しくしても厳しすぎるということはありません。

 

 

第392回:アメリカ大学事情

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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