■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回~第50回まで

第51回:Vietnam (6)
第53回:Vietnam (7)
第53回:Vietnam (8)
第54回:Vietnam (9)
第55回:Vietnam (10)
第56回:Cambodia (1)
第57回:Cambodia (2)
第58回:Cambodia (3)
第59回:Cambodia (4)
第60回:Cambodia (5)
第61回:Thailand (1)
第62回:Thailand (2)


■更新予定日:毎週木曜日

第63回:Thailand (3)

更新日2007/08/30


タイ独特ののんびりとした風情を残しつつ、それでいて適度に快適な物質社会具合は、この国に入ってまだ2週間余りの我々をすっかり蕩けそうなほどに虜にしていた。この国を一度でも訪れたことのある旅人であれば、その余りに過ごしやすい「微笑みの国」ぶりに、例えそれが我々旅人の財布の中身を期待したものであったとしても、どうしてこの国がこれほどに旅人を魅了するのかという訳を知っているはずである。

おいしい食事と温水シャワーと清潔なベッドの居心地のよい安宿に別れを告げ、我々はこの町から列車で北へ数時間ほどのところにあるロッブリーという小さな町へ向った。この町は別名「猿に占拠された町」といわれ、タイの田舎町では何処でも見かけることのできるオレンジ色の僧衣に身を包んだ少年僧と同じくらいに、たくさんの猿が我が物顔で町を闊歩しているという所であった。

この町は、タイ族がこの地で栄華を極める以前から栄えていたところらしく、プラ・プラーン・サム・ヨートなど、現在も残る遺跡にはアンコール朝が勢力を伸ばした時代のクメール様式の名残がいたるところに見受けられる。その後、オランダやフランスなどとの政略抗争を経て、この地にアユタヤ朝の王が移り住んでくるに及んで、徐々に新興勢力であるタイ文化が花開いたらしい。まあそうは言っても、今現在は、猿が我が物顔で町中をうろついているという以外には、観光客にとってはそれほど魅力的な町であるというわけではないようだ。

うだるような暑さの中、タイ人の生活ペースに巻き込まれるように我々の旅のペースも緩やかなものになりつつあり、特にどこへ行きたいという目的も持たず、町の中を少し歩いては、市場や人の集まる場所へ入り込んでは、彼らの食べているものをつまんでみたりした。

タイは町並みを一見する限りはコンビニにファストフードストアと、欧米に引けをとらないとは言わずとも、それなりに東南アジアの中でも発展している方なのだが、やはりまだまだいろんな面で先進国に比べると遅れている部分もあるにはあって、特にインフラの遅れはかなりのものがあるというのが実感できる。

この夜も市場にある屋台で飯を食べていたら、突然の停電で町中の電気が消え去り、辺りは一面の真っ暗闇に陥った。我々は暗闇の中、目を細めながらゆっくりと箸をすすめたのだが、その間にも周りのタイ人はまったく動じることなく、まるで、「こんなの慣れっこだよ」といわんばかりに賑やかに談笑しながら、普段どおりに食事を続けていた。もちろん屋台の方も心得たもので、しばらくして気がつくと、辺り一帯の屋台という屋台は、用意してあった蝋燭に明かりを灯して調理を続け、その光景はそれはそれでなかなか粋なものであった。

やはりバンコクやアユタヤに比べるとここで夜を明かす旅人は少なく、この町を訪れる観光客はいても、大半は次の町への中継点くらいに考えているのだろう、ガラーンと静まり返った宿は値段も安かったが、久々に他の旅人たちの喧騒から離れて静かな時間を過ごすことができた。

…つづく

 

 

第64回:Thailand (4