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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第384回:幼児化した文化? コンサート衣装考

更新日2014/10/16



札幌郊外の団地、駅前の高層アパート(日本流に言うなら「マンション」ということになるのでしょうね)に仮住まいしています。買い物にとても便利なところで、エレベーターを降りれば1階がスーパーマーケットですし、50メートル離れたところに別に二つのスーパーマーケットがあります。

そして、歩いて1分の駅に隣接した図書館と400席余りのコンサートホールがあるのです。その図書館とホールの間にある広いロビーで、ランチタイム・コンサートも開かれますし、ホールでも地元の音楽家、コーラスグループのリサイタル、ピアノ教室の発表会から札幌交響楽団やNHK交響楽団、室内楽まで幅広いプログラムが催されます。私たちは何でもかんでもといった感じで、そのホールに何かあるたびに通っています。

私が驚き、呆れるのは衣装です。バレーの発表会では、ヨチヨチ歩きの子供たちからオバサンクラスまで、曲に合った(体型と技術にでありません)衣装を身にまとうのは良いのですが、ピアノ、ヴァイオリンなどのリサイタル、発表会でも、小学校に上がる前の子供から大人まで、皆が皆、100パーセント、白雪姫かシンデレラのようなドレスを着て出てくるのです。ヤマハ主催のマジメなピアノコンクールでさえも、かえって演奏の邪魔にしかならないようなチャラチャラしたドレスを着て登場し演奏するのです。

唯一の例外は、中学、高校の吹奏楽団と合唱団でした。彼らは学校の制服や普段着のままでした。演奏のレベルはとても高く、レパートリーも広く、初めて楽器を持って、2、3年でよくぞここまでできるな~と感心させられる演奏でした。

ダンナさんの甥っ子が持ってきてくれた大型液晶テレビ(やはりあれば観てしまうものですね)に登場する女性たちの衣装も、ほぼ皆、少女趣味の極みで、まるでディズニーランドそのものです。これはアニメの影響なのか、いつまでたっても大人になりたがらない日本女性の心理がそうさせるのか、若くありたいという女心なのか分かりませんが、20歳過ぎたら、少なくとも23-24歳なら、立派な大人、プロとして働く自覚があり、それに見合った服装がありそうなものですが、揃いも揃ってシンデレラなのです。

もちろん、近くの郵便局や銀行、お店で働いている女性たちはとてもテキパキと仕事をし、素晴らしいプロフェッショナルの人たちです。彼女たちがステージに立つとき、やはりチャラチャラ衣装を着込んで変身するのかしら。それとも、全く別種の人間なのかしら、ちょっと分かりません。

人間には誰でも潜在的に変身志向があり、カーニバルや仮面舞踏会、お祭りの時に仕事着、制服を脱ぎ捨てて、普段とは全く違う衣装、化粧をして街中に出たい、ステージに立ちたい願望を実現しているのでしょう。

ファッションセンスが限りなくゼロに近いか、全く持ち合わせていないウチのダンナさんによれば、「発表会、コンサートのときのチャラチャラしたドレスが恰好悪いのは、皆自分の個性がないからで、ドレスに着られてしまっているからだ。あの娘があんなドレスを着ているから、それに負けないドレスをとアホな母親が、子供の在り方を無視して買い与えているからだ」と言うことになります。

ところが、セミプロクラスの演奏家まで、白雪姫スタイルで登場していました。先日のフルートとピアノのリサイタルでは、二人申し合わせて色違いの同じドレスで演奏しました。胸を大きく開け、肩からの吊り紐がない、ボインを売りにしている女優かタレントが着るようなドレスで、彼女たち音楽家には凡そ不釣り合なドレスなのです。第一、演奏がし難いだろうし、それにボインではなく豊かな贅肉が脇の下からあふれ出ており、腕の振袖がユラユラ揺れるのを見せられました。

彼女たちも露出過剰のタレント衣装になんだか演奏しにくそうに見えました。これがゆったりした長袖の白のブラウスにスッキリとしたスカートかスラックスなら演奏もし易いでしょうし、観る方もラクだったのにな~と思わずにはいられません。

音楽のトレーニングは長く厳しいものです。晴れの発表の場で着飾りたいことは分かります。しかし、集まってくる人は音楽を聴きに来ているので、ディズニーランドに衣装を観に来ているのではありませんよ。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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