のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第194回:年賀状とクリスマスカード
更新日2011/01/27


年末から年始にかけて、日本で過ごしました。
年が明けてから、まとめて配達される年賀状をお姑さんの家で横から覗いていて、普段、音信のない人からの挨拶があり、あの人はまだ元気で暮らしているとか、孫が何人できたとか、一枚一枚読むのは一年を始めるのにふさわしい伝統ですね。

年賀状が、お正月にまとめて配達されるのは素晴らしいアイデアですし、それを実行している郵便屋さんも立派です。

西欧の国々にはキリスト教徒であるかどうかにかかわりなく、クリスマスカードを送る習慣があります。最近では、キリスト教臭さを抜くために、ただ"Happy Holiday"と書かれたカードが多くなりました。カード会社は稼ぎ時とばかり、様々に意匠を凝らしたカードを売り出します。値段もカードに封筒が20枚付き、7、8ドルのものから、1枚5ドル以上のものまでピンキリです。それに郵便切手代が必要です。私のところへは50通くらいのカードが毎年届きます。その中に同じカードが一組もないので、市場に出回っているカードの種類は何千、何万とあるのでしょう。

クリスマスカードは、送り主が投函した順に普通の郵便と同じように配達されますので、昨年の例ですと一番早いクリスマスカードは11月末に届きましたし、一番遅いのは4月になってから届きました。これは筆不精の極みの私の親からでした。言い訳がましく、「Happy Holidayを祝うのに遅すぎることはない」などと書いてありましたが、もう1年遅らせて、今年のクリスマスに届いた方が良かったくらい、記念碑的に季節外れ、時宜を逃したおかしなクリスマスカードになっていました。

年賀状が官製はがきというのもとても優れたアイディアです。印刷された、形式的な挨拶に加えて、手書きで一言近況を書くだけのスペースしかなく、「孫が生まれました」「退職していよいよ年金生活にはいります」「昨年は大病をしたけれど全快しました」「どこそこへ越しました」と、簡単に一筆、俳句のように書かれており、普段ご無沙汰している人にはそれで充分なのでしょう。

義理のお姉さんたちも、本人が出し忘れた人からきた年賀状に、懐かしみながら返信しているようで、お正月の日を年賀状をめくりながらゆったりと過ごしているのを見ると、つくづく年賀状は良いものだと思わずにはいられません。

たとえ、年賀状の半分以上がダイレクトメール的なもの、政治家からのもの、もう何年も会っていない親類や友達からのものでも良いではありませんか。

年賀状には、伝統、形式に従うことの安心感があると思います。「あけましておめでとうございます」といったところで一体何がめでたいのでしょう。毎年繰り返される決まり文句の、「今年も良い年でありますように」という紋切り型の挨拶にしても、そんなに毎年毎年、良い年になるわけがないのですが、そんな挨拶にも他の人の幸せを願う、優しい思いやりがこもっているように思います。

ウチの元日本人らしきダンナの仙人は、年賀状もクリスマスカードもほぼ半世紀一切書いたことがありません。それでいて、筆まめに手紙やメールは書くのですが、妙に伝統的形式に従うことに拒絶反応があるでしょう。 

年賀状、暑中見舞いには、日本の形式美と呼んでいい伝統が持つ安定した感覚、感情があると思うのですが、ウチのダンナさんの方はさっぱり分かっていないようなのです。

年賀状を書き、送るときにもやはり、繰り返される決まり文句の挨拶の中に、本人にとっての来年への期待、希望がこめられているのでしょう。 

年賀状は美しい日本の伝統だと思います。

 

 

第195回:カレンダーと不思議な記念日

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで

第151回:トヨタのリコール騒動
第152回:マリファナ治療?
第153回:旅の疲れか、疲れる旅なのか?
第154回:ガンを抑えるのはガン?
第155回:女の戦争
第156回:母乳と哺乳瓶
第157回:山の春とスカンク
第158回:マグロの怪
第159回:私設軍隊大行進
第160回:自由教育と放置教育=無教育
第161回:ピル公認50周年
第162回:牧場での出会いと触れ合い
第163回:金の卵と子宝
第164回:人生の卒業
第165回:スカーフ禁止令とヒゲ禁止令
第166回:アメリカでの大流行が日本に届かない!?
第167回:持てる者と持たざる者
第168回:国歌斉唱か、国歌バン唱か
第169回:自ら罪を犯したことのない者は石を投げよ!
第170回:英語の国際化か? 国際化のための英語か?
第171回:"逃げろ コルトン 逃げろ"
第172回:現代アメリカの英雄?
第173回:家庭内暴力と生理用品
第174回:タージ・マハール学校
第175回:またまた社内共通語としての英語
第176回:公務員と税金泥棒
第177回:テーブルマナーと歩き食べの習慣
第178回:ベル市のその後の顛末
第179回:インターネットの“蚤の市”
第180回:クマがでた~!
第181回:日本語教室、言葉は人、言葉は国
第182回:老人と山
第183回:私は死にたくない…
第184回:スーパー南京虫のリバイバル
第185回:不景気な世に良いショーバイ"刑務所屋"
第186回:世界の果てからモシモシ、ハイハイ
第187回:ロッキー山脈にもある交通渋滞
第188回:戦争と死刑=国家の暴力
第189回:"空から降ってきたトミー"人種偏見は人生のスパイス?
第190回:少女版美人コンテスト
第191回:ハングリースピリッツと就職難
第192回:携帯電話の文化とその弊害
第193回:山の冬、停電の夜と静けさの音

■更新予定日:毎週木曜日