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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第357回:ストーカーは立派な犯罪です

更新日2014/04/10



大昔、私がまだ若かりし頃のことですが、大阪近くの吹田市に古い民家を借りて住んでいたことがあります。社会人に英語を教えていたましから、授業は夕方会社が引けてからになります。そうすると、どうしても帰りは夜の9時、10時になってしまいます。

日本で身の危険を感じたことは一度もありません。それどころか、そんな夜遅く梅田の繁華街を通り、JRに乗り、吹田の駅から自宅まで帰る道々、日本はなんて安全な国なのだろうと、感心していました。もちろん、酔っ払いがワイセツな言葉を投げかけてくることもありましたし、私の人生で初めての"立ち小便"も目にしましたが、誰かが暴力を振るって襲ってくるかもしれないという不安は持ったことがありません。

唯一の例外はストーカーでした。半世紀近くも前のことですから、まだ日本に"ストーカー"という言葉さえ輸入されていない時でした。私も目立つといえば目立ったことでしょう。今では信じられないほどですが、なんせ、ほとんど腰まで届く長い金髪でしたし、なんといってもまだ21歳でしたから……。 

私が吹田の駅から家に帰る道々、誰かが後を付けてくるのです。そのストーカーさんに気が付いてから、早足で歩いたり、わざと急に角を曲がったり、遠回りをしたり、それなりの知恵を働かせました。ですが、ある夜、誰かが大きな石を私の家の玄関に投げ込んだのです。

玄関と言っても古い家のガラスの引き戸でしたから、ガラスは大音響を立てて割れ、大きな穴が空いてしまいました。その晩、猫を抱いて布団に包まり、マンジリともしませんでした。犯人はそのストーカーだと確信しています。

隣りに住む大家さんのお婆さんにストーカー、投げ石事件を報告に行ったところ、ヤセッポチで背の曲がったお婆さん、とても憤り、警察に電話をしたり、近所にオフレを出したり、私が帰るまで起きていてくれたり、必死になって私を守ろうとしてくれたのです。でも、吹田のお婆さん、ケンかになったら、私よりもっともっと弱いのにな~と思ったことを覚えています。

ストーカーは本当に卑怯な行為です。わたしも暫く後ろを気にして歩き、家に帰ってからも、安心して寝ることができなくなりました。

日本で79歳の女性に付きまとい、電話で「会わなかったら、言うことを聞かないようなら、殺すぞ!」と、ストーカー昂じて脅迫に及んだ85歳のお爺さんが逮捕されたニューズをウチの仙人が見せてくれました。

男の人はこの事件を呆れながら笑って済ませることができるでしょうけど、当人はとてもそんな心境ではないでしょう。このような老人のストーカーが、この10年で4倍に増えています。

全体から見れば、日本で2013年にストーカーは(犯罪として認定?されたものだけですが)21,089件起こり、その内60歳から70歳のストーカーは1,919件と、他の年齢層に比べ少ないとはいえ、急激に増えています。孤独な老人が増えたためでしょう。

アメリカのストーカーは、即暴力に結びつく傾向があります。犯罪による犠牲者全米機関(National Center for Victims of Crime)の下部組織、ストーカー調査機関の報告によれば、ストーカー事件の20%がピストル、ナイフなどの武器を使用した暴力事件に発展しますし、78%のストーカーはやり方にバリエーションを持たせ、後をつけるだけでなく、電話、インターネット、手紙など、他の手段も併用しています。ストーカーの30%は前科持ちだとも指摘してます。

テキサス女子大の教授、ジュディスさん(Judith McFarlane)とジョン・ホップキンス医科大学の先生、ジャックリーヌさん(Jacquelyn Campbell)は8,000人の女性、8,000人の男性を相手に、大々的な調査をした結果をまとめ、また女性が殺された事件141件についての追跡調査をしています。

ストーカー被害者の女性のうち81%が、実際のストーカーに出会う前か後に暴力を振るわれているという恐ろしい報告をしています。また、ストーカーの77%は何らかの形で被害者の知り合いで、その内、別れたダンナ、恋人のように親しい間柄だった人が38%でした。そんな彼らが暴力に走り、殺人に及ぶ割合が高いとしています。

家庭内暴力と同様に、ストーカーも警察に電話したり、ストーカー対策本部に連絡しても、お巡りさんも殺人事件に忙しく、ストーカーを後回しにしてしまうのでしょうか、 即時に対応できる体制ではありません。対応が遅れて悲劇的な事件に発展するケースも沢山起こっています。

日本のお爺さんたち、いくら淋しくてもストーカーは立派な犯罪であることをお忘れなく。 淋しくなったら、近くのデイサービスに行き、お婆さん相手に昔話に花を咲かせてください。

 

 

第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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