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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第393回:恐怖の白い粉"Sugar"

更新日2014/12/18



大航海時代、西欧人がアジア、アフリカ、アメリカに大変な危険を冒してまで出て行ったのは、もちろん黄金伝説の影響もあるでしょうけど、一番"モウケ"が大きかったのは『胡椒』だったと知り、とても驚いた記憶があります。胡椒と金と重さでいくと同じ価値があったというのですから、胡椒は大変な贅沢品だったのでしょう。

中世の人たちは、たとえ王侯貴族でも、ずいぶん不味い(現代の私たちから見ればの話ですが…)もの、味気ないものを食べていたと言ってよいでしょう。その分だけ素材の持つ味に敏感だったとも言えますが。

胡椒が主に肉料理に欠かせないものになったように、お砂糖も、今の私たちの食生活と切り離すことができないものの一つです。ニワカ知識で調べたところ、原産地はなんとニューギニアでした。ニューギニアではサトウキビをカジリ、しゃぶっていたのが、1万年も前のことで、それがインドに紀元前500年頃に伝わり、ペルシャ、中近東へと伝わり、イスラム教とともに北アフリカ、中東全域に広がったのはマホメットが出てきた7世紀だったというのです。

そして、ヨーロッパ全域に砂糖として知られるようになったのは、なんと15世紀のことで、当時、王族かよほどの豪商の口にしか入らないものでした。甘いものといえば、蜂蜜、メイプルシロップなどの木からとる液体、小麦と麦芽から採れる柔らかい甘さの水飴くらいしかありませんでした。

爆発的にお砂糖が広まったのは、カリブや南米で奴隷を輸入?し、サトウキビの大々的なプランテーションが行われるようになってからのことです。お砂糖はまさに奴隷の命と引き換えに生産されていたのです。

何でも激甘にすれば売れる時代もありました。少しずつ甘さ控え目などと売り出すようになりましたが、アメリカで売り出されている加工食品の75%に砂糖が含まれており、アメリカ人は1日95グラムの砂糖を食べています。

外国人がアメリカを訪れ、アメリカ人の食生活で一番驚くのは、ポップコーンとコーラなどのウツワの大きさでしょう。ポップコーンは遊園地や映画館のスタンドで買うと、小さなバケツくらいの大きさの紙容器で出てきます。コーラなどの甘いソフトドリンクも、1リットルは楽に入る、まるで馬に飲ませるような超大型のコップにカキ氷を入れて出てきます。しかも、ほとんどのファーストフッド・チェーンではお代わりし放題、飲み放題です。 

今時、砂糖の摂り過ぎが、いかに健康に害を及ぼすか誰でも知っていると思うのですが、アメリカではまだまだ手を変え品を変え、さまざまなソフトドリンクを売り出しており、大量に消費されています。

YouTubeで、"Suger:The bitter truth" (砂糖、その苦い事実)という講演ビデオを観ました(是非、ご覧になってください、とても面白く、恐ろしいです)。この講演はロバート・ラスティング(Robert Lusting)というサンフランシスコにある医学研究所の先生が行っているものですが、彼は長い間、砂糖が人間の体に及ぼす害について研究し続けていて、砂糖が百害あって一利なしの、まさにタバコと同じように危険なモノだとしています。

お砂糖だけでなく、1970年代になってから盛んに使われるようになったコーンシロップのような甘み、フルクトス(Fructose)はもっと危険で、直接肝臓に脂肪を取り付かせると言うのです。

1973年に420万人いた糖尿病患者が、2010年には2千101万人に激増しています。 糖尿病予備軍を入れると2012年では3千400万人といいます。こままで行くと、アメリカ人の半分は糖尿病になってしまいます。

糖尿病だけでなく、心臓にも悪影響があり、心臓麻痺は砂糖の摂り過ぎで誘発されると言われています。

こんなに、誰もが健康に悪いと知っていても、甘いものを諦め切れないのは、子供の時に甘いものをたくさん食べていると、脳に甘いものへの要求が刷り込まれるからだと言われています。

害があると分かっている砂糖を政府で規制しようという動きがないわけではありません。前ニューヨーク市長のブルームベルグさんは、市長時代、映画館やファミレスでの大型のコップ用ソフトドリンクを、中型の32オンス(945cc、これでも日本ではとても大きいですが)までに規制し、小学校での自動販売機で砂糖がいっぱいのソフトドリンクを禁止しました。また、カルフォルニアのリッチモンドでは、一定量以上の砂糖、フルクトスが入ったソフトドリンクに特別税を加算する法案を通しました。

禁酒法のように禁砂糖法が施行されれば、カポネのようなギャングが現れ、文字通り甘いシルを吸うでしょうし、空しく見えるアンチ砂糖キャンペーンを尻目にしながら、各家庭で、台所に砂糖を置かない、食べない、砂糖やフルクトスの入った食品を買わないことにするほか、打つ手はないのかもしれませんね。

少し疲れたときに食べるヒトカケラのチョコレートをあきらめるは、とても難しいことですが…。

 

 

第394回:カルチャー・ショック

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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