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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第378回:飢えているアメリカ?

更新日2014/09/04



"アメリカ人の7人に一人は飢えている…"というニュースを聞いて、「エ~ッ、それホント?」と思った人は、私一人ではないでしょう。アメリカ人の7人に一人が日々の食べ物に困っており、ニューヨークのブロンクス地区では37%の人が飢えている…というのです。保育園、小学校で朝ご飯をきちんと摂らないで登校してくる子供が沢山おり、そのため、朝ご飯(と言ってもアメリカですから、コーンフレイクのようなコールドシリアルに牛乳をかけただけのものですが…)を出す学校が増えてきています。

SNAP(補助的栄養支援プログラム)では、2013年に4,700万人が食べ物の補助を受けました。このうち1,200万人は子供、700万人はお年寄りです。これは1960年の5倍の数字です。オマケに、最低必要限の食べ物を買うことができない所帯が、1,760戸もあるというのです。

アメリカ人にとってショッキングなこんなニュースの仕掛け人は、尽きるところ、NPOのフィーディング・アメリカ(Feeding America)が発表した調査報告が元で、そこの広報担当のマウラ・デイリーさんが震源地のようなのです。

他のメディアで独自の調査をしたところが見当たりませんから、彼女が発表した数字をニューズメディア、新聞、インターネットニューズ、テレビが焼き直して、センセーショナルな映像をつけて報道しただけというのが、本音のようなのです。

サンクスギビングやイースター、クリスマスなど、アメリカ中が食い倒れ状態になる時期に、ご馳走にありつけない可哀そうな人たちが、私たちの国にまだこんなに沢山いるとニュースのネタになり、よく報道されます。

そんなテレビや新聞の写真を見た人は、「オヤ? 変だぞ」と誰でも思うことでしょう。というのは、ほとんど100%近くの"食べ物に困っている人"が大デブだからです。食料を買うことすらできない人がどうしてこんなに太っているのか、これは大きな疑問です。

"飢え"イコール=アウシュヴィッツとはいかないまでも、アフリカの難民のように、骨と皮だけというイメージがあります。ところが、アメリカの飢えている人は、太っていても栄養状態が悪く、安いジャンクフッドばかり食べ、新鮮な野菜を買うお金がない…。従ってブクブク太っていながら栄養失調だ、というのです。

テキサス州のゲートウェイというところにあるバプテスト教会が、食料無償配布を行っている映像を観ました。ここだけが特別ではありません。私たちが住んでいるコロラドの田舎町にも、このような食べ物を無料で配布するフッドバンク、スープキッチンが何箇所もあります。このテキサスの映像では、きっとお腹をすかせた人たちがこんなに長い行列を作っていると、センセーショナルに訴えたかったのでしょう。

ですが、この長い行列というのが車の列なのです。自家用車に乗ってガソリンを使い、しかも長い行列をノロノロ運転して、食料を貰い受けるのは、いくらアメリカが車社会の国にしても奇妙な光景です。車をあのようにノロノロ運転するとガソリンがとても無駄になるのはハンドルを握ったことのある人なら誰でも知っていることです。

私たちが住んでいる大学町にあるホームレス支援センターの一つにボランティアとして何度か手助けに行ったことがあります。ベッドが並び、人によっては簡単な仕切りを立てたり、私物を入れる棚などがあり、皆でくつろぐ居間には、立派ですが古臭い大きなソファーが置かれ、もちろんテレビがデンと中央に居座っています。それらはすべて寄贈されたものでしょう。一緒に行ったウチのダンナさん、「なんだ、ここの方が俺の大学時代の寮より、何倍も立派だゾ」とつぶやいていました。

そして食料ですが、私たちはいろいろなスーパーや食品会社、個人から寄せられた缶、瓶、プラスティックの袋などに入った、既製品を平均的に箱に詰めるシゴトを仰せつかりました。一つの箱に詰められる食料の量たるや、私たちなら、キャンプで2週間は優に持つほどのものです。

アメリカでお金持ちはますます豊かになり、貧乏な人はますますどん底に落ちていく二極化が進んでいるのは事実です。また、本当に飢えている人がいるのも本当でしょう。しかし、アメリカの飢えというのは、歴史上繰り返されてきた戦争や大凶作による飢饉とは全く別の次元のことで、現在でも起こっているアフリカ諸国の難民の本当の飢えとは、全く比較することができません。

私の両親、兄弟は随分以前から、もうお互いにクリスマスプレゼントをお互い交換しあうのは止めよう、額は決めないけど、その分お金を集め、そのお金をもっと必要としている人たちに、品物でも現金そのままでも贈ることにしています。毎年当番を決め、集めたお金をどのよう使い、誰に送るかを順番に任せる方式を取っています。

私たちが当番に当たった最初の年、もう20年以上も前になりますが、救世軍に行き、そこでリストアップしている"貧しくてクリスマスプレゼントが買えない家族"の一つを紹介してもらいました。そして、その家族が欲しいと願っているもののリストを手渡されました。これはこれで実用的なやりかたで、その場限りの不要なプレゼントを貰うより、要望に沿ったプレゼントをする方が理にかなっています。

私たちがプレゼントを受け持った家族は、父親のいない4人の子供がいる家庭でした。ところが、彼らのプレゼントリストを見て、文字通り唖然としてしまいました。ウチの"温厚"なはずの仙人ですら、「こいつら、貧しくもなんともない。貧しいのは、こいつらの精神だ!」と怒り出す始末でした。

そのリストには、地元のフットボールチームのロゴの入った皮ジャンパー(これは450ドルでした)、400-500ドルはするテレビゲームの機械、メーカーまで指定したファショナブルなナイキの運動靴、などなどがビッシリ書いてあったのです。

それ以降、私たちはクリスマス当番の時、アメリカをプレゼントの対象から除外し、アフリカ一本にしています。星の数ほどあるNPO団体のホームページをインターネットで調べ、事務などの経費が5%以下の団体(アメリカの団体は正確な活動とお金の使い方の実績報告が義務付けられています)を選ぶようにしています。行き着くところ、国連関係のUNISEFとなることが多いですが…。

飢えているアメリカ? ご冗談を、あなた方、そんなに太っていて飢えているなどと、本当に食べ物や水のないアフリカの人たちの前で、よくぞ恥ずかしくもなく言えたものです…。

 

 

第379:アメリカのザル法=最低賃金法

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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