第70回:Burma (1)
更新日2007/10/18
この国境の町メイサイからは、日帰りという条件付ではあるが、ビザなしでタイからビルマ側へ入国することができた。もちろんそうと知っては、ここまで来ている以上ビルマへも入国してみない手はない。見所らしい見所もないメイサイの町は、1日もあればかなりの部分を歩いて回ることができたので、翌日の昼にさっそくこのノービザ入国システムを利用してビルマ側の町タチレクへ遊びに行くことにした。
国境の川に架かるなかなかに立派な橋を渡ると、その橋の半ばほどにタイとビルマの国境検問所があった。そこで一旦パスポートを渡し、再入国時に返してもらえるという仕組みであった。こういっては失礼だが、タイの北端にある小さな町の検問所に自分の命綱であるパスポートを渡してしまい、パスポートなしでビルマへ入るのはあまり気持ちのよいものではなかったが、そういうシステムなのだからしょうがない。
ビルマ側の町タチレクは、別に小さいというわけではないのだが、タイ側に比べるとやはり幾分古めかしい雰囲気の町並みで、道端からはそこかしこからマリファナの香りが漂ってきて、泥棒市のような薄暗い露天には先進国の動物愛護協会メンバーが見たら真っ青になりそうな、猿やその他の動物たちの頭蓋骨や骨、毛皮が並べられていた。
小さな川一本ではあるが、やはり国境というものは面白いもので、山や土地の持つ特徴はそれほど変わるわけではないのだが、そこに建つ家々の建築様式や、そこに住む人々の顔つきは明らかに別物であった。特にタイ側では見ることのできないインド系の人々がかなり多く住んでいるのには驚いた。
とにかく日帰りという条件付の入国であり、パスポートも預けたままの身であるので、それほどこの町に長居ができるわけではなかったので、一通り市場や町を歩いた後で、タイ側の町が見渡せる丘の上へ歩いていった。
そこは見晴らしもよく、静かでのんびりできる場所であったのだが、そのゆるんだ雰囲気を一気に切り裂くような状況に出会うことになった。もちろん後々で考えれば特に緊張する必要はなかったのかもしれないが、我々以外には人気のない静かな丘の上に、機関銃を持った兵士が歩いてきたのだ。
その兵士は英語ができないらしく、なにやらジェスチャーであれこれ話しかけてくるのだが、何を伝えたいのかまったく理解できなかった。機関銃を携えた手でタイ側を示したり、ビルマ側の向こうの山を示したりしながら、何かを伝えようとしているのだが、我々にはそれが、「ここに立ち入っては駄目だ」ということなのか、「タイよりもビルマの山の方が素敵だろう」ということなのかすら分からなかった。
ただ彼に敵意がなさそうだというのは、ニコニコと楽しそうな顔で我々に親しげな視線を向けていることからも感じ取れた。もちろん敵意がなさそうだとはいっても、やはり人気のない丘のうえで、機関銃を持った兵士と向き合っているというのは落ち着けるものではなかった。
好意的な彼の視線に悪いとは思ったが、彼の機嫌を損なわないように我々もにこにこと笑顔を返しながら、早々にその丘を下り、町の食堂で麺を食べて気持ちを落ち着けてからタイ側へ戻ることにした。
-…つづく
第71回:Laos
(1)