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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第354回:歯並びと矯正歯科医さん

更新日2014/03/20



一昔前、とまでいかなくても、ホンノ10年ほど前なら、TVや映画の女優さん、ニューズキャスターは、彼らや彼女らの話し方を聞く前に、アッ、この人はアメリカ人ではないとすぐに分かったものです。

アメリカ人以外の人は歯並びが悪く、歯の色が真っ白ではなかったからです。ヨーロッパの女優さんで、目はパッチリ、鼻筋が通り、それはそれはセクシーな唇の持ち主でとても美しい人でも、一旦口を開けると、ひどい歯並びの上にタバコのヤニで歯が茶褐色に染まっている絶世の美女がいたものです。さすがに今では皆さん矯正をし、漂白し、少なくとも人前に出る仕事の人は、皆魅力的な笑い顔でキレイな白い歯をしています。

これがアメリカですと、ブレイス(歯の矯正器具)を子供に付けさせ、歯を矯正するのは親の責任と考えられていますから、乱杭歯、虫歯だらけの歯をそのままに放っている人は、余程の貧しい家庭に育ったか、親が子供の成長に十分な注意を払わないような家庭環境だったことの証になります。

歯の綺麗さ、歯並びの良さと教養の高さは、かなりの歩合で密接につながっている…と言ってよいと思います。

アメリカでは、それだけ矯正歯科医が多く、競争も激しいのでしょうか、日本に比べとても安いとアメリカに住んでいる日本女性が言っていました。いくら安いといっても、保険が利かない矯正が、子を持つ親の懐には大きな出費です。私は4人兄弟ですが、4人の子供たちを矯正歯科医に送り、ブレイスを取り付け、兄弟全員どうにかアメリカ基準の歯並びにしてくれた親は、さぞかし大変だったろうと感謝しています。

父は薄給の中学校の先生でしたから、私たちの歯のために何ヵ月分の給料を使ったことでしょう。それだけ資本投資をした歯ですから、その後も年2回は歯医者さんに通い、定期健診を受けてメンテナンスおさおさ怠りなく、死ぬまで自分の歯をもたせようとするのは当然です。

私が長年一緒に暮らすことになるダンナさんと初めて会った時、彼の口内は見事にキンキンキラキラ輝く入れ歯で埋まっているだけでなく、前歯が一本内側に倒れ込み、歯並びなんか存在しない、誰かがでたらめに歯を口の中に植え込んだような状態でした。アメリカで赤貧洗うド貧乏な人たちでも、もっとまともな歯、口中状態だったことでしょう。

「俺たちは、食うや食わずで戦後を生き延びてきたから、歯医者なんで歯を抜く時にしか行ったことがない。それにウチは、その貧しい日本の中でもさらに貧乏だったからな~、 歯医者どころではなかったな…」と言っています。

私の家族、親類も、私が歯並びの酷い人、つまり教養がないと思われてもしかたのない人をダンナに選んだものだと、最初は思ったことでしょう。でも、やがて仙人の域に達したうちのダンナさん、「こりゃ、俺の歯だ、多少見苦しくても、見る方もすぐになじんで見慣れるさ」と乱杭歯のままです。確かに彼の同級生、皆それなりにお爺さん街道をまっしぐらに走っている年代ですが、皆が皆、とても褒められた歯並びではありません。

彼に言わせれば、アメリカ人の歯の矯正は、昔の中国の纏足(テンソク)と同じで、真っ白く人工的に並べられた歯は、まるで便所のタイルを思わせる…ことになります。

しかし、ウチの仙人がなんと言おうと、きれいな歯並び、虫歯のない歯は、外見だけの問題でなく、よく食べ物を噛む、カジルのにとても大切です。歯ざわりを味わい、食べ物を美味しく頂くためにも歯は重要です……と、なんだか歯医者さん、矯正歯科医さんのコマーシャルのようになってきましたが、このコラムを書くキッカケになったのは、日本の女子ジャンプのスーパースター、サラちゃん(高梨沙羅さん)の笑みからこぼれ出ているキレイな歯でした。

"目は口ほどにモノを言う"というコトワザがありますが、"キレイな歯は目ほどにモノを言う"のです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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