■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回~第50回まで

第51回:Vietnam (6)
第53回:Vietnam (7)
第53回:Vietnam (8)
第54回:Vietnam (9)
第55回:Vietnam (10)
第56回:Cambodia (1)
第57回:Cambodia (2)
第58回:Cambodia (3)
第59回:Cambodia (4)
第60回:Cambodia (5)
第61回:Thailand (1)
第62回:Thailand (2)
第63回:Thailand (3)
第64回:Thailand (4)
第65回:Thailand (5)
第66回:Thailand (6)
第67回:Thailand (7)
第68回:Thailand (8)
第69回:Thailand (9)
第70回:Burma (1)
第71回:Laos (1
第72回:Laos (2)
第73回:Laos (3)
第74回:Thailand 2 (1)


■更新予定日:毎週木曜日

第75回:Thailand 2 (2)

更新日2008/01/31


バンコクの格安チケット販売店で南行きの夜行バスチケットを購入し、チュンポンの町へ向かう。そのチュンポンの港から出ている小さな船に乗って、ダイビングのメッカであるコ・タオという島へ向かうのである。

夜中にバンコクを出た2階建ての立派なバスは、なかなか快適な乗り心地で、あっという間にチュンポンの町へ連れて行ってくれた。夜明け前に到着したチュンポンの港で、船の始発が出るまでのしばらくの間を港の前を流れる汚れた川を眺めながら過ごし、そこからさらに船で3時間ほどでコ・タオに到着する。

このコ・タオ、日本人ダイバーの間では知らない人がいないほど有名な島で、世界でも最も安くダイビングのライセンスが取得できる島という謳い文句でも知られている。それだけにバンコクからのバスの中も、そして島へ向かう船の中もほぼ100%が旅行者で、島で見かける人の姿も9割以上が旅行者という具合であった。バスと船の中では見かけなかったが、もちろん島には日本人の姿も小さな島とは思えないほどに見かけることができた。

バンコクの喧騒に疲れていた我々は、最初の3日を窓のすぐ下が波打ち際という静かな宿でダイビングなどせずにのんびりと過ごした。その部屋のすぐ脇にある磯からは、ルアーでアオリイカが何杯か釣れたので、それを肴に月を眺めながら飲むビールは、これまで続けてきた旅の趣とはちょっと違う楽しみがあった。

カンボジアの悪路やラオスの川下りという経験もそれはそれで面白いが、ここでの数日は、「やはり基本的に自分はこういうビーチでのんびりビールというアイランド・ジャンキー系なのだなあ」とつくづく思い出させてくれた。

この宿でのんびりとした数日を過ごした後で、少ない手荷物をバックパックに詰め直して島で一番賑やかなサイリービーチエリアの宿へと移った。遠浅のビーチに面したこのエリアは、ダイビングショップやレストランが並び、適度に賑やかで適度に静かという、アイランド生活を送るには言葉ではちょっと表現がしようがないほどに、ちょうど良い快適なバランスの上に成り立っているエリアである。

このエリアに1週間ほど腰を降ろしてシュノーケリングにダイビングという生活を過ごし、もうただひたすらに頭が蕩けそうな時間を過ごした。なにしろ宿の目の前には真っ白なビーチと真っ青な海と空が広がり、海の中では色とりどりの魚がその美しさを競い、椰子の木陰ではフレンドリーな各国の旅行者が飽きのこない旅の話し相手として待っているのだ。

おまけにレストランでは安くて旨い飯を頬張り、海風を浴びながらごろんと横になって違法コピーされたのであろう公開中の最新映画まで見ることができるのだから、これはアイランドジャンキーにとってはたまらないというものだ。もしこの快適さをアメリカ人がよくバカンスに向かうカリブの島々で得ようと思えば、おそらくこの島の5倍は資金が必要なのではないだろうか・・・。

このままでは旅を続ける意欲すら削がれそうな快適なエリアから抜け出すために、レンタルバイクをして島の裏側にある静かなラム・ティアンエリアへ移動した。この島自体はレンタルバイクで2時間もあれば全ての道を走り回ることができるほどの小さな島なのだが、先に滞在していたサイリーからラム・ティアンへ向かうには、悪路で横滑りしやすく事故も多いというのが納得の山道をバイクで越えなければならないので、バイクにあまり乗りなれていない人は、この地域へ向かうには必ず宿のタクシーを利用したほうがよいだろう。

ただ、そんな場所にあるだけに、このラム・ティアンは岬に囲まれてひっそりとした静かな雰囲気を持っており、これはこれでまたサイリーの快適さとは違った良さがあった。レストランや宿も1軒しかないために夜になると辺りは月と星が海に反射する青白い明かり以外には真っ暗闇になり、その空間にビーチに押し寄せる波の音が小さくそして長く響くのである。

