のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第387回:紋切型の会話と失語症?

更新日2014/11/06



今回の日本滞在で、大好きなお相撲を堪能しました。

少しばかりですが、失望させられたのは、引き技が多くなり、四つ相撲が少なくなったことです。すべての取り組みに熱戦を期待するのは無理だと知ってはいるのですが、大一番で引いたり、叩いたりは頂けません。ドンとぶつかり、ガップリ四つに組んでこそ大相撲だと…思うのですが、お相撲さんにしてみれば、15日間全エネルギーを燃やし尽くすような相撲を取るのがとてもシンドイことなのでしょうね。

それと、もう一つ失望させられるのは、お相撲さんのインタヴューです。相撲取りはあまりしゃべらず、不言実行を身上としているのは分かりますが、質問も紋切型なら、答えも、これ以上短縮できないくらい短い紋切文句なのです。

昔、闘牛士のインタヴューをスペインのテレビで見て、とてもがっかりしたことがあります。引き締まった凛々しい顔、黒く輝く瞳、男性的な太い眉、どこをとっても草食系のナヨナヨした男とはかけ離れた、隅から隅までマッチョなのです。ところが、一旦口を開き、しゃべり出した途端にガックリきました。南部弁、スペインではアンダルシア弁に偏見を持っているつもりはありませんが、丸出しのカッペ言葉で、おそらく小学校もロクに通っていなかったような、文法全く無視の話し方をするのです。アナウンサーは闘牛士にしゃべらせないで、勇壮な姿だけを映すべきだ…と思いました。

ところが、日本のお相撲さんは闘牛士といい勝負なのです。闘牛士の方はともかく自分の言葉でしゃべるだけ、しかも沢山しゃべるだけマシです。典型的な相撲インタヴューは、「見事な勝利を収めました○○関です。○○関、今日の取り組みはいかがでしたか?」「ハイ、そうですね、勝ってよかったです」(勝って、喜ばないスポーツマン、ウーマンがどこにいますか)、「これからの抱負は?」「ハイ、そうですね、やっぱし自分の相撲を一番、一番取っていくだけです」(一度に二番取れないから、当たり前でしょう)、「勝ち星、おめでとうございます。○○関でした」「ハイ、ありがとうございました」と、インタヴュアーも面白味のない質問を繰り返すし、お相撲さんも教則本に書いてあるとしか思えないような答え方です。

相撲だけでなく、すべてのスポーツの選手が、「はい、そうですね」と「やっぱり」の連発です。私の日本語の生徒さんたちを中心にしたグループが日本旅行に出かける前に、日本語を全く知らない他の学部の生徒さんにインスタント日本語を教えます。さようなら、こんにちは、こんばんは、ありがとう、と言いたいときに、ただ一言、「どうも、どうも」とはっきり言うように、この「どうも、どうも」だけで乗り切るように教えます。帰ってきた学生に、「旅行中、困ったことはなかったですか?」とたずねたところ、「どうも、どうも」と答えてきました。

日本に住む日本人は当たり前のことですが、日本語で生活しているのですから、日本語を全く知らないアメリカの学生のように、「どうも、どうも」だけで会話を成り立たせているわけではないでしょうけど、「そうですねー」、「やっぱり」が受け答えの中に入らないことはまずありません。

一つに、相手に一応の賛成する姿勢を示すために、「そうですね」で受け、しかし、そうは言っても自分はこう思うという意思表示で、「やっぱり」と続くのでしょうけど、それにしても、どうしてああまで判で押したような同じ受け答えをするのでしょう。多くの日本人が自分の言葉を持たなくなったとは思いたくありませんが、未だにハビコッテいるサラリーマン敬語の「させて頂きます」と同じように、紋切型さえ使っていれば安心できるという心理がチラホラ覗いているようにも見えます。

「そうですねー」、「やっぱり」と聞くと、それに続く意見も、感想もまたありきたりの紋切型だ…と思い込んでしまいます。

日本人は豊かな表現を忘れ、一時的な失語症になってしまったのでしょうか…。

 

 

第388回:日本の男女格差の現実

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案
第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち
第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン
第354回:歯並びと矯正歯科医さん
第355回:ローマ字、英語、米語の発音のことなど
第356回:アメリカ合衆国政府の無駄使い
第357回:ストーカーは立派な犯罪です
第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?
第359回:ゴミを出さない、造らないライフスタイル
第360回:世界文化遺産と史跡の島
第361回:セルフィー登場でパパラッチ失業?
第362回:偏見のない思想はスパイスを入れない料理?
第363回:人種別学力差と優遇枠
第364回:"年寄りは転ぶ"~高齢者の山歩きの心得
第365回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その1
第366回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その2
第367回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その3
第368回:犬はかじるのが仕事?
第369回:名前、ID、暗証番号
第370回:「号泣県議」の"滑稽な涙"
第371回:死を招く大食い競争
第372回:日本で団地暮らしを始めました…
第373回:日本女性の顔と声の話
第374回:空き家だらけの町
第375回:旅客機撃ち落し事件
第376回:食卓での10秒ルール
第377回:夏のノースリーブ・ファッションの敵
第378回:飢えているアメリカ?
第379回:アメリカのザル法=最低賃金法
第380回:州や郡で消費税が異なるアメリカ
第381回:お国自慢と独立運動
第382回:アメリカで黒人であること
第383回:サーファーたちの訴訟~海岸は誰のもの?
第384回:幼児化した文化? コンサート衣装考
第385回:日本の食文化と食べ方
第386回:紅葉の季節、日本の秋

■更新予定日:毎週木曜日