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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第365回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その1

更新日2014/06/05



まだアドリア海のハヴァールという島のイエルサ村にいます。すでに40日過ぎてしまい、今では逆算して、アアもう20日しかないという気分です。

毎日、朝ご飯とコーヒーを松が涼しげな日陰を作っているゴツゴツした海岸で取り、それからサンドイッチをバックパックに詰め自転車で近くのギリシャ、ローマ時代の遺跡を訪れたり、海岸を長い散歩をして過ごしています。

もう、かなり暑くなってきましたが、それにしても、住んでいる人もバカンスの人も少ないところで、イエルサの町までの2キロある海岸沿いの道で、車も人にも誰にも出会わないことが珍しくありません。反対方向にあるボルボスカの村まで3キロありますが、こちらもヨットハーバーがあるのに実に閑散としています。一応夏を期して、漁港の前にカフェテラスなどがありますが、まるでお客さんがいません。

それでも、この1、2週間、いかにも島の外から来た風情の人を見るようになりましたが、圧倒的にクロアチア人が多く、避暑地に来たというより、週末、自分の別荘の庭の手入れをしに来たようなイデタチで、黒っぽい服装に身を包んでおり、バカンスファッションではないのですぐに見分けられます。

この島に来て驚かされたことは沢山ありますが、車がボロでアメリカならジャンクヤード(車のお墓場、捨てるところ)でも引き取ってくれないような車がチャント走っていることです。旧ソビエト時代の名車? 燃費も排気ガスも最悪、しかもよく壊れるので有名な"ラダ"が現役で走っています。

しかし、ラダには最高の取り柄があり、それはよく壊れる分だけ、構造がとても簡単で、専門の修理工でなくても誰でも簡単に修理できることだ…と、大家さんの息子さんが教えてくれました。

それに、ユーゴスラヴィア時代に造っていた"ユーゴ"が走っています。ソビエト製の"モスケヴィッチ"もいます。トラックは何とか博物館から出てきたような、第二次世界大戦の時の映画に出てくる頑丈一点張りのソビエト製の"TAM"が空中分解しそうな音を撒き散らしながら走っています。そこまで骨董品ではありませんが、幅を利かせているのがチェコ製の"スコダ"でしょうか。

そんな大中古オンパレードの中に、全くこの島の道路事情に合っていない、ものすごいピカピカのオープンカーや豪華版の大型車を見かけるようになりました。ドイツナンバーですから、ドイツ人の超お金持ちの車でしょう。

なんせ、町や村を出ると道路が狭く一台分の幅しかありませんから、当然、車は道路の真ん中を走ります。もちろん、道路に中央分離の白い線など引いてありません。こんな道路で自転車を乗り回すのは少し恐ろしいですが、ともかく車が少ないので、向こうから車が来たときには路肩に自転車を寄せ、止めて、行き違うようにしなければなりません。

後ろからの車は必ずクラクションを短く鳴らし、"お前の後ろに車がいるぞ"と教えてくれますので、これもまた少し広めのところで自転車を止め、車をやり過ごします。なんせ、道の両側は石垣が延々と積み上げられていますから、簡単には路肩に自転車を寄せることができないのです。 

町や村の中は階段が多い上、両手を広げると両方の家の壁に触れるくらいの幅しかありませんから、車は入ってくることができません。結果、町や村の表通りを一歩入ると、一挙に中世に舞い戻ったかのような雰囲気になります。そして、それはそれは静かなのです。

この島には、巨大な遺跡、ギリシャのパルテノンや円形劇場、ローマ時代のコロセウムや劇場、浴場、城などはなく、あるのはそれらの遺跡の痕跡、基礎の石程度ですから、とてもそれを背景に写真を撮って記念にするスケールではありません。

クロアテチア本土、ギリシャ、イタリアに行けば、息を呑むような遺跡がソコココにあるのですから、この島の遺跡の土台だけで観光客を呼び集めることはできないでしょう。観光ポスターに出てくるような白い砂浜もありません。早く言えば、アドリア海に浮かんでいる何百という島の一つでしかないのです。

フェリーは、本土のスプリットからこの町イエルサまで日に一便でもあるだけましといった感じで運行されています。飛行場はあるにはあるのですが、草ぼうぼうの野原で、ヤギや羊の格好の放牧場になっており、よほどアフリカの草原で鍛えたパイロットでもない限り、4人乗りのセスナでも着陸は難しそうですから、イギリス、ドイツ、北欧から安いチャーター機が押し寄せる心配はなさそうです。

もちろん、そのような大量のバカンス客を収容できるホテルもありません。島の人たちは、お金を落としてくれる観光客が沢山来てくれることを望んでいるでしょうけど、私たちの勝手な都合ですが、この島が何時までも今の静かさを保ってもらいたい…と願っています。

 

 

第366回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その2

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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