こんなビーチでぼ~っと波が寄せたり引いたりするのを眺めながら、ビールを片手に過ごしていると、もうここに住み着いてしまうかとすら思えてくる。もちろん、実際にそう思う人も多いのか、この手の島には必ず長期の滞在者がいたりするものだ。

このラム・ティアンのエリアは、小さなビーチの先がサンゴ礁と岩場になっており、ダイビングをしない人でもシュノーケリングで十分に水中の世界を楽しめるようになっている。この小さくて静かなビーチで昼間からビールを飲みながら本を読み、気が向いたらシュノーケリングをしたり、釣りをしたりしながらさらにこの島での1週間を過ごした後で、コ・タオからはすぐ近くの海域に位置する観光大国タイ有数の名物アイランドのコ・サムイ行きの船に乗ることにした。

ちなみにコ・タオとコ・サムイの間にはコ・パンガンという島があり、そこでは満月の夜に薬と酒が飛び交い、朝までビーチでパーティを続けるという、馬鹿騒ぎ大好きバックパッカーの間では知らない人はいない島があるのだが、ちょうどこのコ・タオを離れる頃に満月の夜が近づいていたので、噂には聞いていても、まだそのフルムーンパーティの様子をこの目で見たことがない私は、ぜひ島へ上陸したかったのだが、エリカの、「そんな馬鹿げた狂騒に付き合う気は一切ない!」という一言によって無残にも却下されてしまった。

都会で暮らす欧米のシングル女性のバイブルとも言われるブリジット・ジョーンズの日記にも登場して、ますます観光化に激しさが増しているコ・サムイ。すぐ近くのコ・タオののんびりさが嘘のように、この島では世界中から集まるとんでもない数の観光客とその観光客相手のビジネスが盛んで、ビーチ沿いには安宿から高級ホテルまでなんでも揃っている。

もし3日だけタイのビーチで過ごす時間があるビジネスマンであれば、金に糸目をつけず煩わしい旅の手配から解き放たれて、最高の食事と最高の部屋でゆったりとくつろぐこともできるのだろうが、自分たちのように長旅を続けていて時間はたっぷりあるが金はそれほどないという人間にとっては、こういう金で楽しみも親切も買える島というのはそれほど居心地が良いものではない。

自分は筋金入りの貧乏バックパッカーというわけではなくて、貧乏な旅も贅沢な旅もそれぞれに楽しみたいと思っているような欲張りトラベラーなだけに、長期旅行を続行中にすぐ目の前でラグジュアリーホテルから出てきた客が、豪勢なシーフードレストランへ入り、のんびりビーチでオイルを塗ってもらったかと思えば、そのままどんどんオプションで料金を吸い取られるマリンスポーツを喚声を上げながら楽しんでいる姿を見せられるのは、ちょっとあまり楽しいものではないのだ。だが残念ながらこのコ・サムイは、そういう旅のスタイルにおける貧富の差を十分に実感させてくれる島なのである。

別に悪くはない条件の安宿に泊まり、それなりにおいしい西欧化された料理を安い料金で食べ、レンタルバイクをして島を一周してみたりと、まあなんだかんだで5日ほどもこの島での時間を過ごしてみたのだが、どうも自分たちにはしっくりこないままにこの島を旅立つ日がやって来てしまった。次は高級ホテルと有名シェフの味を堪能しにこの島へ帰ってこよう・・・。

コ・サムイからタイ本土へ船で帰り、そこからタイの南の端の町であるハジャイへとバスで向かった。マレーシア国境に近くイスラム系の人々も多いこの地域では、過激派のテロによって自分たちが訪れるつい数日前にも、爆破テロが起こったり銃撃戦が起こったりと何かと物騒な地域で、旅人にとってはあまり居心地がよいとはとても呼べる町ではないかもしれないが、実際のハジャイの町は他のタイの町と同じく落ち着いた雰囲気で爆弾テロが頻発し、戒厳令が敷かれている町とはとても思えなかった。

アメリカの報道などでは、イスラム=悪のように捉えられかねない内容のものが多いのだが、私の友人のアラビア人も、これから向かうマレーシアのイスラムも決して悪の権化というわけではなく、根っから親切で明るい人が多い。とにかくハジャイでの1泊はとくに思い出深い何かをしたというわけではなかったが、こんな静かな町までもがそんな物騒な騒ぎに巻き込まれているのはどうも世の中の悲しい部分である。

…つづく

 

 

第76回:Malaysia (1)