第394回:カルチャー・ショック
私の甥っ子が日本文部省のJETプログラム(Japan Exchange and Teaching Program)で山形県の田舎町で英語のアシスタント先生として暮らし始めました。その町は、地図で見ると山の中の豪雪地帯にあり、日本でも古い伝統がそのまま残っていそうな珍しい土地のようです。
多少日本での生活経験のある私としては、可愛い甥っ子にイロイロ余計な忠告をしたり、頻繁にメールを書いたりして、無事に?日本に溶け込めるよう余計な後押しをしています。
ところが当の本人は、100パーセント以上、日本の山奥の町の生活を楽しみ、ホームシックなどどこの国の言葉?とばかりその町の暮らしに、仕事に、溶け込んでいるようなのです。メールの返事も日本語で書いて寄こすし、目いっぱい動き回り、友達もたくさんでき、私の老婆心は全く杞憂に終わりそうです。
逆に、アメリカの田舎町に戻ってきた私の方がカルチャーショックを受けています。まず、大学のキャンパスがたった1年の間に随分変わりました。私の事務所も新しいビルの2階に越し、まだまだどこも傷んでいない木の机と本棚などは、すべて規格品の大きなスティール製に変わり、新しい鉄筋の建物の常として、廊下や隣室の音がよく響く、なんだか腰の落ちかないところに入ってしまいました。硬い音が伝わってくるのです。(あの木の机はどこに行ったのかしら…)。
何の不自由もないと思っていた、いつもガラガラの大きな図書館がつぶされ、ハイテック情報センターのようなサイバー図書館を建築中です。キャンパス内は新しいビルと広々した駐車場だらけで、まるで郊外のアウトレットモールのようです。
そして、地元の新聞を広げたところ、トップ記事から3面もの紙面を使って地元の『イレズミ・アーティスト』の特集が載っていたのです。このイレズミ師はジョスティン・ノーダインさんという若者で、全米に放映されるTV番組に取り上げられ、彼のボカシ彫りはまるで上質の水彩画のようだと絶賛されています。中西部のイレズミ界の新星だ、地元の誇りだと、大変な持ち上げ方なのです。もちろん、作品?を何枚もカラーで載せています。日本の彫り物師もウカウカしていられません。
そして、次に紙面を多く割いているのが、『アメリカを守る会』(Defenders USA)の紹介で、日本では提灯記事というのでしょうか、正に宣伝記事なのです。元警察官がピストルやライフルの持ち歩き方、撃ち方を教える"自衛""正当防衛"のための活動記録の記事が、これまた紙面の半分を占めるカラー写真付きで掲載されているのです。その写真が射撃用の的に人間の上半身を線で書き、心臓部にたくさんの弾が当たり穴が開いたベニア板を自慢げに背景に置き、10人ほどの参加者、そのうち4人は女性ですが、にこやかに微笑んでいるのです。
人殺しの練習は実に楽しいことですよ、と言わんばかりです。ニュースでは黒人が白人警察官によって殺害された事件が何件も相次いでいます。もし、黒人やメキシコ系の人が白人至上主義者の暴力から身を守るために"自衛"のための『ピストルの撃ち方教室』などを開催したなら大変なことになるでしょう。地元の警察がナンノカンノと理由をつけて潰しにかかり、黒人のテログループが戦闘訓練をしていた…くらいのことは平気で言うでしょうね。そしてすぐにも、右寄りの新聞はセンセーショナルに書きたてることでしょう。
これがアメリカの現実なのです。
こんな新聞を日本から帰ってきていきなり開いて、“カルチャー・ショック”を受けるな!という方が無理ですよ。
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