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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第360回:世界文化遺産と史跡の島

更新日2014/05/01



クロアチアの島、ハヴァールに来てから2週間経ちますが、まだまだ驚くことの連続です。

この島に来るまで、インターネットで家捜しをした程度で、島のことを全くと言ってよいほど知りませんでしたから、言ってみれば私たちは無知な観光客の典型でした。ただ、あまり大型のリゾートがあるような所は避けよう、できるだけ静かな田舎…でという贅沢な条件でこの部屋を見つけました。

全くの偶然からですが、私たちの借りた家(実際にはその家の一部屋ですが)はジェルサという漁村から2キロほどの距離にあり、それはそれは静かで美しいところでした。

ところが、同じ島でもハヴァールという西端の町は、夏になると日に9本からのフェリーがイタリアから運航され、それに加えクロアチア本土からの船も増便され、大変なパーティータウンになるというのです。大きなディスコが盛況を極めるといいます。

この町というのかしら、村のようなジェルサの人たちは、ハヴァールの町のことは別の世界だと思っているようで、生涯、一度もハヴァールの町に行ったことがない年寄りは珍しくありません。

私たちも、危うい所でパーティタウンを逃れ、海辺の静かな部屋を借りることができたのです。

島を歩いたり自転車で回っていていると、どこもかしこも石垣だらけなのにまず驚かされます。急な斜面も、比較的平らなぶどう園も何処もかしこも石垣だらけなのです。一体どれだけの労力を費やして、こんな膨大、長大な石垣を築き上げたのでしょうか、あきれ果てるほどの労力なのです。それがたった2、3本のオリーブの木を植えるために、まるで猫の額よりも狭い平らな土地を作るために、営々と石を積み上げているのです。

最近、どこに行っても世界遺産ばやりで、世界遺産でないところに行き着くのが難しいくらいですが、この石垣も世界遺産に登録されています。と言っても、巨大な遺跡があるわけでなし、ギリシャ以前から積み重ねてきた石垣があるだけなのですが。

しかも、元々の基部はギリシャ以前かもしれませんが、地元の農園の人たちはそんなことにお構いなく、車付きの耕運機や小型トラクターが入れるように崩したり、積み重ねたりして、生活に沿って変えてきたことでしょう。逆に農民の生活に即した石垣のありようの方が価値があり、美しくもあるのでしょうね。

これも、後になって知ったことですが、ジェルサの復活祭(イースター)の行列がユネスコの無形文化遺産になっていました。

大家さんの娘さんに誘われるまま、夜の10時に始まる復活祭のミサに参列し、それから、行列を見ようと、漁港の石畳のベンチに陣取り待つこと30分、グレゴリオ聖歌とは少し違う節をつけた男性のチャント(お祈り、読経)が響き渡り、小さな十字架に架かったキリスト像、その後に長い杖の先にロウソクを灯した行灯を持った男衆が10人くらい、白いガウンのようなものを着て続きます。

これほど簡素で飾りっ気のないイースターのパレードを見たことがありません。ところがその後に、村の住人全員総出といた感じで、村人が500メートルほどゾロゾロ付いて歩いてくるのです。何人いたのか分かりませんが1,000人はいたでしょうか。彼らはこの十字架のキリストに付き従い、一緒に23キロを一晩かけて山々の村を巡り歩き、またジェルサの村の教会に翌朝の7時頃戻ってきて、そこで盛大なミサが行われ、復活祭の幕を閉じるというのです。

私たちは多少野次馬根性で、その行列の最後尾に2キロばかり付いて歩きました。老人たちは黒の喪服、お婆さんは固そうな黒い皮靴、若者は冷える夜に備えジャケットを着込み、靴もナイキなどのスニーカーです。お互いに挨拶したり、お喋りをしたり、タバコを吸い、ポットのコーヒーかなにか温かそうな飲み物を紙コップで飲んだりで、キリストの苦難の道を気楽に構えて参加しています。

この行列は"ザ・クリジェン"と呼ばれ、近隣の六つの村の教会からそれぞれ夜の10時に出発し、時計回りに移動して次の教会でミサを挙げながら、一晩かけて自分の教会に帰ってくるという志向です。

何でも15世紀に、すでに同様の行列が始まったと言いますから、古いことは古いですが、日本のお神輿や祇園祭、時代祭りのようなパレードに比べ何ともまあ悲しくなるくらい簡素なものです。それが無形文化遺産になっているのは、村人が総出といった風でゾロゾロ行列に参加しているからでしょう。

もう一つ、無形文化遺産になっているのが、日本食、キムチと同じように地元の地中海料理です。アメリカでも、地中海料理は健康に良いダイエットというので大流行ですが、一体何をもって地中海料理と言うのか、いまひとつピンときません。

耕地が恐ろしく少ないですから、この島で養しなう人口は非常に限られていたことは確かでしょう。この島の主食というのかしら、毎日食べているのは、パン、これは焼きたてがおいしいです。それにオリーブ油をチョイと付けて食べます。それにワインとヤギのチーズくらいのものでしょうか。野菜と果物で生きているような、ウチの仙人のような人には少しキツイかも知れません。

地中海料理と言っても、ここでは魚介類はほとんど捕れませんし、新鮮な野菜は先を争うように屋台を出している悪人顔だけど、とても親切な八百屋のお兄ちゃんの店に行き、本土から入荷したものを何でも即買うしかないのですが、今のところ、美味い美味いとパンにオリーブ油を付けて、日に三度食べています。早く言えば、もともと、食材のとても乏しい所なのです。

無形文化遺産の中で暮らすのは、ちょっとばかり大変なことでもアルのです。かえって、この島の農夫、漁師の生活自体を無形文化財にした方が良いのではないかと思ったりします。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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