■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回~第50回まで

第51回:Vietnam (6)
第53回:Vietnam (7)
第53回:Vietnam (8)
第54回:Vietnam (9)
第55回:Vietnam (10)
第56回:Cambodia (1)
第57回:Cambodia (2)
第58回:Cambodia (3)
第59回:Cambodia (4)
第60回:Cambodia (5)


■更新予定日:毎週木曜日

第61回:Thailand (1)

更新日2007/08/16


どの国でも見られる国境沿い独特の怪しい雰囲気のカンボジア側国境を越え、タイへ入国したとたんに、これまで通過してきたどの国とも違う経済的なゆとりを体感することができた。

どこまでも続くアスファルトの舗装道路と、休憩所にあるクーラーの効いた売店の中にある大型冷蔵庫に並ぶよく冷えた缶ジュースの数々。そこには日本人が慣れ親しんだマテリアルワールドがすでに息づいていた。

暮れゆく日差しの中、まるで冷蔵庫の中に閉じ込められたのかと思えるほどにギンギンに冷房されたバスの中で、これまではまったく必要としなかった薄手のパーカーをバックパックから引っ張り出して、昼間のトラック旅からは考えられないようなスムーズな路面を滑るようにバスは進み夜のバンコクへ到着した。

バスは渋滞するバンコクの市内をしばらく走った後、世界中のバックパッカーが一度は必ず通過するといわれるカオサンストリートの脇で我々を降ろした。しかし、相変わらずのカオサンの賑わいである。いや以前にも増してそこは観光客やバックパッカーの集まる、一大狂騒拠点と化していた。

カオサンから一本脇にそれた安宿に荷を降ろすと、カンボジアで過ごした貧しい食生活の不満を一気に晴らすかのごとくに路上に並ぶ屋台で、焼き鳥やラーメン、シーフードとこれでもかというくらいに次々と胃袋へ送り込んだ。

それにしてもタイの屋台というのは、その種類といいクオリティーといい値段といい、まったくもって世界に誇れるものだといつもながら思う。ちょっとしたビールのつまみやスナック代わりのものから、意外に本格的な即席タイ料理の店まで、これだけの味を一気に楽しめる屋台村というのは世界中にそうあるものではない。それに加えてカオサンには、観光客向けのキワモノ的な店もあるからさらに面白かったりするのだが。

翌日から3日ほどは、カオサンという街の雰囲気に飲まれるようにお昼くらいに部屋から這い出てきては、特に何をするというのでもなくただダラダラと本を読んだり、カフェに入って時間を過ごしたりという風であっという間に過ぎ去ってしまった。

これが2、3ヵ月に1回はやって来る長旅の疲れなのか、それともこの街の持つ怪しい魅力なのかはわからないが、ワット・ポー、ワット・プラケオ、王宮に水上マーケット巡りと、それなりに観光客らしいことをするにはしたのだが、気がつけばバンコク滞在日数はさらに10日を数えていた。

まったくもって恐ろしい、いくら予定のない気ままな旅とはいえ、こうやってひとつの街で特に何かやりたいとか、これを見たいという欲求もないままに、ダラダラと時間だけが過ぎてしまっていたのだから。これが旅人の間でいうところの沈没ということなのだろうが、確かにこんなにダラダラと過ごしていたのでは旅人失格というものである。もちろん旅人に失格も何もなく、大それた目的もなくただのんびりと旅を続けているのには違いないが、こうやって時間だけが過ぎていくというのは、やはり自分の中に流れる日本人の血が「何かおかしい」と囁いてくる。


三島由紀夫の暁の寺のモデルになったといわれるワット・アルンで、エリカと一緒に読書をしながら静かな午後を過ごしている時に、偶然再会したレイチェルとの会話で、そろそろ「旅立たなければ…」と感じた。

レイチェルとはベトナムのフエで初めて出会ってから、サイゴンで再開し、これで3度目である。以前話した時に、ほとんど同じルートを想定しているということはお互いに知っていたとはいえ、こうやって偶然の再会が続くとそれはそれで面白いものである。

普段一箇所に留まって生活していることを思えば、世界中のいろんな国で約束もせずに再会するというのはおかしな話のように思えるが、このこと自体はバックパックという旅の性質上それほど驚く偶然ではないのかもしれない。だが彼女が生き生きと語ってくれる旅の間に起こったハプニングを聞くうちに、やはり我々もそろそろこの街を出なければと思わせてくれたのだ。

…つづく

 

 

第62回:Thailand (2)