のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第368回:犬はかじるのが仕事?

更新日2014/06/26



アメリカには様々な"○○週間"というのがあります。新聞やインターネットで、エッそんな週間あったの! と初めて知ることも多いのです。先週は"National Dog Bite Prevention Week"(全国犬にかじられないための週間?)でした。

なんでも、アメリカで犬にかじられた人(届出があった件数です)が、なんと一昨年450万件もいたというのです。しかも、その半数は12歳未満の子供で、そのために支払われた保険金は490億円相当になり、お医者さんの治療が必要だったのは88万5,000件、その内、整形外科の手術が必要だったのは2万6,935件(2013年)もあったというのです。

これはチョットした内戦クラスの死傷者が犬によってもたらされ、それに使われたお金も小さな戦争並みなのです。しかも、それは届出があった件数ですから、実際に犬にかじられた人は、その倍くらいはいたと見られています。 

アメリカの郵便配達人は、郊外や田舎町では車を降りずに右ハンドル(日本と同じサイド)の車を器用に各家の郵便受けポストに寄せ、そこに郵便物を入れていきますが、都市部では乳母車のような3輪車を押しながら歩いて配達しています。そのような徒歩の郵便配達人はとても少ないのですが、それでも、昨年、5,581件の郵便配達人が犬にかじられています。

今、徒歩で各家庭を訪れる仕事の人たち、郵便配達人、ガスや電気のメーター検針員たちは、催涙スプレーを持ち歩いています。しかし、これまたアメリカ的というのでしょうか、うちの犬が郵便配達人やガスのメーター検針員にただ近寄っていっただけなのに催涙スプレーをかけられた、うちの可愛いお犬ちゃんがたいそうな被害を被ったと、郵便配達人たちを裁判に訴えたりする人が出てきたりして、郵便屋さんも難しい状況判断が要求される仕事になってきています。

ニワカ知識で、犬によるかじられ事件を調べたところ、その調査機関によって数値が大きく違うことに気がつきました。

"National Canine Research Council"(全国犬族調査委員会?)では、アメリカで2010年に交通事故で亡くなった人は3万5,332人、殺人は1万6,259人、それに比べ、犬による死亡はたったの? 33人で、ほかの死因に比べると、取るに足らない事故数、死亡数だと言いたげな書き方です。このような捉え方は、主に動物愛護協会寄りの団体に多く見られ、人間様よりお犬様が大切で、かじられる人の方に問題があると言うのです。

別のサイト、"Dogbite.org"では2005年から2013年までの間に283人が犬に殺されて亡くなっており、その内176件は一種類の犬、『ピットブル』よって起きています。これに同属の『ラットワイラー』を加えると、全体の74パーセントはその2種の犬、もしくはその2種を掛け合わせた犬が凶源になっています。それに続くのは、『ドイツシェパード』『ドーベルマン』で、この獰猛な4種を街中からなくせば、死ぬような大きなかじられ事件は80~90パーセントは減ると見られています。

万が一、そのような獰猛な犬に襲われた場合、よく言われているのが、自分の頭を抱え込むように身体を丸めて転がる…のが最善の方策だとされていますが、とんでもないことです。犬が飛びかかってきた時、誰がそんな体勢で道端に転がれるものですか。問題は人を襲うような犬を好んで飼う人間が後を絶たないことで、それ以前の問題なのです。それに人を襲う犬は大抵前科があり、かじりたがる傾向が顕著に出ています。

問題の解決は簡単で、そのような犬種の飼育を禁止することです。そして、かじり事件を起こした犬の持ち主は、殺人幇助、凶器保持などの罪で牢屋に入ってもらうことです。もちろん、犬は死刑です。

ウチの犬はかじらないという飼い主がなんと多いことでしょう。そんな飼い主はその犬が発情期になり、普段の躾けの良い振る舞いを脱ぎ捨て、一挙に変身することを忘れているのです。

奇妙に犬に好かれる傾向のあるうちのダンナさん、今いる島でも口にカジリ防止用のバスケットみたいなものを被せられ、見るからに人相ではなくて犬相の悪い犬までもが、彼の後を付いてくるし、終いには借りている家まで付いてきました。私の方は、何時その犬が口輪のバスケットを外してかじりついてくるのか気が気ではありませんでした。

ピットブルやラットワイラーを全面禁止にできないなら、この飼い主のように、かじる犬には口にバスケットを付けさせることを義務付けることです。ペットが人間を襲い、人間の方が殺されるなんて、あってはならないことなのですから…。

 

 

第369回:名前、ID、暗証番号

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで

第351回:アメリカの銃規制法案
第352回:大人になれない子供たち、子離れしない親たち
第353回:恐怖の白い粉、アンチシュガー・キャンペーン
第354回:歯並びと矯正歯科医さん
第355回:ローマ字、英語、米語の発音のことなど
第356回:アメリカ合衆国政府の無駄使い
第357回:ストーカーは立派な犯罪です
第358回:親切なのか、それとも騒音なのか?
第359回:ゴミを出さない、造らないライフスタイル
第360回:世界文化遺産と史跡の島
第361回:セルフィー登場でパパラッチ失業?
第362回:偏見のない思想はスパイスを入れない料理?
第363回:人種別学力差と優遇枠
第364回:"年寄りは転ぶ"~高齢者の山歩きの心得
第365回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その1
第366回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その2
第367回:アドリア海の小島"ハヴァール"から その3

■更新予定日:毎週木曜日